キーワードしりとり第八回お題  ワイドショー

                           by もぐもぐ



その日の放課後。太刀川の所属する科学部の部室。
「なにいっ、十八号までやられてしまったとうっ」
知らせを受けた太刀川は、大げさな身振りで悔しがった。
「おの〜れ、一瀬 智」
「なんだか、戦隊モノの悪役みたいだね」
突っ込んだのは、松野だ。太刀川に誘われて、部室でお茶をご馳走になっている。
「なんだ、お前、そんなテレビ見てるのか」
「ううん、僕はテレビはワイドショー派」
「派?」
「知ってる? 去年の紅白、史上最低の視聴率だったんだって」
「いつの話だよ」
今は七月のはずである。
「それより、太刀川、それなに?」
松野は太刀川の持つラジオのようなものを指す。
「無線機だ。一瀬を狙う二十七人の刺客に持たせている。これで刺客と一瀬の行動が手にとるようにわかるのだ」
「何でそんなもの。山奥じゃあるまいし、携帯の方が便利なのに」
「…………」
もっともだと思ったけれど、素直にはうなずけない。
「ばっ、馬鹿野郎! 悪の組織が携帯で連絡取り合ったらカッコ悪いだろう」
「それは、太刀川の着メロがいまだに『地上の星』だから?」
「悪かったな。好きなんだよ、あの曲が。プロジェクトやりあげてるって感じだろっ」
「これも、プロジェクトなんだね」
「そう、一瀬を松野とくっつけて、一瀬に失恋した譲原を俺が優しく慰めてやる……略して、I M K I S Y O…」
「長いって」
スズッと番茶をすすって松野が言った。
「ねえ、それより僕の作ったなぞなぞ…」
「太刀川先輩大変ですっ」
松野の言葉は、部室に飛び込んできた生徒の言葉に打ち消された。
「何だ?」
「一瀬 智と譲原 晶が仲良く下校しています」
「なんだとっ?」
太刀川は目をむいた。
「なんで、あの二人が……」
十七番、十八番の刺客が敗れたことは聞いていたけれど、その場に晶がいたことまではきいていなかった。まあ、高校生の報告なんてその程度だ。
「あいつは、ラスボスのはずなのに……」
「っていうか、そのことをあの晶くんは知ってるの?」
もっともな質問に、太刀川は首を振った。
「いや」
「何考えてんの?」
呆れる松野。
「俺の予定では、二十七人に襲われてさすがにボロボロになった一瀬を、譲原に襲わせるつもりだった」
「どうやって?」
「一瀬は、自分を倒した男と付き合うと言ってる…とかなんとか……」
「時代物の、男勝りの姫が言いそうな台詞だね」
もう一度松野は番茶をすする。少しさめているので細い眉をひそめた。
先ほどの生徒が慌てて新しいお茶を持ってくる。
「あ、今度は紅茶にしてくれる」
「はいっ」
カップを持って出て行く下級生の後ろ姿を見送って、松野は太刀川に視線を戻した。
「で、その作戦も、晶くんが智に近づいたらすぐバレるし、使えないじゃない」
「う、迂闊だった……」
ガックリと床にひざをつく太刀川。
「一応あの時から、譲原と一瀬を会わせないように画策はしていたのだが」
あなたは、もおお…♪忘れているかもしれないが、第一回で晶の言っていた『あからさまな妨害』とは、このことだ。
「ああ、智がこの前襲われたときに、偶然通りかかってね、そこで知り合いになってるんだよ。僕もそこにいたんだけれど……あれ? この話言わなかったっけ?」
「聞いてねえよ」
「でも、わざわざ君を訪ねて色々聞きに来たくらいなんだから、晶くんが智に急接近するくらいのこと予想がついたでしょ?」
「いや…譲原は、すぐに好きな相手のところに飛んでいけるようなやつじゃない。アイツは、大人しくって恥ずかしがり屋で……好きな相手の名前をノートに書いては消しゴムで消すようなヤツなんだ」
「ふうん…じゃあ、そんな彼が変わってしまうくらい、真剣な恋なんだね」
「うっ…」
があああん……
ショックを受けた太刀川に、松野はいきなり
「あ、今、なぞなぞ思いついちゃったよ。いい?」
美貌で微笑んだ。
「コイはコイでも、食べられない酸っぱいコイは何だ?」
「…………初恋」
「ぶぶ――っ」
ガックリと肩を落としている太刀川に、松野はにこやかに言った。
「答えは、腐った鯉です」



そしてその頃、並んで校門を出た一瀬と晶。
「なあ…」
「う、うん…」
話し掛けられた晶は、緊張している。保健室の一件から、結局、五時間目も六時間目もサボってしまって、二人で帰ることにしたのだ。
「お前、俺のこと、守るとか言っていたよな」
「うんっ」
晶は、両手の拳を握り締めた。
「お、俺、あんまり喧嘩は強くないけど、でも、俺が一瀬を守ってやるから」
晶は真っ赤な顔で言った。
決心したのだ。一瀬を守るために勇気を出すと。
そして本当なら話し掛けることすらためらわれていた一瀬と、こうして並んで歩けている。
「俺……強くなるから……一瀬のために」
夕陽を見つめて晶は言った。そう、真っ赤なのは夕陽のせいもあった。
決して精悍とはいえない、どちらかというと童顔の、晶の横顔がほんの少しだけ男らしい。
「譲原……」
一瀬は、胸がきゅんと苦しくなった。
「うっ」
思わず胸に手をあてると、
「いっ、一瀬っ? 心臓っ??」
晶が、怯えた声を出した。
「発作っ? 大丈夫っ? く、薬はっ?!」
お前何言ってんだと言いたいのに、必死にすがりつく晶が可愛くて、一瀬は思わず抱き締めていた。
「えっ?」
驚いて固まる晶。

その時、突然声がふってきた。
「おアツイねぇ」
「暑中お見舞い申し上げますだねぇ」
十九番目と、二十番目の刺客がそろってやって来たのだ。
「お、お前らはっ?!」


        キーワードしりとり第九回お題  商売繁盛


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