「雅幸さん、僕の旦那様っていうのは……」
「俺に決まってるだろ」
 雅幸は憮然と言った。
 修平がそれに対して
「何言ってるんですかっ!さっき女将さんが、透流は僕のものだって、言ってくれたじゃないですかっ!」
 口角泡を飛ばして反論すると
「お前に番頭になってここに居ろとは言ったけれども、お前のものだとは言ってない」
 雅幸はピシリと言い捨てた。
「そ、そんなはずは」
 なおも食って掛かる修平を宗田が諌める。
「佐川さん、女将は、君にここに居て若女将を慈しんで守って欲しいと言ったんです。透流さんが若女将である以上、誰のものかといえば、この若旦那のものですよ」
 この台詞には、当の雅幸が驚いた。
 いつの間に自分の味方になったんだ?
 しかしながら、宗田は雅幸に味方したわけではなかった。たった今、目の前で透流をいいように抱いた修平に嫉妬しているのだ。たとえ、それを見るのに知らず夢中になっていたとしても、抜いてさっぱり落ちついた後では、悔しさの方がよっぽど大きい。
 その上、ここで修平に透流の旦那だとか宣言されてしまっては、三人の中で一番分が悪いのは自分ではないか。そんなことは、許せない。
「とはいえ、それは形だけのことです。透流さんの気持ちがはっきりしていない以上、私たちは今まで通り。誰が一番ふさわしいかを、これからじっくり話し合いましょう。それまでは、透流さんは三人のものです」
「上手いな……」
 と、雅幸は小声で呟いた。
 さすが年長者、亀の甲より年の功。
 透流の気持ちなど、いつまでたってもはっきりするわけが無い。
「そういうわけだから、離れてもらおう」
 しっしっと追い払われて、修平は納得いかない顔。
「もう一度、女将さんに聞いてきますっ」
 すっくと立ち上がり、部屋を駆け出した。
 雅幸は忌々しげに舌打ちしたが、女将が何と言ったところで透流と別れる気などさらさら無い。
「さて」
 宗田に向き直って
「小忙しいのがいなくなったところで、俺たちだけでも話し合いますか」
「そうですね」
 宗田は雅幸にうなずいて、その横にいる啓吾に気づいた。
「そういえば、君は、昨日来た人ですね」
 修平はすっかり忘れていたようだが、宗田は覚えていた。雅幸とワケありと踏んだ男。
 啓吾は落ちつかない素振りで頭を下げた。嫉妬に目がくらんでいたのが、透流の痴態に毒気を抜かれて、今は一見普通の青年に戻っている。 まあ、いつ豹変するかわからないのが怖いところだが。
 ともかく宗田は、この青年は上手く使えば雅幸の足かせに、いや、それが無理でも、猫の首の鈴程度の役には立つのではないかと考えた。
「ここまで付き合ったのなら、君も、この成り行きを見届けてから帰られたらどうですか?」
 宗田の言葉に、雅幸が目を剥いた。
「何、言ってる」
「毒喰らわば皿まで、ですよ」
 微笑む宗田に、
「それは使い方が間違ってないか?」
 実は国文科卒の雅幸が眉根を寄せる。
「間違ってないでしょう? それとも、他に適切な表現がありますか」
 言い返された雅幸は、袖触れ合うも他生の縁とか乗りかかった船とか、全然違うが呉越同舟とか、連想ゲームでこの場で使えそうな言葉を考えたけれど、『毒喰らわば』には勝てない気がした。
(チクショウ……後で、広辞苑で調べてやる)
 雅幸がうっかり黙った隙に
「じゃあ、俺もしばらくここに泊まります」
 啓吾はその気になってしまい、
「この時間でも、チェックインできるのかな」
 ふらりと立ち上がった。
「あっと……」忘れるところだった、と言って剪定鋏を拾う。
「マイ鋏なんです」
 見上げる宗田に、ニッコリ笑いかけて啓吾は部屋を出て行った。
「この時間、って」
 ふと時計を見ると、午前二時半。
「チェックインなんかできるか」
 雅幸が呆れた溜め息をついた。


 しかし、フロントに行った啓吾は、
「いらっしゃいませ、お客様、お泊りでございますか」
 にこやかに出迎えられた。――修平に。
「なんで、アンタ…?」
「ふふふ……」


