ご感想いただいた方へのお礼SSでした。ありがとうございました。
「あ、陸さん…っ」 「隠すなよ」 「んっ、だって……」 ショーリは恥ずかしそうに首を振ると、両腕で顔を覆った。俺はその腕をのけると真っ赤に染まったショーリの顔じゅうに唇を押し付ける。 「ふ……あ……」 苦しそうに咽をそらして、ショーリは喘ぎながら俺の背中に腕をまわす。 「陸、さん……好きっ」 さっきまで恥らっていたショーリが、耐え切れないようにしがみついてきて俺の腹に腰を押し付ける。勃ち上がったそれに手を伸ばすと、 「やぁ…っ」 ショーリは可愛い悲鳴をあげて、潤んだ瞳で俺をじっと見る。俺の大好きな顔だ。 「もうこんなになって」 「あ、ん…」 「欲しいか」 「ん……」 「言えよ」 羞恥と欲望の混ざった顔。最高に色っぽいショーリが俺の耳元でささやく。 「欲し…っ…陸さんの……」 「広海、ご飯できたわよ〜っ」 「うわっ」 「お土産のたこ焼きもあるから早く来なさい」 「わかった、今行くから」 今行くから、部屋には入って来んなよ、ババア。 俺は慌てて右手をティッシュで拭った。チクショー、最後ババアの声とともにフィニッシュしちまったよ。 憮然としてりビングに行くと、白飯の隣にたこ焼きと漬物が山のように並んでいた。 「たこ焼きもあるって言うより、たこ焼き『が』あるが正しいんじゃねえか。おかず、たこ焼きと漬物だけかよ」 「あら美味しいのよ、このお漬物」 「大阪の人は、たこ焼きをおかずにご飯食べるそうだぞ」 大阪に転勤した兄貴の様子を見に言ってきた親父とおふくろは、能天気に笑った。 「デザートは『おたべ』よ」 「…………」 俺は黙って、席についた。 ああ、昨日の夜はここでショーリと二人でメシ食ったんだよな。楽しかったな。新婚さんみたいだった。チクショー、この二人が帰ってこなけりゃ、もう一泊させられたのに。 (そして……) 昨夜の初エッチを思い出して、俺の下半身は出したばっかりだと言うのにまた疼いた。 ちーっ、たこ焼き食いながら勃起すんな、自分。 ショーリを家に返してから、俺は、どうにもおかしくなっていた。ショーリが傍にいるときは、自制心(カッコつけとも言う)でなんとか、普段通りに出来ていたが、ショーリがいなくなったとたんに「またヤリたい」「すぐヤリたい」と言う飢えにも似た感覚におかされている。 やべえよ。 「はあ」 月曜の朝、俺は明け方見た夢を思い出して、少々落ち込んでいた。夢の中の俺は、自分がオカズにして妄想していた以上にえげつない事を、ショーリにやっていた。どんな夢かは、とても言えない。あれじゃ、変態だっつの。 「何だよ、広海、らしくねえため息」 「あ?」 「土曜日、上手くいかなかったのか?」 声をひそめる敏樹に、 「バぁカ、大成功だよ」 キッと睨んで応えてやると、 「いやン、大性交」 敏樹はカマくさくクネクネと身体をくねらせた。 「アホか」 「でもそれにしちゃ、浮かない顔だな」 「あー?」 「なんかあったのか」 「なんもない」 何もない。ただ、自分の暴走する下半身が恐ろしいだけだ。今まで、女とやったあとには、こんな風にはならなかった。初めてセックスってのを知ったは中三の時だけど、そのときも気持ちいいとは思ったが、こんなに切羽詰った状態にはならなかった。 こうしている今だって、ショーリの顔を思い出すと、トイレに駆け込んで抜きたくなる。俺は、猿か。ケモノか。 「なあ、広海、ホントおかしいぞ、お前」 「あ?」 気がつけば、敏樹が不気味なものを見るように俺の顔をのぞき込んでいる。 「大丈夫か」 「大丈夫」 そう応えたが、大丈夫じゃないとわかったのは、その日の部活だった。 どうして、バレー部のユニフォームは短パンなんだ。 今まで一度だって思わなかった問いを、胸のうちでつぶやく。 ユニフォームに着替えたショーリが体育館に入ってきた。産毛の薄い、きれいに筋肉のついたカモシカのような足。スベスベした太もももあらわに。 (あの内股にむしゃぶりつきたい……) って、しっかりしろ、俺。 「キャプテン、僕もサーブ見てください」 白いボールを胸に抱いてショーリが俺を見上げる。 (可愛い…っ) その顔は、反則だろう。このままここで押し倒しそうになる。いや、ここはマズイから、体育用具室に押し込んで、埃くさいマットの上で――だから、しっかりしろ、俺。 「敏樹、相川のサーブ、付き合ってやってくれ」 敏樹に助けを求めた。 ショーリが目を瞠る。どうして? と言うように俺を見る。 すまない、ショーリ。俺は今、自分の自制心に自信がないんだ。 「お前、ホント、最近変だぞ」 敏樹が呆れたように言う。 「相川の練習、全然見てないじゃん」 「敏樹、何も言わずにしばらくショーリ、相川を、預かってくれ」 「はい?」 