「なんでっ! 何で、相川ばっかりモテてんだよっ」
 鈴木が金切り声を出す。とうとう僕は呼び捨てになっている。
 あの騒ぎの時、鈴木は日直でいなかったのだ。けれども、後で服部が事細かにしゃべっていた。
「しかも、何で僕が相川チームで木村君たちと試合することになるわけ?」
「白石先輩が決めたんだよ」
 後藤先輩のおかげでぐちゃぐちゃになったけれど、僕と木村の勝負は残っていた。白石先輩は、
「こうなったらもうどうでもいいんだけど。まあせっかくだから、面白そうだしやってみろや」
 ずいぶん適当なことを言った。
 陸さんも反対しなかったんで、金曜の部活で一年生の紅白試合が行われることになった。僕のチーム(って、言っていいのか?)は、鈴木と服部と、あと三人。その三人のうちの二人は高校に入って初めてバレーを始めた初心者だけれど、木村のチームも似たようなメンバー構成だし、文句は言えない。何しろ今回の試合は、僕と木村のアタッカー勝負だ。
「よくわかんないけど、僕もがんばるから協力してよ」
 頭を下げると、服部は
「おう、任せとけっ」
 力強く胸を叩いてくれたけれど、鈴木はプイと横を向いた。
 あーあ、こんなんでちゃんと試合できるのかな。

 ちょっと不安になっていたところに、
「聞いたわよ、ショーリ」
 ひよちゃんが派手に登場した。
 どう派手かというと、バックにみどりやジュンや女子部の面々を従えて、まるで先週見たテレビドラマ「大奥」の春日局お渡りの図だ。

「白石に聞いたわ。ショーリ、愛とプライドを賭けた勝負をするんだって?」
 なんじゃ、そら。

 言葉も出ない僕たちに、
「私たち、こずえの味方よ。女子部あげて応援するわ」
 みどりが微笑む。
「アタッカー勝負なんだって? 鍛えてあげるわよ」
 ジュンもニッコリ笑った。
(いえ、結構です)
 と、はっきりいえる僕ならどんなに良かっただろう。
「あんた達もメンバーなんでしょ、付き合ってもらうからね」
 ひよちゃんは服部と鈴木に有無を言わせぬ迫力で言った。
「は、はい……」
(あれ?)
 鈴木の顔が赤い。服部は怯えているだけみたいだけれど、鈴木はちょっと変だ。
 そして、あまりにも唐突に、僕は初めて鈴木と話したときのことを思い出した。
『ねえ、あの時一緒にいた……』
 嬉しそうに話しかけてきた言葉の続きはなんだったのか。
 それから、
『いとこって、あの女子部のキャプテンでしょ。――かわいがられてるんだ、よかったね』
 ムッとした顔は、ひょっとして??
(鈴木、ひよちゃんのこと……)
 まさかね。いくらなんでもそんなこと。と、思ったけれど、白い顔を赤く染めた鈴木が、あれだけ嫌がっていた僕のチーム(と言っていいのか、本当に)のセッター練習をいそいそやる姿には、なんだかアヤシイ予感を覚える。

「こら、ショーリ! ぼうっとしない」
「は、はいっ」
 僕たち以外誰も居ない体育館での特訓は、三日間きっちり続いた。





 そして金曜の試合の日、体育館は異様な熱気に包まれた。男子バレー部はもちろん、女子部、そして何故かバスケ部までが僕たちの試合の見学に来ていた。
「なにこれ」
「みんなヒマだな」
 陸さんは、チラリとバスケ部の集団に目をやって
「後藤には近づくなよ」
 僕に念を押した。
「うん」
 実は、あれから何度か後藤先輩はうちの教室に現れた。けれども、陸さんに命じられている服部がそれこそ忍者のように僕の陰に付きまとい、せっせと妨害するので、二人きりで話をすることも無かった。
 僕は後藤先輩嫌いじゃないけど、でも陸さんが嫌がるなら、近寄らないよ。
 じっと見つめると、陸さんは笑った。僕の大好きな顔だ。
「楽しんでこいよ」
「そんな。僕の部活存続がかかっているんだよ」
 木村とどっちが戦力になるか試されるんだから。楽しむなんて。
 ちょっぴり緊張しているのを、甘えて告げると、
「いいから、いつも通りやればいい」
 パンと背中を叩かれた。僕はその押された勢いで、コートに走った。

 陸さんに叩かれた背中が熱い。実力じゃ木村には及ばないかもしれないけれど、陸さんから力をもらったから、勝てそうな気がした。





 
 

