ご感想いただいた方へのお礼SSでした。
二葉編。
「二葉ぁ、竹本君から」 夏休み中、毎日と言っていいほどかかってくる電話にちょっとうんざりしたように一華が言った。 「いったい毎日、何、話してるの?」 受話器を渡しながらの一言は、光樹にも聞こえたらしい。 「もしもし」 出たとたん、 「だから、携帯持てよ」 光樹が言った。 「光樹だって、持ってないだろ」 「二葉が持つなら、俺も持つよ」 うちは、親が許してくれない。 一華が携帯なんて無くても生活できるとか宣言しているから、俺が携帯電話を手にするのは、ずっと先だろう。 そう、自分で電話代まで払えるようになったとき。 俺が黙ってしまったので、光樹は慌てたらしい。 「あ、でも、別にいいんだ、どうでも。こうやって話できるし、学校始まったら、またずっと一緒だし」 「まあね」 俺がクスッと笑うと、 「二葉、今から、俺んち来ない?」 光樹が誘ってきた。 「来いよ、なっ」 何だかいつになく強引だ。 「いいけど?」 「じゃ、待ってるから」 「うん」 待ってるという一言が嬉しくて、俺は大急ぎで着替えると、家を飛び出した。 光樹の家まで、自転車なら二十分もかからない。 俺が、玄関のチャイムを鳴らすと、光樹が飛び出してきた。 「あがれよ」 「ああ」 いそいそと俺をリビングに案内する光樹。 そこにあるソファは、初めて俺が光樹と寝たときのもの。あのときの自分の気持ちを思い出すと、恥ずかしくてたまらない。 勝手に勘違いして、泣いてたんだからな。 そのソファに座るのは落ちつかなくて、ウロウロと部屋の中を歩いて、意味も無くサイドボードに置かれた空の花瓶の中を覗き込んだりしていたら、光樹が紙袋を持ってきた。 「実は、俺、あのビデオ見たの、兄貴にバレちゃってさ」 「かぐやに?」 最近じゃ、もっぱら呼び捨て。密かに、この名前が気に入っている俺。 「うん……で、買い取れって言われてさ」 「はあ〜? だって、一回見ただけだろ?」 いや、一回じゃないかも知れないけど。 「うん…」 「相変わらずだな。まあ、買うほうも買うほうだけど」 紙袋の中身は、例のAVのようだ。 「うん…」 「で、いくらだったんだ?」 光樹は答えない。っていうか、さっきから様子が変だぞ。 「……それがさ、ちょっと高くって…なんでかって…おまけ付きとか言って……」 「おまけって何だよ?」 俺が首をかしげたのを合図のように、光樹は紙袋から、もう一つ何かを取り出した。 白い布?着るもの? 「それ、もしかして……」 俺は、光樹の手の中のものをじっと見た。 「うん…」 ――――セーラー服。 「なっ、着てみてくれよ」 光樹はさっきまでの様子を一変し、突然積極的に攻めてきた。 「やだよ」 冗談じゃない。 「別に、これ、本物じゃないんだぜ、コスプレ用」 「だからなんだってんだよ、嫌なのに変わりねえよ」 「スカートはけなんて言わないから」 「もともとスカート無いだろ」 「せっかく、買ったんだからさ」 光樹は白い上着を押し付ける。 セーラーカラーには紺色の一本線。どっかの女子高の制服に似ていなくも無い。 でも例え上着だけでも、なんでそんな格好俺がしなきゃいけないんだ。 「嫌だっつったら、ぜっったい、やっ!!」 むきになって大声出したら、光樹はビクッと固まった。 そして―――― ショボーン そういう擬態語が聞こえてくるような、寂しい表情。ガックリ肩を落としてまつげを伏せた。 男らしい顔しているくせに、こんな時は、子供になる。 俺は、ちょっと胸が痛んだ。 「あ…」 「ゴメン」 光樹はポツリと言った。 「そうだよな、俺、調子に乗ってた」 「光樹?」 「二葉が、俺のこと好きだって言ってくれたから、なんか、さ」 う……なんだよ。その顔。 「二葉だって男なんだから、こんなの嫌だよな、ゴメン」 何で、俺の胸が痛むんだよ、ずりいぞ、光樹。 「二葉が着たら、可愛いだろうなって、思って…」 ゴソゴソとセーラー服を紙袋に戻す。 「ち、ちょっと待てよ」 「え?」 「それ、えっと、いくらだったんだよ」 かぐや兄貴は、いったいいくらふっかけたんだ? 値段を聞いて、仰け反った。 バイト二日分だ。 「ば、ばか……」 「うん…ごめんな、二葉」 そう呟いて、すごすごとしまおうとする光樹の手から、その紙袋を奪った。 「二葉?」 「もったいねえから着てやるよっ」 俺の顔は、火を噴きそうに熱くなってる。 