安楽椅子に揺られながら、猫を撫でている。
気持ち良さそうに目を細める、かわいい子。
長い時間を生きて、多くの人と出会い、多くの人と別れた。
「奥様!」
私の身の回りの世話をしてくれる小柄な少女が、
息を切らせながら部屋に走り込んできた。
その目に浮かんでいる涙が悲しみと戸惑いの色を浮かべていたので、
私は微笑んだ。
「…どなたか亡くなった?」
少女は立ち止まり言葉を失う。
穏やかな微笑みを浮かべても、私の目から涙が溢れる。
みんな、みんな、私より先にいってしまう。
けれどそれは、仕方の無いこと。
「奥様…、」
慰めの言葉はまだ若い彼女にはあまり思いつかないようで、
咳き込むような感じになってしまう。
私は愛する人に頂いたハンカチで目頭を押さえ、小さな彼女の頭を胸に抱き寄せる。
「悲しいわ。けれど、送ってあげることができるのは嬉しいわ。」
私より先にいく人は、みんな私に見送って欲しいといってくれた。
その望みを叶えて差し上げることができるのは、嬉しいこと。
「でも、奥様の悲しみはどんどん積み重なっていってしまいます。」
少女もまた涙を浮かべていた。
私はもう涙を流すことなく、微笑みだけを浮かべている。
「そんなことはないのよ。私が悲しむと、貴女が隣でもっと悲しむ。
そうすると、私の悲しみは消えるの。」
不思議なもので、誰かが隣でそれまで自分が抱いていた感情を露にすると、
自分の中からはその感情は消え去ってしまう。
それが悲しみでも、喜びでも。
窓から差し込む天使の階段を浴びて、私は深く溜息を吐いた。
「さあ、お見送りの準備をしなくてはね。」
私は安楽椅子から立ち上がり、金色の目を開いた愛猫をそっと床へ解放した。
少女は涙を拭いて、私に付き従う。
陽の差す廊下をゆったりと歩く。
きっとこの子はまだ知らない。
いずれは自分の方が、私より先にいくのだということを。
了
奥様はとても長生きする方のようです。
今日のお花はアゲラタム(かっこうあざみ)です。
花言葉は「信頼」「幸せを得る」「安楽」という、何ともゆったりした感じの言葉。
アゲラタムというのは「老いない」という意味だそうです。
お花の開花期間がとても長いんだとか。
そんなところからも生まれたお話。
見送るのと見送られるのはやっぱり見送る方が辛いでしょうか?
遺していくのが誰か、によりますかね。
他のお花と花言葉は以下の通り↓
ガーベラ…色々ありますがどれもすごいです。
「希望」「常に前進」「辛抱強さ」「神秘」
(赤)「神秘」
(ピンク)「崇高美」
(黄)「究極美」
(オレンジ)「我慢強さ」
究極美…をテーマに話を書いてみたいなぁ。
栗(くり)…「満足」「豪奢」「私を公平にせよ」
(何だかエラそうな言葉が多いですね)