4・ヒーロー戦隊になりたかったんです

長い時間を一緒に過ごしている相手ほど、知らないことがあったりするもので。
つい最近、オレはジュンから意外な話を聞いた。

きっかけは確か「シャイニング」と「ブラック・ビースト」の話だったと思う。
あの話はジュンの創作で、始まりから一方的だった。
その後、オレ達が毎日のように一緒に遊ぶようになってからも、
ジュンは律儀に毎回違ったストーリーやキャラクターを用意してきて、
シャイニング以外の全てを1人で演じきっていた。
そう、時にはヒロインまで。

「あの、何だっけ、敵の女将軍といい感じになる話…、」
「ああ!あれな!妖花将軍ブルー・ローズの話な!」
「そーそー!オレ、あれ結構好きだったよ。今考えると、よく小学生があんな悲恋もの考えついたなぁ。」

敵の女将軍が正義のヒーロー・シャイニングを陥れるため、善良な女性に変身して近付くのだが、
次第にシャイニングを心から愛するようになり、
最期は彼に真実を話して、ブラック・ビーストの手にかかって死んでしまうという、
ありがちといえばありがちな話だったのだが。

「よく考えたらジュンだったのにな。オレ、マジで悲しかったもん。」
「ふっふっふ。俺の演技力とストーリーテリングの力だな。」

幼い頃に見たテレビとか、読んだ本とか、マンガとか。
全てを覚えているわけじゃないんだけど、いくつか強烈に印象に残っているものというのがあって。
そういうもの達が、今の自分のすごく大事な部分を形作っているような気がする。

そんな話をしていた時に、ふと思いついて、聞いてみたんだ。

「なあ、ジュンはさ、結局どんなキャラクターを1番やりたかったんだ?」

そうしたらジュンは真顔になって黙ってしまった。

(あれ?)

思ってもみなかった、親友のシリアスな様子に、こっちが動揺してしまう。
どうしたんだろ。
もしかして、触れられたくない話題だったとか?

「俺は…ヒーロー戦隊になりたかった…。」

小さな声だったが、俺に与えて衝撃は何故か結構大きかった。

「え…、じゃあ、何でお前がシャイニングやらなかったんだよ!?」

実はすごい我慢してたとか?
周囲からは自分勝手なヤツだと思われているが、ジュンは実はかなり我慢強いヤツだと思う。
もしかして、本当はずーっとヒーローがやりたかったんだろうか。
オレは何も知らずに…!

「違う。ヒーロー『戦隊』になりたかったんだ。」
「…何がどう違うの?」

イマイチ飲み込めないオレに、ジュンは神妙な顔のまま語り出した。

「ヒーロー5人を全部自分でやりたかったんだがな。
さすがに同時進行は無理があると思ったのと、
1人5役では決めの必殺技が格好良く出せないことに気付いたんだ。
だから、諦めた。」

ジュンは昔から「カッコイイ」ことにかなりこだわっていた(今もだけど)。

「えと…、じゃあそれはその、ヒーローがやりたかったんだけど、
我慢して悪役をやっていた、とかじゃなくて?」
こっそりたずねるオレを、友は心底不思議そうな表情で見ている。
「何で俺が我慢せにゃならんのだ。
あとはまあ、悪役やら民間人やら、イロイロやる方が面白いとも思ったのかな。
話も考えやすいし。
自分がヒーローの立場になってしまうと、悪役のことなんて考えられないだろう。
自分がこれからどんなトラブルに巻き込まれるのか、
わかってしまったら面白くないしな。」

…やっぱり、ジュンはちょっと変わっている、かもしれない。
まあ、やりたいのにできない理由が、ちっとも深刻じゃなくて安心したけどさ。

3.に戻る5.に続く


ひとりで戦隊は無理でしょう。やってやれないこともないかもしれないけどさ。
余談ですが、このお話には別バージョンが存在します。
よろしければ、そちらも読んでみてくださいね♪


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