お嬢様、お嬢様。
馬を駆ってどちらへ?



白馬の軽快な足音が近付いて来ると、誰もがそちらへ顔を向けた。
まるで、太陽を求める花のように。
彼女は絵本の太陽のように、真っ赤な髪をしていた。

「これはこれは、お嬢様!今日はどちらまで?」

領主の娘は乗馬が好きで、毎日のように村の真ん中を馬で駆けてゆく。
よく世話をされているらしい、美しい毛並みの白馬に乗って。
一仕事終えて一服中の、鍛冶屋の主人の気さくな声に、鈴をふるような声音で応える。

「こんにちは、親方。今日は外れの墓地まで行くのよ。」

眦の少し上がった目は濃い茶色。
一度見たら、忘れられない強さを宿した目は、明るく輝いている。

「それは…どなたかのお参りで?」

墓地に行く理由はただ1つ。
それを敢えて尋ねるなど、失礼な気もしたが、
この令嬢と墓地がどうしても結びつかず。

「ええ、お友達のお墓参りに。花を供えに行くのよ。」

そういって少女は天を仰ぐ。
鍛冶屋は気の毒そうな顔をして、咳払いをした。

「そいつは…失礼致しました。よくないことを、聞いちまったようで。」

話の聞こえる距離にいた村人達も、同じような顔を作る。
しかし馬上の少女は朗らかに笑った。

「そんなことないわ。お友達に会いに行くんですもの。
悪いことなんかじゃないわ。
死んだら友達じゃなくなるわけじゃないでしょう?
私、そう思っているから、嬉しいのよ。」

三月前に、病で逝った友達は、その形を変えただけ。

「うちの庭園に、彼女の好きな花が咲いたから、届けに行くのよ。」



白い墓石に、この紅色はきっと映える。



「それでは皆さん、御機嫌よう!」

白馬は軽やかに走り去る。
わずかに残る緑の匂い。

村人達は少女の背中が消えるまで見送り、各々の務めに戻っていった。



お嬢様、お嬢様。
どうぞお気を付けて!
石のベッドで眠るお友達と、あまり仲良くなりすぎませぬように!

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本日のお花は「クジャクアスター」でございます。
花言葉は「ご機嫌よう」「友情」「悲しみ」「美しい思い出」「飾り気のない人」

「ご機嫌よう」といえばお嬢様!という単純思考の管理人です。
私立の女子高では、ご挨拶に「ご機嫌よう」というところが何校かあるそうですね。
優雅な言葉ですなぁ…ご機嫌よう。

馬に乗った女性って素敵だと思うのですが、いかがでしょうか。

他の花と花言葉は以下の通り↓

サルビア…「良い家庭」「家族愛」「家庭の徳」「燃ゆる想い」「知恵」「エネルギー」「全て良し」
(紫)「尊敬」

紫のサルビアって、見たことないな。

百合(ゆり)…菊と同じく、いっぱいあります。
「威厳」「純潔」「無垢」
(黄)「甘美」
(橙)「華麗」「愉快」「軽率」
(オニユリ)「荘厳」「富と誇り」
(カサブランカ)「純潔」「威厳」「無垢」「壮大な美」
(ササユリ)「清浄と上品」
(ヤマユリ・テッポウユリ)「純潔」「荘厳」

何とも西洋的な言葉が多いですね。


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