目の前で着替えるのもはばかられて、光樹の部屋に行くことにした。 「誰も来ないように見張っとけよ」 光樹の家族に見られたら、憤死だ。 「あ、大丈夫、うち、今日も、誰もいないから」 その言葉に、俺はますます顔に血を上らせた。 「なんか…短い」 そのセーラー服の上は、当然、もともと女の子が着るものにちがいなく、男としてはそれほど大きくはない俺が着ても完全ヘソだしだった。 丈がそうなのに、肩も胸もそれほどきつくないのは貧弱な身体を知らされているようで、なんとなく嫌だ。なんとなく嫌と言えば、今日穿いている白の綿パンがまるでセーラーと合わせたみたいにマッチしているのも嫌だ。 「鏡あんのかな」 キョロキョロと捜してみたけれど、光樹の部屋に鏡は置いていなかった。 「ちっ、自分の顔くらい見ろよ」 と、言いつつも、俺の部屋にだって鏡は置いていない。 洗面所で一回見てから、光樹のところに行こうかとドアを向いた瞬間、 「着たか?」 光樹が顔を覗かせた。 「わっ!」 俺は驚いて叫んだけれど、光樹は何も言わず、じっと俺を見た。 「………何だよ」 あんまり光樹がポカンとしているので、俺は自分からつっかかった。 「笑うなりなんなり、リアクションしろよ!」 恥ずかしいんだから。 「ヤベ、二葉……」 俺を見つめたまま、光樹がボソッと言った。 「俺、鼻血出そう」 「勝手に何でも出してろっ」 叫んだ俺を、光樹が抱きしめてきた。 そのまま、ベッドまで連れて行かれる。 俺の肩口に顔を埋めて鎖骨に口付けながら、光樹の右手がヘソの横を撫でてセーラーの裾をくぐり、そして胸をまさぐった。 「んっ…」 乳首をキュッとつままれると変な声が出る。光樹は顔を上げて、セーラーを上にたくしあげると、あいている方の乳首に舌を這わせた。 「やっ、あっ…」 「二葉、すっげえ、エロい」 確かに、セーラー服を首までたくしあげられて両方の突起をいじられているっていう図は、かなりいやらしい。 自分でも、訳がわからないまま興奮してくる。 強く摘ままれ、優しく転がされ、時には甘く噛まれて、ジンジンとした痺れが腰にたまってくる。 「んん…あ…ぁ」 光樹がどんな顔してヤッてんのかと、そっと目を開けて下を見ると、上目遣いで俺を見る光樹と目が合った。 「やっ!」 俺は、とっさに片手で光樹の目をふさいだ。 「何だよ」 光樹が空いていた左手で、俺の手首を握ってはがした。 「な、に、見てん、だよっ」 「二葉のいい顔」 「ばか」 そのまま手首をシーツの上にぬいとめられた。光樹は面白そうな顔で、俺のもう一つの手も掴んで頭の上にあげさせた。 ベッドの上で仰向けになった俺は、バンザイした恰好で、光樹に手首を押さえられた。 セーラー服は、まくり上がったままだ。 「ホント、エロい、二葉」 「ドスケベ野郎」 キッと睨んでやると、光樹の唇が下りてきて俺の唇に重なった。 かみ合うように唇を重ね、互いの舌を絡める。 光樹は、キスが上手い。と、思う。 実際、他の誰とも比べることなどできない俺だけれど、こんなに気持ちよくなれるのは、やっぱり光樹が上手いからだ。 誰と練習したのかなんて、絶対、聞けないけどね。 「ふ…あ……」 シーツに押さえられていたはずの両手はいつのまにか自由になって、気がつけば光樹の背中に回ってシャツの背を掴んでいた。 「んんっ…」 ヤバイ。キスだけで、イケそう。 ビクビクと俺のアレが大きくなって、パンツの中が窮屈だ。 「二葉、下だけ脱いで」 光樹に耳元で囁かれて、俺は素直に寝転んだまま綿パンを脱いだ。ついでにパンツも一緒に脱いだ。同時にビタンと飛び出て、そそり立つ俺の息子。 光樹はそれに指を絡める。 「どうでも、いいけど……」 俺の声は、風邪でもないのにかすれている。 「何?」 「上のセーラーは、最後まで着たままなんだよな」 「あたりまえジャン」 ニッと笑う光樹。さっきのションボリ顔は演技だったんじゃないか。 「この、っ」 「何?」 「ん、何でも、ない…っ、んっ」 光樹の指の動き以外、何も考えられなくなる。 クルンと先を刺激されると、 「ああっ」 あっという間に達してしまう。 仕方ないだろう、慣れていないんだから。 それにしても、いつもにましていやらしい光樹がこの服のせいだというのなら、たまに着てやってもいいかもしれない。 そう思う俺って、もう、終わってるかな。 |
HOME |
小説TOP |
お礼SS2 |