「ほら、足閉じるなよ」
「だって」
「閉じたら、入らねえじゃん」
 陸さんの左腕が僕の腰を抱きかかえるように高く持ち上げたから、
「やだやだ」
 僕は、亀のようにジタバタと這って逃げた。
「逃げんな、コラ」
「もうやだ、できないよぉ」
 僕は、シーツをつかむとその中にもぐりこんだ。
 陸さんはそんな僕の態度に、大きくため息をついた。


 僕たちがベッドに入ってからはや一時間。その間何をしているかというと、ただただ僕のお尻にオロナインを塗りこむ作業をしている。一度だけ陸さんのアレを入れようと試みたものの、全然入らなくって、
「まだ固いんだな」
 再度、ほぐすことにした。でも、一言でほぐすって言ってもそんなに簡単なものじゃない。指は何とか二本入ったけど、陸さんのアレは指の何倍もあるんだから、指が入ったからってそう簡単に入る訳ないじゃないか。
「無理だよ」
 僕は、シーツに顔を押し付けた。
 恥ずかしいのと、悔しいのとで、涙が出てきた。恥ずかしいのは、さっきから変な格好を陸さんの前にさらけ出しているからなんだけれど、悔しいのは、初めてのエッチなのに全然うまくいかないからだ。
「ショーリ……」
 うつむく僕の頭を、陸さんがそっと撫でてくれた。
「ゴメン」
「陸さん?」
 いきなり謝られて、僕はビックリして顔を上げた。
「無理させて悪かったな」
「あ、ううん」
 別に陸さんが悪いんじゃないよ。

 陸さんはオロナインのついているほうの手をシーツで乱暴に拭うと、
「もういっぺんシャワー浴びて、ゲームでもしようぜ」
 勢いよく立ち上がった。
「えっ」
 ち、ちょっと待ってよ。
 確かにやだって言ったけど、無理って言ったけど、でも本当にやめちゃうとは思っていなかった。
「お、陸さん、大丈夫だよ。もう一回、やっていいよ」
 シーツに丸まったまま呼びかけると、
「無理すんなよ」
 陸さんは微笑んだ。
「俺、先に浴びてくるから」
 部屋を出て行く陸さんの後ろ姿を見送って、僕は
(なんか、マズイ) 
 むちゃくちゃ嫌な予感に襲われた。初めてのエッチを失敗するなんて。

「陸さんっ」
 慌てて、あとを追いかけた。
 お風呂場に飛び込んで、シャワーを浴びていた陸さんの背中に抱きついた。
 陸さんが驚いて振り返る。
「ごめんなさい。僕、大丈夫だから」
「ショーリ?」
「できるから、続きしよう」
 必死になって言うと、
「バカ」
 陸さんは、僕の濡れた頭をクシャッとかきあげて、
「ンな顔して、誘うなよ」 
 ギュッと抱きしめてくれた。
 裸の胸がくっついて気持ちいい。陸さんの手が背中を滑ると、ゾクッとしびれが走った。
「あ…」
「ショーリ」
 お腹に当たる陸さんのアレが固くなっているのを感じて、僕のも固くなった。陸さんの唇が近づいてきたので、僕は目を閉じた。
(なんか、いい感じ)
 そう、さっきまでベッドの上でやっていたのはエッチというより作業で、だから恥ずかしいばっかりだったんだけど、こうやってキスしてもらうと――
「んっ、ん……」
 身体がホワンととけていく。

