《クリスマス》 


「龍之介、ちょっといいかしら」

クリスマスも近づいた十二月のある夜。電話をしていた麻里絵が慌てて海堂のいるリビングに入って来た。ソファーに寝転んでテレビを見ていた海堂龍之介が起き上がる。
「なに?」
海堂は、学期末試験も無事終わり、補習も免れ、冬休みを待つばかりののんびりムードに浸っていた。
母親麻里絵が、眉を寄せて
「急だけど、ママ、イギリスに帰らなきゃいけなくなっちゃったわ」
「え?」
海堂の目が丸くなる。
「ママのおばあちゃんが亡くなったの」
海堂によく似た綺麗な瞳を潤ませて麻里絵が言う。
麻里絵の母親は、今は長男(麻里絵の弟だ)と一緒に神奈川に住んでいるが、そのまた母親にあたる麻里絵の祖母はイギリス人で、日本人の夫が亡くなったのを機会に故郷のイギリスに帰っている。海堂は、話をきいたことはあるが会ったことも無い相手なのでピンとこない。
「麻里絵の、っていったら、俺のひい婆ちゃん?まだ生きてたの?」
息子の失礼な言葉にガツンと拳骨をふるって
「だから、今日、亡くなったのよ」
「いて、ごめん」
頭を押さえて恨めしげに、それでも不謹慎だったとは察した様子の海堂。
「神奈川のおばあちゃんをつれて帰らないといけないんだけど、パパもちょうど出張であっちにいるから、向こうで会うようにして一緒に行って来るわ」
「俺は?」
「一緒に行くならチケット取るけど。今週末から冬休みだから大丈夫よね」どうかしら?という母麻里絵の顔を見ながら海堂はしばらく考えた。
今から行くとなるとクリスマスと年末は間違いなくロンドンだ。(へたすると正月もか?)ロンドンは子供の頃一度行ったきりで、行ってみたい気もしないではないけれど、なにぶん自分一人では言葉も通じない所(バイリンガル麻里絵の努力も空しく、一人息子は外見はともかく中身は根っからの日本人だった)。もちろん愛する高遠もいない。
(そうだよ。『高遠と二人の愛のクリスマス』がダメになるじゃねえか!)
はっと気づいて、すぐに断る。
「だめだめ。冬休みまで、あと一週間近くあるし(その直後クリスマスもあるし)、俺、それでなくても今回勉強遅れてるから、休めねぇよ」
我が息子から勉強などと言う言葉を聞くとは思いもしなかった麻里絵。
「龍之介、どうしちゃったの?」と、訃報を忘れるほど動揺。
「どうもしねえよ。とにかく婆ちゃんと親父と行って来いよ。留守番しとくからさ」
「でも、行ったら一週間くらいじゃ帰れないわよ」
「いいって。前にもあったじゃねえか」
とにかく、クリスマスを高遠と過ごすには日本にいなきゃ始まらない。むきになって断る海堂に、麻里絵も本来放任主義の楽天家、久し振りに里帰りした後はダーリンと一緒のヨーロッパのクリスマスと言うのも悪くないかも、とにっこり笑ってこう言った。
「じゃ、悪いけどちゃんと留守番しといてね」
突然の降って湧いた期間限定の一人暮らしに海堂の胸は高鳴った。
(わーい。どうやって過ごすかなーっと)
ちょうどテレビでも、季節柄クリスマスを過ごす恋人たちの安っぽいドラマをやっている。
浮かれ気分でそのドラマを見るともなしに見た海堂に、目からウロコの落ちる台詞が飛び込んできた。
『じゃあねぇ、クリスマスプレゼントに、あたしをあ・げ・る』
なんだとおっ。海堂が怒ったようにブラウン管を睨みつける。
『あたしをあげる』って、何だよ。やっぱ、あれか?
ブラウン管の中の女優はどう見ても二流だったが、台詞は海堂を強烈に揺さぶった。
(その手があったか!)
クリスマスプレゼントに、高遠をもらう。いや、ちがう。この場合俺をあげるが正解か?
どっちにしろ、愛のクリスマスだ。
(邪魔な両親のいない今、ここしかチャンスはねえ!)
修学旅行の決意を思い出して、海堂の瞳に炎が燃えた。
そんな息子の内心も知らず、海堂麻里絵はいそいそと荷物をトランクに詰めている。