 先ほど、もう一度女将に話を聞いてくると言って飛び出した修平は、寝ている女将を叩き起こして詰め寄った。
「透流は僕のものだって、言いましたよねっ」
 頭にカーラーを巻いたスッピン顔を見られてしまった女将は、内心の不機嫌をおくびにも出さずに微笑んだ。
「ええ。でも、そのためには本当に透流さんに相応しいかどうかの試験がありますけれどね」
「試験?」
「言いましたでしょう。若女将の透流さんを支えるのは番頭の役目。本当にあなたに番頭が勤まるのかどうか……」
「わかりましたっ!」
 猪突な修平は、女将の手を握ってブンブン振って叫んだ。
「明日から、いえっ、たった今から、番頭修業させていただきます」
 不機嫌だった女将も、この言葉には心の底から微笑んだ。
 かなり嫌な感じの『ニヤリ』という擬音が聞こえそうな笑いだが、目のくらんでいる修平には菩薩の笑みだった。
 そんなわけで、さっそくフロントに詰めている修平。
 スーツの上着を脱いだ上に、華峰楼の華の字を染め抜いた紺色の半纏を羽織ったようすは、なかなか凛々しい若番頭だ。
「それでは、こちらの宿帳にお名前をお願いします」
 修平に言われるままペンを取って、さらさらと名前と住所を書いた。
「深山啓吾様ですね」
 愛想笑いで名前を読み上げ、修平は一瞬変な顔をして、首をかしげた。
「みやま…けいご…」
 もう一度名前を呟いて、そして大きな声をあげた。
「ケイちゃん!」
「えっ?」
 啓吾は驚いて修平を見返し、その厳つい身体に似合わないつぶらな瞳に、幼い日の記憶を取り戻した。
「キュウちゃん?」


 キュウちゃんのキュウは宅急便のキュウ。
 佐川修平の『佐川』から、小学校一年生の修平は『佐●急便』とあだ名された。そのまんまだが、小学生にはありがちだ。それでキュービンとかキュウちゃんとか呼ばれたのだが、小学二年のときに修平がようやくマイホームを購入した両親とともに引っ越したため、そのあだ名も消えてしまった。
 その後、修平は透流と知り合うのだが、この啓吾もまた修平にとっては一つ年上の幼馴染みだった。
「そうか……それで、修ちゃん……キュウちゃん、本名修平だったね。変わってるから全然気がつかなかった……」
 顎に手を当て、啓吾が修平を見つめる。
「大きくなって」
「や、そりゃ、六歳の時とは違うから」
 十四から中身は成長していない修平だが、身体は立派になっている。
「ケイちゃんこそ綺麗になって、わからなかったよ」
「何、言ってる。あの透流ってのに、メロメロになってて」
 啓吾はクッと笑った。
「うん、まあ、そうなんだけど」
 今は透流に夢中だが、幼心に忘れられない思い出もある。
「ケイちゃん、あの隣に住んでいたお兄さんのこと、あれからどうなった」
「えっ?」
 忘れていたというより、記憶の奥底に封じ込んでいたものをいきなり呼び起こされて、啓吾は遠い目をした。






 あれは啓吾が七つのとき。
「カーラースー♪なぜなくのーっ♪」
「カラスのかってでしょーっ」
 小学校二年の啓吾は、自分と同じ歳の『七つの子』が大好きで、よく小学校の帰り道に大声で歌っていた。この場合の意味、間違っているが、小二だから勘違いしていてもしょうがない。
「啓ちゃん、いつも元気だね」
「あ、お兄ちゃん。こんにちは」
 啓吾の隣に住んでいるのは、大学生のお兄さん。
 綺麗で頭もいいと、啓吾のお母さんがお気に入りのご近所さんだ。
『とってもいいところに行ってるのよ、啓吾もそうなってね』
 お母さんに言われたけれど、灯台に行くと何がいいのかわからない。
(クジラさんとおともだちになれるのかしら)
 啓吾はそんな能天気な子どもだった。
「いいものあるから、うちに寄っておいで」
 お兄さんに言われて
「キュウちゃんも?」
 啓吾は手をつないでいた修平を見た。
「キュウちゃんはダメなんだよ」
 困ったように、お兄さんが言う。
「何で?」
 一年生の修平が男の子らしいきかん気な顔でキッと見ると、
「キュウちゃんは、お母さんがさがしていたからね」
 お兄さんは大げさに眉をしかめた。
「何か大変なことがお家で起きたみたいだよ、キュウちゃん」
「えっ?!」
「早く帰らないと、大変だよ」
「たいへん?」
 修平の顔が青ざめる。お兄さんは真剣な顔でうなずく。
「うん、とっても大変」
「たいへんだぁ―っ」
 つないでいた手を離して、修平は自分の家に向かって駆け出した。
 このころから、こういう性格。
「あ、キュウちゃん……」
 取り残された啓吾に、お隣のお兄さんは妖しく微笑んで、
「さあ、啓ちゃんは、僕と一緒に行こう」
 修平が離した小さな手を握った。