 陸さんの右手が、わき腹を滑って胸を撫でる。
「んっ」
 乳首の先を弄られて、僕はキスしたまま陸さんにしがみついた。いつもならシャツをつかむところだけれど、今は裸だから陸さんの背中に爪を立てる。
 陸さんは僕の口の中から舌を抜くと、そのまま首に這わせて、鎖骨にキスして、そして弄っていない方の乳首を舐めた。
「ひゃ」
 思わず声をあげると、陸さんは小さく笑って、尖った先を転がすように舌ではじいた。
「あ、や、やだ」
 やだって言いながら、両手で陸さんの頭を抱きしめてしまった。陸さんは調子に乗って舌と指で僕の乳首を攻めたてる。
(気持ちいい…っ)
 ここがこんなに感じるところだなんて。
 両方の胸の先から全身にしびれが走って、僕は足が震えて立っていられなくなった。
「ダメ…ッ」
 しゃがんだら、陸さんも一緒にしゃがんだ。浴槽の縁に背中を預けて、はあはあ言う僕を見て、真面目な顔で言った。
「今なら、いけそうな気がする」
「え?」
 陸さんが、僕の足を大きく左右に開いた。
「あっ」
 自分の勃ちあがったムスコを晒されて、恥ずかしくて慌てて閉じようとしたけれど、その前に足の間に陸さんが入り込んでしまった。左手でゆっくりと僕のソレを包み込んで、
「あんっ」
 右手の指は後ろの穴を探る。
「お、陸さんっ」
 サオをこすられて、僕は足の指に力を込めた。
「イっちゃうよ」
 すっごく早くて情けないけど、さっきの乳首攻めでもう限界にきてたんだから。
「うん、いけよ」
 陸さんの男らしい顔が間近でそんなこというから、
「ううっ」
 僕はあっという間に白い物を吐き出してしまった。
 グッタリとしたところを狙ったように、陸さんが僕の身体を抱えてひっくり返した。
「あっ」
 指が僕の薄いお尻の肉を広げる。そして
「いっ、痛っ」
 いつのまにか、陸さんのアレが僕の穴に突っ込まれている。
(いた、いたたたた……)
 僕は浴槽の縁にしがみついて、グッと痛みをこらえた。ここでできなかったら、またさっきと同じになっちゃう。 
「痛いか?」
 陸さんが、心配そうに訊ねる。
「ううん……大丈夫」
 僕は首を振った。本当はものすごく痛いけど、我慢だ、我慢。
「もう先っぽは入っているから」
 ええっ、まだ先っぽなの。
 改めて、陸さんの大きさを実感。身体が大きいんだからしょうがないよね。でも、
「んっ、んんっ」
 かなり苦しい。
「辛いか?」
 大丈夫。
 声が出せなくて、首だけ振った。
 陸さんの手が、僕の小さくなってしまってる前を握った。
「んっ…」
「悪い、もう少しだから」
 なだめるようにゆっくりと揉まれて、ちょっと身体の力が抜けた。そこで、
「ああっ」
 ズンと奥まで入ったのがわかった。
「入った」
 陸さんがため息混じりに言った。
「入った?」
 背中越しに振り向いたら、陸さんの照れたような顔があった。
「うん、ほら」
 そっと手を取られて、指で確認させられた。
 恥ずかしいけど、じわじわと嬉しくなった。痛みももうあまり感じない。
「動いても大丈夫かな」
 恐る恐るといった感じの陸さんが、何だか、かわいい。
「たぶん」
「じゃ、ゆっくりな」
「んっ、んっ」
 陸さんの抜き差しにあわせて、また声が漏れてしまう。けれども、もう痛みだけじゃなかった。感じるとかそんなのはわからないけど、さっきの陸さんの顔を見たら、嬉しくて幸せで、こうして陸さんが動いているのも僕の中で感じてくれているんだと思ったら、それだけで僕もまたイっちゃいそうなくらい身体が熱くなる。
「くっ…」
 くっとか、うっとか、陸さんが小さく漏らす声も僕を煽る。
「陸さんっ」
「ショーリ」
 陸さんの手が、僕の前を激しく擦りあげる。
「いく、から」
「う、うん…」
 僕が射精するのを待ってたみたいに、少し遅れて、陸さんは僕の中で果てた。
 陸さんの胸が背中に覆い被さる。その温もりに僕は、泣きたいくらい幸せな気持ちになった。





「とにかく、初合体が上手くいってよかった」
 夕食を食べながら、陸さんが言った。
「合体って」
 合体ロボじゃないんだから。
「最初はもうダメだと思ったからな」
「うん」
 確かにそうだった。僕はお箸を咥えてうなずいた。
 陸さんは、レンジで温めた唐揚げをパクつきながら
「やっぱり、いきなり塗り込みから入ったのが敗因だったな。もっと気分盛り上げるところから始めないと」
 まるで試合の後の反省会みたいなことを言っている。
「ショーリが風呂まで追いかけて来てくれてよかった」
 ナイスファイト! とか言われているみたいで、ちょっと笑ってしまったよ。
「陸さんって、やっぱりキャプテンって感じ」
「は? 何だ、そら」
「ふふ……」
 そしてふっと服部のことを思い出した。
「そう言えば、服部が靴を選ぶのに」
「ああ、そういや付き合って欲しいって言われたな、来週」
「行くの?」
「ああ、いつも行ってるフジスポーツのおばちゃん紹介してやろうと思って。あそこが一番品揃えいいからな」
「ふうん」
「なんだよ、心配か?」
 陸さんがニヤニヤ笑う。
「まさか」
 相手は服部だよ。さすがにそんな心配はしないと言いかけたけれど、
「まあ、鈴木も行くけど、敏樹も一緒だしな」
 陸さんの言葉に、口に運びかけていたコップを置いた。
「ショーリも行かないか?」
「う、うん」

『僕は行かないよ』
『シューズはもう買ってあるしね』

 鈴木、そう言っていたのに。
 陸さんと一緒だから、行くことにしたのかな。

 なんだか胸騒ぎ。










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