翌日学校で、海堂はどう切り出そうか考えた。
(あんまり下心が見え見えだとまずいよな)
そこでさり気なくクリスマスパーティーのお誘い作戦で行くことにした。五時限目の授業がはじまる前のざわざわした休み時間、掃除の時間でもあるそのとき、できるだけ明るく可愛く高遠に話し掛ける。
「高遠。あのさ、クリスマスなんだけど、うちでパーティーやらねえ?明日から、うちの親いなくて、一人なんだよね」
「ほんとか?ラッキー」と、返してきたのは何故か隣にいた三好だった。
「親、いないって、旅行かなんか?」
「ああ、いや、旅行とゆうか、イギリスに行って……」
(って、なんでてめえが聞いて来るんだよっ。三好っ)
内心かなり動揺した海堂。
「去年は、斎藤んちだったんだよな」
高遠が明るく笑う。
「え?何?今年のクリスマスパーティー?また俺んちでもいいぜ」
2−Bクラスでも大のお祭り好きの斎藤が割り込んでくると
「いや、海堂んちが、親が旅行で留守らしい」
と、三好が応える。
「そんなら、海堂んちのほうがいいな。よし、今週の日曜3時から海堂宅で恒例のクリスマス大パーティーだ!」
勝手に盛り上がる斎藤。
「えー、じゃあ噂のトラノスケに会えるの?」
嬉しそうに尋ねてくる上田に、海堂は半分脳死状態で
「ああ」と、一言応えるのがやっと。
「わーい。あっそうだ。僕ビデオ持ってくね」
上田がいうと、斎藤がいやらしく笑った。
「ハードなのにしろよ」
「あと、プレゼントも忘れんなよ。ただの飲み会じゃねえぞ。一応、クリスマスパーティーなんだからな」
三好が仕切る。
(プレゼント!)
脳死状態から条件反射で蘇生した海堂。
(そうだ。俺の今回のプレゼントは『俺』だったはず)
「高遠」
と、高遠の顔を見上げると、何を誤解したか高遠がプレゼント交換の説明をしてくれた。
「去年もやったんだけど、それぞれ一個プレゼント用意してさ。くじ引いて当たったのをもらうんだよ」
「当たったのを?」海堂が呆然とつぶやく。
「そんなの、邪道だっ。プレゼントっていうのは、贈る相手を選んで、モノを選んでちゃんと贈るべきだっ」
何故か頬を赤く染めて主張する海堂に、三好が真面目な顔で言う。
「そりゃ、正論だけど、にの、しの、八人分もプレゼント買うっていうのは大変だぞ」
「そうか、八人分も……って、そんなに来るンかいっ!」


「海堂。大丈夫か?」
ショックのあまりフラフラとその場を離れて廊下に出る海堂を追いかけて、高遠が顔を覗き込む。
「高遠……」
「もし、あんまり大勢だと困るって言うんなら」と、気にする高遠をキッと見上げて海堂は、
「大勢もなにも、二人じゃなきゃ、一緒だっ」と、小さく叫んだ。
「海堂」
目を見開く高遠。
「お前はっ、お前は大勢のパーティーの方がいいのか?」
海堂が拳を握り締めて唇を震わせる。
「俺は、高遠と二人のクリスマスを楽しみにしてたのに……」
それで、ロンドン行きも蹴って日本に残ったのに、と考えるうちにだんだん目じりに涙が浮かんできた。それを見られるのが嫌で踵を返すと、屋上に出ようと階段を上がった。
「待てよ、海堂」
高遠が海堂の腕をさっとつかむ。
「離せよっ」と振り払うのを、そのまま引き寄せて
「海堂、あのさ、今度の日曜は天皇誕生日だよ」
「え?」
目じりに涙の溜まったまま、きょとんと振り返る海堂。
「クリスマスイブは次の日だから、二人っきりのクリスマスは、改めてそこでやろう?」と高遠は優しく微笑んだ。
「あ……」
急激に恥ずかしくなった海堂が、顔を真っ赤にしてうつむく。どうリアクションすればいいのかわからない。
高遠はその海堂の様子があまりに可愛いのと、さっきの言葉が嬉しかったのとで、思わずぎゅっと抱き寄せた。
その様子を遅れて覗きに来た三人。
「奥様、あの二人、最近人目気にしなくなってきたんじゃございません?」と、斎藤。
「風紀が乱れるモトですわネ」三好もわざとらしく頬に手を当てる。
「海堂くんちのパーティーってダメなのかな」と、これは素のままの上田。
「ダメならダメって言ってくるよ」
三好は笑いながら教室に戻って行った。



