切れ痔がきれいに治る頃には、僕の身体はすっかり後ろで感じるようになっていた。
 僕がバージンを捧げた青嶋巡査は、秋の異動で本庁に行ってしまった。なんでも、以前から希望していた刑事課に欠員が出て白羽の矢が立ったらしく、彼にとってみれば栄転だ。
 それでも、僕に会えなくなると言って、別れの日彼は泣いた。

「玲於奈、これからも会いたい。いいだろう?」
「でも……」
「玲於奈?」
「政文さんと別れるのは、僕もすごく辛いけど……でも、もう終わりにしたほうがいいと思う」
 睫毛を伏せて、軽く握った左手で口許を押さえたりして。
 ちなみに、政文って、青嶋巡査の下の名前ね。
「玲於奈、何で……」
「だって、政文さん、せっかく念願の刑事さんになれたんでしょ。僕みたいな男の子の恋人がいるって、きっとよくないと思うの」
「そんなこと!」
「それにね……」
 僕は目に涙をためた。とりあえず昨日見たムツゴロウさんの再放送で狼犬タロウが死んだところなんかを思い出して。
「危ない仕事をしている政文さんを心配しながら待ち続けるの……僕、できない」
 うつむいて涙を流したら、青嶋巡査は感極まったらしく、泣きながら僕を抱きしめた。
「玲於奈っ、俺はっ」
「政文さん」
「すまない」
「うん」
「玲於奈っ」
「うん」
「本当に、愛しているんだ。玲於奈」
「うん、うん……」

 そうして、最後は思い出の濃厚セックスで締めて、僕たちの関係は無事終わった。
 はっきり言って、肩の荷が下りた。
 確かに青嶋巡査は、顔も良かったし、何より鍛え抜かれたその身体は最高だったけど、僕には次の男(ひと)がいたからね。
 それは、学年主任の藤崎先生。三年生の進路指導の主任もしている。
僕は、彼のおかげで、明王学園に入るに十分な内申書を約束されていた。





「先生」
 放課後の進路指導室。呼び出されて僕はおずおずと扉を開ける。

 藤崎先生は、ナイスミドルと呼ぶには申し訳ない程度の若さと、それなりの渋さを合わせ持った四十歳。奥さんも子供もいる。でも、僕が入学したときからやたらと身体に触ってくるので、そっちの気もあるんだろうとは思っていた。青嶋巡査と関係ができてから、僕は自分の身体に自信を持ってしまって、ある日、藤崎先生のちょっとしたセクハラに、過敏に反応して見せた。
「あっ、や…っ」
 可愛く嬌声をあげて上目遣いで見上げた僕に、先生は目を瞠って、そしてゆっくり囁いた。
「放課後、進路指導室に来なさい」
「……はい」
 うつむいて睫毛を震わせた僕は、先生の『学年主任兼進路指導主任』という立場を嫌ってほど意識していた。

 そして藤崎先生と関係を持った僕は、その後も、こうして誰もいなくなった学校の進路指導室で、いかがわしい事をしているというわけ。



「遅かったじゃないか」
「ごめんなさい」
「ドア閉めて、カギを掛けて」
「はい」
 校庭に面した窓は、既にピッタリとカーテンが閉ざされている。
「服を脱いで」
 先生の言葉に、毎度の事だけどちょっと恥らってみる。そういうの、好きらしいし。
 それでも、勿体つけながら詰襟のボタンを外して袖を抜こうとしたら、急に藤崎先生が僕の腕を押さえて言った。
「いや、今日は、上は着たままで、下だけ脱いでくれないか」
(はあ?)
「うん、やっぱり中のシャツは脱いで、上着だけ羽織ってくれ。靴下ははいたままで」
 なんだよ。注文の多い料理店な奴だ。
 でも、こういうのに興奮するんだって、耀子叔母さんの貸してくれた本にも書いてあったような気が……。
 僕は言われるままの格好で、椅子に座る先生の前に跪いた。
 得意技『無防備な上目遣い』で、先生を見つめる。先生の喉がゴクリと鳴った。


 藤崎先生は、学年主任の先生として普段生徒達からは恐がられているんだけど、こういうときの顔は、結構可愛いと思う。
 顔は何とか言う俳優に似ている。刑事モノとかのドラマによくでる。うーん、名前が出てこない。僕と同じくらいの歳の子供がいるとは思えない、その年齢にしては引き締まった身体をしていて、大人だからセックスも年季を感じさせる。荒々しく後ろに入れるとかしないで、じわじわと僕を気持ちよくしてくれる。それで、僕が喘ぐのを見るのが好きらしい。
 先生は椅子に座ったまま僕を引き寄せ、膝に乗せると、後ろから抱いた。両手で僕の乳首と股間を愛撫し始める。先生の膝を跨ぐように座らされて、先生の硬くなったモノがお尻に当たる。
「あん、あ…やだぁ……せんせ、っ、んっ」
 藤崎先生の指が僕の股間を優しく揉みしだくのに合わせて腰を揺らす。すると、お尻に当たる先生のソレがますます硬くなった。
「玲於奈」
 僕の名前を呼ぶ先生の声がうわずる
「せ、んせ、い……」
 僕も、掠れた声を出す。本当に気持ち良いから、これは演技じゃない。
「ああっ、……ンっ…あっ、いいっ…はあぁ、ん…」
 まぁ、ちょっと大袈裟かもしれないけどね。

