曲芸のための靴はしなやかに足音を消す。
完全な平面である大理石の床。
空気は冷たく、天井画の色はひどく冴えている。
殆ど恋焦がれるようにここまで来た。
彼の前には今、祭壇があった。ここは神殿。
その名をあらゆる神話と聖典から消された神の城だった。
祭壇の上には赤黒い兜があった。
兜からは血が流れ、炎のように赤く床まで染めている。
血は、流れ続けている。
別たれた身体を求めて、命が流れてくる。
彼は、石の床に広がる深紅の中に踏み込んだ。
靴の裏に伝わる生命の粘り。
それは、紛れも無く彼の血であった。
彼がゆっくりと手を伸ばし、兜を持ち上げると、
血は流れるのを止めた。
バーゴネットに手を触れると、それは自然と開かれた。
中に目を閉じた男の首が在る。
「…ようやく、取り戻せたな。」
目を閉じたまま首はいった。
身体が震えるような感激はなかった。
ただ、ようやく肉体と精神の平静を取り戻せたとだけ感じた。
在るべきものが在るべき場所へ、還ってきた。
了
前へ★次へ
あわわわ。約1週間ぶりとなってしまいました。スミマセン。
あまりこういう言い訳をするのは良くないと思うのですが、
先週はお仕事の都合で更新する時間が取れませんでした。
時間はかかっても、穴埋めはしていくつもりですので!
気を取り直して、今日のお花は紫紺野牡丹(しこんのぼたん)です。
花言葉は「平静」。
いやー、何とも難しい言葉です。これをテーマに話を書く、という意味で。
何だかよくわからない話だなー、と感じる方も多いかと思うので、少々補足を。
このお話は、もう随分前から考えている物語のワンシーンを形にしてみたものです。
主人公は首無し騎士。
忠誠の証として己の首を斬り落とし、生き残った者だけが超人的な力と名誉を手に入れることができる、
という言い伝えを実践した男です。
その騎士が、ある事件をきっかけに自分の首を奪われてしまい、それを探しに行く―というお話です。
その際に、旅芸人一座と共に旅をする、というところがあったりするので、
最初のような描写が入ったのですね。
いつかきちんと書いてみたいお話その1です。
そういう話ばっかりだな私(^^;
以前、何度か別のシーンを書いたりもしたのですが、
データが消えてしまいまして…(涙)。
読んでくださった方々には割りと好評で、嬉しい限りだったのですが。
短編「夢幻の花」が関連作品として残っている唯一のものです。
よろしければ、そちらも読んでみてくださいね♪
他のお花と花言葉は以下の通り↓
木通(あけび、通草とも)…「才能」「唯一の恋」
(どちらにせよ難しいテーマでした)