高遠と二人のクリスマスを邪魔するものでなければ、海堂にとってもダメであろうはずはなく、終業式の翌々日の天皇誕生日、海堂宅にて野郎ばかりのクリスマスパーティーが開かれた。
メンバーは簡単に言えば修学旅行の三好班と斎藤、それに海堂もよく知っている、高遠と三好の一年のときからの友人三人。
何でも、去年のクリスマスに斎藤の家でやったパーティーと言う名目の飲み会があまりに楽しかったから、今年もやろうという話をしていたらしい。
そこにたまたま、海堂がクリスマスパーティーの話を持ち出して、しかも親不在と言うので、会場が海堂宅になった。
「おじゃましまーす」
両手に大きなコンビニの袋をさげた上田がリビングに入って来る。
「ビール、ケースで買ってきたぜ」
三好が24本入りのケースを抱えて靴を脱ぐ。
高遠は一応クリスマスだからと生クリームのたっぷりのったデコレーションケーキを買ってきた。各自がワイン、シャンパンや、フライドチキン、その他惣菜を手に持ちよって揃ったら、二学期が終わって冬休みが始まったという開放感に酔う大宴会が開始。
プレゼント交換では、三好の買ってきたメンズ用の派手なTバックを当ててしまった斎藤がその場で履いてしまったため、それを見た上田がチキンを喉に詰まらせ、もう少しで掃除機の出番となるところだった。
「正月の年寄りじゃないんだから、喉、詰まらせて死ぬなよ」
「斎藤くんがいけないんだよ。そんなもの見せるからっ」
笑うのと苦しいのとで、転がって咳き込む上田。
「そうだ。お前ビデオ持ってくるって言ってたよな」
と、斎藤に言われて上田は真っ赤な顔をしたまま、嬉しそうに鞄からビデオテープを取り出した。
海堂がデッキにセットする。
「なんだなんだ?ロリか?ナースか?女教師か?」
酒も相当入っている顔で、いやらしく目を細める斎藤。
『ちゃーららー♪ららーららー♪ ちゃらーらーららー♪』
なんとなくお馴染みの曲。
『暴れん坊将軍』
もったいぶったテレビのナレーションに、斎藤が
「ざけんな、上田あっ」と、蹴りを入れた。
「幻の第一回シリーズなんだよう」
その様子を笑いつつ、三好も高遠もひたすら飲んでいる。
「どっちが強いか勝負しようぜ」と、笑いかける三好に、高遠は苦笑い。
「そんなに酒、買ってきてねえだろ」
「じゃ、負けたほうが買いに行くってのはどうだ?」と言う三好の提案に
「つぶれたヤツがどうやって買いに行くんだ?」と切り返す。
「それもそうだ。さっすが高遠くん」笑って、ワイングラスを開ける三好。
「そうだ。高遠はさすがなんだ」
海堂は少しの酒ですでに楽しくなっていた。頭をフラフラさせながらケラケラ笑っている。
「海堂、あんまり飲みすぎんなよ」
隣で高遠が心配そうに覗き込む。
「だいじょおぶっ」と言ったが、その30分後には、眠ってしまった。