 いきなり先生が自分の膝を大きく開く。当然、それを跨いでいた僕の足も左右に大きく開かされて股間とその奥が露わになった。
「あっ、いやっ」
 って、女の子みたいに叫びながら、実のところかなり興奮した。これって、鏡で見たりしたら結構エロいよ。何しろ先生は服着たままで、僕は裸に詰襟というかなりマニアックな姿……で、大股開き。
 チラリと見た自分の足の、靴下の白が眩しい。
 そんなこと考えながらも、とりあえず恥ずかしそうにイヤイヤして見せる僕。我ながら演技派というか、サービス精神旺盛。
 先生は相変わらず左手では僕の胸の突起を強く摘んだり、優しく擦ったりしながら、右手で股間に流れる先走りの雫をすくい取って、そろそろと指を後ろに伸ばしていった。
 このあとが、また長いんだ。
 さすが、年の功。僕の後ろが完全に溶けるまでじっくりと愛撫してくれる。
 その間僕は、可愛く鳴き続ける。
「あ、あっん……いいっ、ん、ああん……」
 本当にめちゃくちゃ気持ちいい。そして、先生の指が僕の敏感なポイントを刺激して、僕はあっけなく一回目の射精を果たす。
「あああぁぁぁっ」
 秘技『切ない声』イクときの恍惚の表情付き。
 顔が見えるように大きく仰け反ってやる。これもサービス。
 
 そんなこんなで、放課後の進路指導室は、僕と藤崎先生の乱れた性の魔窟となっていた。


 おかげで、僕は第一志望の明王学園にほぼ推薦に近い内申書を貰って、無事合格できた。
その藤崎先生は、僕の卒業と同時に別の学校に転勤になった。有名私立に教頭として引き抜かれたという話だから、これもご栄転だろう。

 あ、僕って、ひょっとしてあげまん??








* * *

 明王学園に入学して僕が関係を持ったのが担任の榊原孝明。うちは、一年二年とクラス換えが無い。担任も持ち上がりだ。榊原は教師になって四年目で、初めてクラスを持つことになって張り切っていた。顔も爽やか系でちょっと甘い感じ。身体も良さそうだ。
 入学と同時に、僕は次のターゲットはこれだと睨んだ。
 
 僕にも一応、相手を選ぶ基準がある。三つほど。
 まず顔が良いこと。ちょっとでも不細工な相手だと生理的にダメ。あと、身体。見た目はすぐにチェックできるけど、セックスの相性まではやってみないと分からないよね。当たり前だけど。
 榊原はそういう意味では相性は悪くなくて、ヒットだった。ただ、普段の爽やかそうなイメージからほど遠い、すっごくねちっこいセックスだったんだよ……ふう。
 そうそう、僕の基準の話だった。一番大切な三つ目。
 それは、僕にとって何らかの利益を与えてくれる人。
 とりあえず、榊原は職員室の情報もリークしてくれるし、試験問題も全部じゃないけど横流ししてくれる。外見の爽やかさが功を奏してるのか、他の教師や生徒たちからも人気あるようだし、そういう人が僕にメロメロっていうのは、なかなか便利で快適だ。



「んっ、先生、も、だめ」
 体育用具室のマットの上で、下半身を剥かれた僕が腰を揺らす。学生服の裾からチラチラと見えているだろうお尻を意識して。
「お願い、早く、入れて」
「まだ、ダメだよ。玲於奈」
「いじわるっ、僕っ、もう……あん」
 さっさと入れろよ。この後、予定あんだから。

 それにしても、教師って自分がセックスするとき、服脱ぎたがらないのは何故だろう。教師だからって訳じゃないのかな? まあ、普通学校であわただしくやるのに全裸になる奴はいないか。
 榊原は、四つん這いになった僕に覆い被さりながら僕の股間を弄ぶ。
僕のそれは、既に一回イッた後にもかかわらず、また首をもたげてきていて、先端から蜜を零して榊原を歓ばせている。
「玲於奈、可愛い……いやらしくて……可愛いよ」
 わかってる。
 僕が可愛いのも。ひどくエロいのもね。だから早く入れてくれ。
 こうなったら、秘技、涙。昨日の日曜洋画劇場でやっていた『蛍の墓』のラストあたりを思い出して。
「せ、んせ……」
 肩越しに振り返って、榊原を見上げる。いいタイミングで涙の粒が滑り落ちた。
「玲於奈っ」
 榊原が僕に口づける。首だけ後ろを向かされた状態の、このキスはちょっと苦しい。
「んーっ……んんんっ」
 僕の苦しいうめきを、榊原は勘違いして、興奮した声で囁いた。
「どうして欲しい?」
 え?
「どこをどうして欲しいのか、自分で言ってごらん」
 ああ、言葉攻めね。嫌いじゃないけど。