 お兄さんの家に入ると、
「ここに座って待ってて」
 お兄さんはリビングにある大きな椅子に啓吾を座らせた。
 そして何処からか箱を持ってくると、啓吾にはわからないものを取り出す。
「お兄ちゃん、これなあに?」
「実験道具だよ」
「実験? なんの?」
「啓ちゃんが、良い子になる実験」
「僕、良い子だよ」
「そうだね、だから、もっともっと良い子になろうね」
「うん」
「良い子」
 お兄さんは綺麗な顔でニッコリ笑うと、無邪気にうなずいた啓吾の両手を取って背中に回し一つにして、椅子の背に括り付けた。
「何するの?」
「大丈夫、痛くないよ」
「やっ、やだ」
 なんだか怖くなって、啓吾はバタバタと身体を捩った。
「じっとして、実験が失敗しちゃうでしょう?」
「だって…」
 啓吾が涙ぐむと、お兄さんはぺロリとその目を舐めた。
「きゃっ」
 啓吾が可愛い悲鳴をあげる。
 驚きのあまりに目を見開いて見つめると、お兄さんは耐え切れないように溜め息をついた。
「可愛いね。啓ちゃん」
「お兄ちゃん?」
「良い子だから、じっとしててね」
 これ以上なく優しく囁いて、お兄さんの指が啓吾のシャツのボタンを外す。
 ビックリしたままの啓吾は、このあと何が起きるのか、ただ呆然と見ていたら、あっという間に服を脱がされた。正確には、袖が抜けないのではだけられたシャツは背中と椅子の間に丸まっているが、白い胸はリビングに入る白昼の光の下に晒されてしまっている。それでも啓吾はまだ自分が何をされようとしているのかわからなかった。縛られるのは怖いが、裸になるのは日常茶飯事の小学生だ。
「どうするの?」
「まずは実験対象をよく調べないとね」
 お兄さんはメジャーを取り出して、いきなり啓吾の胸囲を測る。これは、身体測定でされたことがあるから、啓吾は「なあんだ」と笑った。
だから、裸になったんだ。
 けれども、お兄さんの指は胸の周りを測りながら、二つの飾りをくすぐるように何度も撫でる。
「くすぐったい」と言うと、
「皮膚が薄いね。桜貝みたいな色して」
 お兄さんは、指の先でそこをキュッと摘まんだ。
「あっ」
 啓吾は高い声をあげて、自分で驚いた。
(今の、何?)
 目で訊ねると、お兄さんは含み笑いして、
「いい反応だね」
 そして、指を滑らして、体のあちこちを計測といいながら撫で回した。
「あ、そ、そこも?」
「もちろんだよ」
 パンツを脱がされて、大事なところもお兄さんの指が計測をする。メジャーで細い茎を計られるときに、啓吾は
「なんか、おしっこ出ちゃう感じ」
 そう言うと、
「おもらししたら、お母さんに言いつけるよ」
 お兄さんはクスクスと笑った。啓吾はぎゅっと唇をかんで我慢した。
「よく測れないから、脚を大きく広げて」
 言われるままに開くと、お兄さんはその脚を抱え上げて、椅子の両脇に乗せてしまった。
「きゃっ」
「これで奥までよく見えるね」
 奥が何だかわからなくても、蛙のように脚を広げた格好に
「恥ずかしいよう」
 啓吾は真っ赤になった。
「可愛いよ」
 慰めるように柔らかく袋を揉みしだかれて、啓吾は生まれてはじめての感触にフルフルと震えた。





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 すべてが終わってから、啓吾はお兄さんに尋ねた。
「実験は?」
「成功だよ」
「僕、良い子になったんだね」
 成功が性交の掛詞だとは、当時小学二年の啓吾にわかるはずがなかった。






 長い回想を打ち切って、啓吾は首を振った。
「あの日、キューちゃんが僕の手を離さなかったら、僕の運命は変わっていたかもしれない」
「ケイちゃん……」
「あのお隣のお兄さん、あの後、逮捕されちゃってね」
「ええっ?!」
「もう、忘れていた過去だよ、聞かないで」
「あ、ああ……」
 啓吾の回想がわからないだけに、どう言っていいか言葉を詰まらせる修平。



 さてそんなこんなで夜が明けた次の日、この回では一行目にしか出番のなかった本編の主役透流は、またまた流される出来事に直面していた。




by もぐもぐ


        ああああ、ごめんなさい(笑)
        オーラスなんで自分の好きなエロって言うと、ショタは外せないかなと。でも、透流は中二がお初だったしなと。
        悩んだ挙句(嘘つけ!)啓吾で遊ばしてもらいました。しかも、エロ書きすぎていつもの倍。
        というわけで、隠し扉付きになりました。

        ああ、クリスマスの夜中に何やってるんだ自分(笑)  じゃあ、かじかさん、後はよろしく。


        


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