(……水、飲みたい)
海堂が喉の渇きに目を覚ますと、既に宴の後。あたりは暗くなって、適当に片付けもされていた。
「あれ?起きたのか」
ソファーに眠っていた海堂の枕もとに背を凭れていた高遠が、静かに振り向いた。
「高遠……皆は……?」
「帰ったよ。お前によろしくって」と、何か思い出したように小さく笑う。
「お前、ずいぶん早く寝ちまうから。ちょっと食べる物残してるけど、食うか?」と、優しく微笑む。
「ううん。水飲みたい」と、海堂が言うと、高遠は立ち上がってミネラルウォーターの入ったグラスを持ってきてくれた。
「ほら」
「ありがとう……高遠、帰らないでいてくれたんだ」
コクンと一口飲んで、海堂が見上げた。
「だって、パーティーの途中で寝ちまって、起きて誰もいなかったら嫌だろ?」
見つめる瞳が限りなく優しい。海堂はこういう高遠の瞳に弱い。手にしていたグラスをソファーテーブルに置くと、潤んだ眼差しでじっと見つめ返して
「高遠。優しい」と、ゆっくりと抱きついた。
「海堂……」
高遠の顔が赤くなる。
ソファ−に座ったまま、唇を重ねる。
まだ酔いの残っている高遠が、普段より大胆に唇を割って舌をからめてくると、海堂が嬉しげに応える。強く、熱くお互いの舌をさぐって吸い上げる。
何度も繰り返して口づけるうち、息苦しくなった海堂の口許から零れ落ちる唾液を追って高遠の唇が喉もとに移る。
「あ……」
自由になった海堂の唇から、甘い吐息が漏れた。喉を大きくそらした海堂の白い首から次第に下へと唇を移動させながら、高遠は海堂のシャツのボタンに手を掛けた。
「海堂」
小さく名前を囁くと、海堂は脱がせやすいように少し身体をずらす。それが了解の合図のように高遠は海堂の白い裸体をあらわにすると、自分も服を脱いだ。
ベッドにもなるソファーの上で、二人の身体が重なった。
「高遠……」
自分の上に圧し掛かる高遠の重さが嬉しい。十二月の室内は、エアコンを入れても少し肌寒かったのが今は互いの身体の熱で、火がついたように熱い。
高遠は海堂のうなじから鎖骨へと唇を這わせ、時折きつく吸い上げ、所有の印を刻む。海堂の白い肌に、赤紫の刻印が映える。
「ん……」
高遠の口づけのたびに海堂が身をよじる。
高遠が胸の突起に唇をあてると、海堂の背に痺れが走った。ビクンと大きく背中をそらす。
「あぁっ……」
高遠の舌の先が突起を転がすと、海堂の唇から耐え切れない喘ぎが漏れた。
その扇情的な声に促されるように、高遠は自分の手をそろそろと海堂の下半身に伸ばす。
海堂のそれは既に大きく反応していたが、高遠が触れると一段と固くなり、先端から雫を零して震えた。雫をすくい取ると、敏感な括れに沿って擦り上げる。指の先で先端を柔らかく愛撫しながら竿を擦ると
「や……っ。たか、と…う…」
海堂の内股が小さく痙攣する。
性技に慣れていない、けれども敏感な身体は、あっけなくイッてしまった
「……高遠……」
海堂が紅潮した顔で見上げる。
(海堂。可愛い)
高遠が優しく口づけると、海堂は、今度はお前の番だというように膝を曲げるとそろそろと脚を広げた。
高遠は、正直不安だった。
(こんな小さなところに自分のこれが入るのか?)
それでなくても、高遠の雄は海堂の声や痴態に、自分でも驚くほど大きく屹立してしまっているのだ。
そっとあてがって押し込もうとするが、今まで誰も触れたことの無い海堂のそこは、固く締まっていて、とても開きそうに無い。
「海堂、力抜いてみて」
「う、うん」
高遠が思い切って強く腰を勧める。
「痛っ、い、た……」
海堂の顔が苦痛に歪む。
「大丈夫か?」
慌てて、高遠が顔を覗きこむ
「だいじょうぶ」と、言いながらも海堂の額には脂汗が浮かんでいる。
「やめとこう」
そう高遠がいうと、海堂は目を見開いて首を左右に振った。
「やだ、大丈夫だから、もう一度やって」
「海堂……」
高遠が再度腰を進めると、海堂は唇を噛んで耐えるが、その身体はずりずりと上にあがっていく。
ふーっと高遠が溜息をついて、身体を起こす。ちょっと笑って
「だめだよ。お前のそんな苦しそうな顔見ると、できねえ」
小さな声で言った。
「高遠」
海堂も起きると、高遠のほうに身体を倒して馬乗りになる。そして高遠を仰向けに寝かした。
「海堂?」
驚いてされるがままになっている高遠の膝の間に身体を入れると、海堂は高遠の雄を口にくわえ込んだ。
「な、海堂っ、やめろ」
あまりの衝撃と生まれて初めての感覚に高遠の頭は真っ白になった。
自分の股間で海堂の髪が揺れる。柔らかいくせっ毛が内股にあたるのもくすぐったいが、何より海堂の舌と唇の与える刺激は、今まで自分の手でしか与えていなかったものに比べてあまりに強烈な快感だ。
「うっ、や、めっ」
高遠の顔が歪む。
海堂の舌が、筋に沿って舐め上げると、口の中でさらに容量を増した高遠のそれが海堂の喉を圧迫する。
「ん、ぐ……んんっ」
海堂が喉を鳴らす。
「……だめだ、もうっ」
高遠が海堂の顔を引き剥がすように、後頭部に手を掛けると、海堂は嫌がって首を振り、先端をきつく吸い上げた。
「うっ」
低くうめいて高遠は自身を海堂の口の中に放った。海堂はその液体を残らず飲み下す。
がっくりと、仰向けに倒れた高遠の顔を海堂が満足げに覗き込んだ。
「飲んだのか?」
高遠が荒い息をつきながら訊く。
海堂はにっこり微笑む。
「ばか、汚ねえだろ」
高遠が恥ずかしげに目をそらすと
「高遠のだもん。汚くなんかねえよ」と、海堂が笑った。
高遠はその顔を見て
(ああ、綺麗だ……)
あんなことしても、信じられないくらい、海堂の顔は純粋に穢れなく綺麗だ、と感動した。
海堂が、高遠に覆い被さって口づける。
ふと、海堂の視線の先にとまるものがあって、海堂は唇を離して身を起こすとそれに手を伸ばした。
高遠の買って来たクリスマスケーキ。皆が酒を飲むほうに走ってしまったため、半分以上手つかずのまま残っていた。
海堂はいたずらを思いついた子供のような目になって、その生クリームを指ですくい取って高遠に見せた。
「これ、使ってみねえ?」
「え?」
高遠は意味がわからず、目を少し見開いて首をかしげる。
海堂はその高遠の唇や顎にクリームをなすりつけると、可笑しそうにそれを舌で舐め取りながら小さく囁いた。高遠には思いもつかなかったこと。
(海堂っ?!)

