4・ヒーロー戦隊になりたかったんです

小学校の時に出会ったジュンと、まさかこんなに長く付き合うことになろうとは。
今、オレ達は同じ高校に通っている。
流石に高校まで一緒ってことはないだろう…と思っていたのだが、
2人共「家から1番近い高校」を選んだ結果、同じ高校になったのだ。

「そういえばさ、前から聞きたかったことがあったんだけど。」

土曜日の昼過ぎ。
授業は午前中で終わり。
オレ達は学校の側のファストフード店で、ハンバーガーを齧っていた。

「何だ?改まって。」

機械的な動きでポテトを口に運んでいたジュンが、不思議そうな顔をした。

「昔、お前の家に遊びに行った時に思ったんだけどさ。
お前って悪役好きだったのに、何で家には悪役の人形とか、1つもなかったのかなーって。」

そうなのだ。
ジュンの家にはとにかく戦隊ヒーローに関するものが豊富にあったが、
何故か悪役と思しきものは1つもなかった。

「…それは…。」

ジュンが目を伏せる。手の中の包み紙をぐしゃりと潰す。

(あ、ヤバイ。何か悲しい思い出が…。)

急変したジュンの態度に焦り、慌てて取り繕おうとしたオレを無視して、ヤツは話し始めた。

「俺…本当は戦隊ヒーローになりたかったんだ。悪役じゃなくて。
けど、その当時の俺の友達はみんなヒーローをやりたがった。
結果、ヒーローばかりが20人も30人も一同に会するという事態が発生し…、」
「いやいや、多いな!毎回そんな人数で遊んでたのかよ!?」
オレのツッコミは軽く無視して、ジュンは話を続ける。
「何とか戦隊が5組も6組もいて、敵がいないという虚しさがお前にわかるか!?
そこで、俺が悪役を買って出たんだ。
ところが、やってみるとこれがなかなか爽快でな。
もちろん、悪役だから最後は必ずやられるんだが、
最後に悪役と戦える何とか戦隊は、1組と決まってたんだ。
だから、それ以外の奴等はばったばったとなぎ倒して…フフフッ。」
遠い昔に思いを馳せ、アヤシイ笑いを浮かべるジュン。

「やっぱ変わってるなオマエ。」
ぼそっといってやると、ジュンはさも当然という顔で、
「魚の中にも、繁殖のためにオスになったりメスになったりするやつがいるだろ。
あれと同じだ。悪役がいなければ、誰かが悪にならねばならない。
それが俺だっただけのこと。」
なんていう。

…魚とは、違うよな?

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これが別バージョンです。先にこちらを書きかけていたのですが、
そのことをすっかり忘れていて、新しく書いてしまったのが先に載せた方。
お好きな話でお楽しみください(^^)
いずれにせよ、ジュンはちょっとおかしいのは変わりありません。


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