『そんなこと……言わせないで……いじわる……』
『貴方のたぎった欲棒で、僕の蕾をめちゃくちゃにして』
『先生の、熱くて固いの……入れてほしいの……』
 びみょーなとこだが、ここは三番目か。
 って、ときめきメモリアルじゃないっての。






「……腰、痛い」
 榊原にやっと解放されて、僕は教室へと急いだ。
「玲於奈」
 クラスメイトの松田の声。
 来た来た『高原玲於奈お取り巻き軍団』
「どこに行ってたんだよ。探したんだぞ」
「探した?」
 松田の声に、僕はほんの少し眉をひそめる。松田は慌てて
「いや、探したっていっても、ほんのちょっとその辺を見ただけで」
「そう?」
「ああ、ここで、待ってたんだよ」
 松田の言葉に、僕はニッコリ笑って、次にはひどく申し訳無さそうな顔を作って言った。
「ごめんね。先生に呼ばれて」
 その先生と何やってたか聞いたら、憤死するな松田。
「や、そうなのか。いや、いいんだよ、そんな……そう、みんな今そろったばっかりだし」
 顔を赤くして手を振る松田と、肯く友人達、約五名。
 嘘つけよ。もう待ち合わせの時間、三十分も過ぎてるじゃん。でも、こいつらはたとえ三時間待たせたとしても、僕を非難することはない。なぜって、みんな僕のお取り巻き、いわゆる僕の崇拝者だからだ。


 僕は、高校に入ってますます磨きのかかったこの美貌と、もともと悪くはない頭に榊原の協力もあって常に成績はトップクラスで『才色兼備の玲於奈』と絶大な人気を誇っている。自分で言うのも何だけど、事実だから。
 で、同じクラスの松田智彦を始めとするこの五人が、いつも僕を慕って取り囲んでいる。榊原は最初いい顔をしなかったけど、男子校というむさい野郎ばかりの中で、孤立するよりはよほど安心だと分かったらしく、お取り巻きの存在を認めてくれた。今日みたいに、呼び出されたときは、理由を作って別行動するし。
 僕が色々詮索されるのを嫌っているのは、みんなよく理解している。
 今日、放課後教室に集まったのは、歴史の研究発表準備のためだ。
「テーマどうする?」
 みんな僕の顔を見る。うっとうしい。僕を待ってる間に決めとくくらいしたらどうだ。
「別に、先生の言っていたアレでいいんじゃないの?」
 みんなの顔を見返しながら僕は微笑む。

 ぱあああああ……

 僕を見つめる野郎どもの顔が、いっせいに緩む。単純な奴らだ。
「じゃ、資料は……」
「ネットで調べられると思うけど」
 僕は、人一倍几帳面な遠藤に向かって笑いかけた。
「確か、遠藤君、パソコン持ってたよね」
「あ、ああ」
「遠藤君なら、一日で資料集められるんじゃない?」
 しかも、モレもないだろう。
 僕の言葉に大きく遠藤は肯いた。
「大丈夫、まかせて」
「うちにもあるぞ、パソコン」
 渡辺が言う。張り合ってるなあ。
「それじゃ、渡辺君にも調べてきてもらって」
 渡辺に微笑みかけ、そして後の三人に向かって。
「それを、村田君と松田君がまとめて、最後に松平君が清書すれば?」
「なるほど」
「松平、字が綺麗だからな」
 そして、僕が何もしないことに、こいつらは何の疑問も持たない。


「そういえば」
不意に松田が、話題を変えた。
「うちのクラス転入生来るって、知ってるか?」
「え? マジ?」
「あ、俺も、それ聞いた」
 僕も知っている。さっき榊原がエッチする前に言っていた。
「うちの学校で転入してくる奴って珍しいよな」
「転入って入試より、かなり難しいらしいぜ」
「この時期って言うのも、珍しいよな」
 確かに、珍しい。だけど、僕には興味は無い。
 僕は今の友達に対しても、さほどの興味は持っていないし、大体、友達付き合いというものに期待も無い。それというのも、あの、コンビニで万引きを見つかった日、一緒にいた奴らが全員さっさといなくなっていた、あのときから。友達とか仲間とかいうものに対して、期待しない。期待しなけりゃ、傷つかない。
 今の僕にとって友達というのは、せいぜい利用させてもらう相手だ。
「……な。玲於奈」
「えっ、あ、なに?」
 ニコッと笑うと、松田はまた赤くなった。
「この後、皆でマック行かないかって」
「ああー」
 僕は、片手を口許に当て、とことん可愛らしく見える表情を作って応える。
「ごめん。今日は、早く帰らないといけなくて」
「そうなのか……」
 あからさまに、がっかりした顔。
 悪いけど腰がだるいんだよ。早く寝かせてくれ。