ソファーの背に片足を掛けて海堂が大きく脚を広げる。高遠は海堂の腰を高く持ち上げて、固く閉じられた後ろにケーキの生クリームを塗りつけた。
(なんか、鬼畜っぽい)
高遠はその行為だけで、一度開放されて治まっていた自分の雄が、再び猛ってくるのを感じた。
クリームのついた指を、一本、中に滑らせる。
「うっ」
異物の挿入される感触に、海堂は一瞬眉を寄せたが
「……大丈夫そう」と、小さくつぶやく。
「苦しかったら、言えよ」と言って、高遠は指をすすめる。クリームで滑りやすくなった指は意外とスムーズに進入していく。高遠はその熱さに驚いた。海堂の襞が指にまとわりつく。ゆっくりと抜き差ししてみると海堂の顔が苦痛に歪む。
「海堂?」
心配そうに尋ねる高遠に、海堂はうす目を開けると、うなずいた。
(大丈夫だから、だから、高遠……)目が語る。
高遠が探るように指を動かすと、海堂の身体がびくっと反応した。
「あっ」
萎えていた海堂の下半身が勃ちあがる。
「ここ?」
高遠が訊くと、海堂が恥ずかしそうにうなずく。
「わかった」
高遠はそのポイントを執拗に攻めた。
「あっ、やっ、あ……んっん」
海堂は今までに無い疼きに全身が痺れる。むず痒いような、じれったい、それでもやめて欲しくない快感。
海堂の後ろが柔らかくなったので、高遠は指を増やしてそこを攻めあげる。
「あ、ぁっ、あっ」
海堂が身をよじって喘ぐ。その声、その姿に高遠も昂ぶって、雄の先から先走る雫を洩らす。
「高遠っ、やっ、やだ……指じゃ、や……」海堂が喉を仰け反らせて掠れた声を出すと、高遠は指を抜いて、猛った自身を押し当てて、強く突き上げた。
「あ、あああぁーっ」海堂が叫ぶ。
「うっ、う、くっ」
指とは比較にならない大きさに、海堂は激しく顔を歪めると、高遠の肩に爪を立てた。
高遠も、海堂の締め付けの強さに苦しそうに眉を寄せる。
それでも、指で慣らされたそこは、高遠の雄をゆっくりと飲み込んでいった。
「たか、と、う……」
海堂の目から涙が零れている。
「海堂」
高遠がゆっくり息を吐いて海堂の顔を優しく見つめる。
「動くぞ」と、小さく囁くと、海堂がコクンとうなずいた。
高遠は片足だけソファーにのりあげて左足は床に下ろしたまま、腰を使った。海堂の左足はソファーの背にのせ、右足を自分の背中に廻してより深く突き上げる。
「ん、あっ…ああっ……あっあっあっ……」
高遠の動きにあわせて海堂の声が高く低く響く。
海堂の細い腰を逃げないように押さえて、高遠は何度も抜き差しする。
海堂は、そのたびに痛みだか快感だかわからない痺れが腰から頭にかけて走って、頭の中が真っ白になっていった。
「やっ、ああっ、あ、たか、と、うっ」
海堂の喘ぐ声が、高遠の雄を滾らせる。
高遠も海堂の熱い襞の締め付けに、身体が溶けそうになっている。
「かいっど、う……」名前を呼んで、ピッチを早める。
自分の腹に当たる海堂のものが、大きく反るのをみて、高遠はそれに指を絡めた。
「あああぁーっ」
前と後ろからの同時の刺激に、海堂の声が一段と高くなって
「も、いくっ」
「う、ん」
二人同時に、精を放った。
大きく息をついて、ゆっくりと呼吸を整えた高遠が、海堂の耳元に唇をよせ囁く。
「海堂」
「ん?」海堂はまだぼうっとして目の焦点が合っていない。
「お前の声さ」
「うん」けだるく返事する。
「すっごく、腰にくる」
「……ばぁか」