「慣れれば……なんとかなると思う」 「何言ってるんだ」 「なあ、死ぬほどの咽の渇きってのは、水を飲んで初めて気がつくことってあるんだよな」 「はい?」 「でも、だからってガブガブ飲んじゃダメなんだ」 俺の場合、相手もあることだし。 「ちょっとずつ飲んで、慣らしていこう」 「センセー、陸くんがオカシイです〜っ」 ふざける敏樹の頭をポカリと殴って、俺は立ち上がった。 「あ、そうだ。前に敏樹が教えてくれたラブホ、泊まるといくらだって言ってたっけ」 週末のために、金おろして来よう。二時間程度じゃ、おさまんねえ。 「へ? ああ、たしか……」 「何だよ、ホテルさがしてんのか」 偶然通りかかった石塚がニヤと笑った。 「この週末なら俺んち二千円で貸してやるぜ」 「マジ?」 石塚は、実家が山梨で西高には下宿で通っている。実は、前に安恵と付き合っていたときにもラブホ代わりに部屋を借りたことがある。 「俺、金曜から旅行行くからさ」 「貸せ、いや、貸してください、石塚様」 「ふほほ、くるしゅうない。よきにはからえ」 「ははあっ」 今日の帰りに薬局寄ろう。前に秀志に教えてもらった潤滑剤を買いに。 そして、二回目のエッチ。がっつく自分を抑えつつ、いや、結局抑えきれず、部屋に入るなり押し倒した。布団を敷くのももどかしく、ショーリを裸にむいていく。しかし、夢の中では散々ひどいことした俺だけれど、やっぱり現実のショーリには無茶出来ない。潤滑油で丁寧にほぐして、その間も身体中キスして、そう、妄想していた内股にもキスマークつけて、 「ショーリ……好きだ」 「陸さん、っ」 ああ、やっぱり本物はいい。 「ショーリ、バレー部やめないか」 ついポロリと出た言葉だった。 ショーリとのセックスがあんまり良すぎて「徐々に慣らしていく」なんて出来ない気がした。明日も抱きたい。明後日も抱きたい。部活で顔を見たら、また押し倒しそうな自分と戦うはめになる。でもその一言で、ショーリがここまで怒るとは予想外だった。 「悪い、今のなし」 「だから、悪かったって、ゴメン」 謝ったけれど、 「帰るっ」 怒って飛び出していった。ああ、もう、何でわかってくれないかな、俺の事情――って、わかるわけないか。 「言ってもくれなかったらわかるわけないじゃん」 そのとおりだ。 でもな、そのまんま言うのもかっこ悪いだろ。 お前、俺の「クールで男らしいところが好き」って言ってくれたじゃん。 「二つしか違わないのに、大人で落ち着いているところがカッコイイ」 って、言ったろ。 本当の俺は違うんだよ、猿なんだよ、ケモノなんだよ。 チクショー、どうすりゃいい。 しかし、そんな悠長なことは言っていられなくなった。 「陸さんなんか嫌いだ。僕、バレー部辞める。バスケ部に入るっ」 フジスポーツでショーリに叫ばれた時、目の前が真っ白になった。 「何言ってるっ」 条件反射で叫んだけれど、頭の中は動揺しまくり。 店を飛び出したショーリを追いかけることすら出来ず、敏樹に揺すられるまで、俺は呆然と佇んでいた。 何が悪かったんだ。 色々考えたけれど、結論は一つだ。 俺が悪い。 猿並みの自制心しかなく、そのくせカッコつけで、ショーリのことを苦しめた。 ショーリに本当のことを言おう。俺はどこでもお前のことを押し倒したがっているケダモノで、そんな自分が怖くて、部活では避けてしまったと。 月曜日、部活の前に呼び出して謝ろうと思っていたのに、昼休みに教室を出た俺の前に、一年の服部が駆けつけてきた。 「い、一大事でゴザル」 ショーリと同じクラスのこいつの、このしゃべりは別にふざけているわけじゃない。必死の時にも思わず出るらしい。 「あ、相川が、バスケット部に連れ去られて」 「何だとぉっ」 そしてショーリを助けに行った俺は、バスケ部の連中の前で衝撃の告白をして、その勢いでバレー部でもカミングアウトした。言ってしまえば、大したことない。俺にとっては、俺がショーリを好きだっていうのは恥ずべきことない事実だから、大したカミングアウトじゃない。それよりも―― 「俺は、お前が思っているほど大人じゃないし、落ち着いてもない。お前見るとエロいことしか考えなれない、やりたい盛りのガキなんだよ」 ショーリに言ったこれのほうが、勇気が言った。 でも――― 「……僕も、陸さんとやりたい盛りのガキだよ?」 ショーリは、真っ赤な顔でそう言ってくれた。 チクショー! 本当に可愛いぜ!!!! 後藤の宣戦布告とか、不愉快な問題も出てきたが、俺はショーリを誰にも渡すつもりはない。 |
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