 なあんて―――世の中、そう上手くはいかない。
 さすがジュニアチームからの経験はだてじゃない。木村は僕の倍もアタックを決めて、ゲームは大差であっちチームの勝ちだった。それでも僕のスパイクも何度かは気持ちよく決まって、意外にもセッター鈴木との相性が良いことがわかった。球技は得意だといった鈴木の言葉に嘘はなかった。試合には負けたけれど、楽しかったよ。うん。

 それじゃあ、僕は戦力的に劣るということで、部を辞めなきゃいけなくなったかというと――
「それでは多数決で、うちの部に必要な選手は相川勝利ということで」
 投票結果を読み上げて、白石先輩が言った。
「どういうことですかっ」
 木村が真っ赤になって声を張り上げる。
「僕のほうがポイントたくさん取ったでしょう」
 白石先輩はしれっとした顔で、即席で作った投票箱を両手で揺さぶった。
「ポイント勝負なんていってないだろ。試合が終わってから『どっちがうちの部に必要な選手か公平にみんなで投票しよう』って言ったじゃないか」
「そんな……」
 無記名投票の結果は、意外にも、みんな僕に票を入れてくれていた。
「ま、わかってた結果だな」
 陸さんがクスッと笑う。
「えっ?」
「もともと、お前はうちの部で一番人気だ。去年の夏からな」
 そして耳元で、ささやいた。
「だから心配でたまんねえの」
(陸さんてば……) 


「ま、そういうことだけど、木村も手放すには惜しい人材だ。なあ」
 白石先輩の呼びかけに
「おお」
「次期エース、間違いなし」
「すごいぞ、木村」
「あのラストのスパイクには、芸術点をやりたかったな」
 先輩たちは次々に、憮然としている木村の肩や頭をなでたり小突いたりする。
「よって、二人ともうちの大戦力ということで」
「そういうことで」
 しゃんしゃんとみんなで手を打つ。木村もいつの間にか苦笑いしている。

「こうなることも、わかってたんだ?」
 陸さんを見ると、眉を上げておどけた顔を返してきた。

「なんだ、結局、試合してもしなくてもよかったんじゃん」
 大団円が気に入らないのか、鈴木が薄い唇を尖らせる。
「でも、ひよちゃんたちと練習して、楽しかったじゃん」
 僕が言うと、鈴木は顔を染めた。やっぱりアヤシイ。
 そういえば、ジュンはどうなったんだろう。ジュンと鈴木がライバルなんて、ちょっと考えたくないね。



「さ、もういいだろ、抜けようぜ」
 小声で言って、陸さんが僕の手を軽く引いた。
「あ、うん」
 いいのかな、と思いつつ、二人で部室を抜け出した。
 みんな気がついたみたいだけれど、止める人はいなかった。


「よくがんばったな」
「何が?」
「試合」
「負けちゃったし」
「関係ない。光るプレイがたくさんあった」
「ホント?」
 ちょっと嬉しくなったら、
「いや、惚れた欲目かも」
 しっかり落ちがついていた。


 懐かしの公園に向かって並んで歩いた。
「これで俺たち、公認のホモカップルだな」
「公認……」
「変に隠さないで、さっさとこうすりゃよかったんだ」
 陸さんはスッキリした顔で言った。
「いいのかな」
「うち男クラ多いから、結構あるらしいぜ。少し前の卒業生には、伝説のカップルがいたとか」
「本当?」
「俺たちも伝説になるか」
「ヤダ、そんなの」
 恥ずかしい。
 僕が即答したから、陸さんは、大笑いした。
 笑う顔が夕日に紅く染まる。僕は、その顔に見惚れて、そっと腕をからめた。
「ショーリ?」
「陸さん、大好き」
「…………」
 返事がないからそっと見上げると、
「くーっ、お前ホント可愛すぎ」
 ぎゅっと抱きしめられた。
「陸さん」
「ショーリ」
 お互いの名前を呼んだ唇が重なる。

 
 抜け出した部室から、みんなが後をつけてきていたなんて、僕たちは全然知らなかった。







どうも〜vv
なんだかずい分更新に時間がかかりました。「続 あたっくNO.1 西高編」
最後までお付き合いいただいてありがとうございます。

あいかわらずのバカップル、周り見えてない二人に、
皆様もどうか、生ぬるい(笑)眼差しを注いであげてください。

皆様のお声でシリーズ化しています。よろしければ一言お寄せください。

今回のお礼SSはただただ「ヤリてえ」と心で叫んでいる陸くん視点。
こずえ視点から比べたら、てんでガキです。
やっぱり恋する乙女には、どんな奴でも王子様に見えるという話。
現在公開しています。

  

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