翌朝、というよりもう昼に近い時間。海堂が目を覚ますと、高遠はすっかり身支度を終えて、海堂の顔を覗き込んでいた。
「おはよ、高遠」
ぼうっとした顔で海堂がつぶやくと、高遠は海堂の額に手をやって、
「大丈夫か?」と、尋ねた。
何?と目を少し見開いて、瞳でたずねると、高遠はこの上なく愛しそうに目を細めて訊く。
「身体、きつくないか?」
結局あの後、三回も繰り返してしまった二人。
「うん」と、海堂は起き上がり
「あっ、たたっ、痛た」と、ちょっと顔を顰める。鈍い痛みが走る。
「海堂っ?」
あわてて身体を支えながら、高遠が心配そうに眉を寄せる。海堂は笑って
「大丈夫。ロストバージンしたんだから、これくらいはしょうがないぜ」と、高遠にちゅっと口づけた。
高遠は照れたように視線をそらすと、唇の端で苦笑した。
(ったく、明るいところでも変わらないヤツ)
「それより、高遠?」
海堂が小首をかしげて見上げるようにして訊く。
「今日、『二人っきりのクリスマス』っていうの忘れてないよな」
昨日、二人のクリスマスを過ごしたようなものだが、海堂は貪欲だ。
「今日も、泊まれるだろ?」と、柄にも無く恥ずかしそうにしてチラッと見上げる。
「う、うん。でも、一回家に帰ってくるよ」
恥ずかしそうに、高遠が応える。
「海堂に、ちゃんとクリスマスプレゼント用意したいし」
「お、俺もっ」
海堂の瞳が輝く。



高遠を送り出してから、海堂はシャワーを浴びに風呂場に行った。
洗面所の鏡に映った自分の身体を見て、再び顔に血が上る。
海堂の白い肌の隅々に、高遠がつけた薔薇色の印が刻まれている。
(ここも、ここも、こんなとこまで、高遠が口づけて愛してくれた)
一つずつ指で押さえると、昨夜の高遠の唇の感触がよみがえって背中がゾクゾクする。
この印の一つ一つが、自分が高遠のものだということを教えてくれるようで嬉しくてたまらない。
(あああっ。三好に見せて自慢したいっ!!)
「……でも、高遠が怒るだろうから、やめとこう」
その程度の常識はあった海堂で本当に良かった。
強くこすると消えてしまいそうな気がしてもったいなくて、やわやわと洗ってから海堂は街に出た。


街にでても、海堂は浮かれている。へたをするとスキップになりかねない足取りで、前方も気にせず歩くので、前から来た二人組みの男にぶつかりそうになる。
ところが、その二人組みは反復横跳びでもするかのすばやさで避けた。
「あれ?お前ら?」
三多摩青狼会のヒロ&モン。
クリスマスイブというのに、相変わらずしけた面で二人つるんでいる。
「お、お、おひさしぶりです。海堂さん」
意味も無く殴られないかとビクビクもの。
海堂は、昔この二人からトラノスケが受けた恨みを忘れていない。けれども、それを蒸し返すことすら忘れるほど、今日は非常に機嫌が良かった。
機嫌よいついでに、にっこり笑って挨拶まで出る海堂。

「メリークリスマス」

花のように微笑んで、その場を去る。
あとに残されたヒロ&モンは、ぼーっとしている。
「おい、モン。今、海堂さんの背中に羽が見えなかったか?」
「バカ野郎。俺なんか、頭の上に輪っかが見えたぜ」

海堂龍之介。クリスマスにふさわしい、天使と見まごう純真無垢な美貌をもつ男。
たとえ、その内心がどんなに煩悩に満ち溢れていたとしても。

(あっそうだ♪薬局行ってローション買っとかねえとな。またケーキのクリームでやるわけにはいかねえもん。そうだ、高遠のクリスマスプレゼント、マムシドリンクでもいいかな♪ククッ、クックック……)





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