「お前、何、言ってんだよ」
 貴虎は、自分のシャツを握り締める巳琴の手を取ると、ゆっくり引きはがしてその場にしゃがんだ。
 ソファに座る巳琴と目線を合わせる。
 巳琴は、大きな目から涙を流して
「行っちゃ、嫌だ」
 と、貴虎を見つめた。
「俺が?」
 貴虎の言葉に、巳琴はコクリとうなずく。
「どこに?」
 囁くように訊ねると、巳琴は、大きくしゃくりあげた。
「あ、の、おんなの、ひと……」
「女?」
「う…」
「俺が、女んとこ行くと、悲しいのか」
「ううっ…ふ……」
 巳琴は、ソファに座ってうなだれる。右手でまた、貴虎のシャツをぎゅっと掴む。
 貴虎は、胸が熱くなった。
「行かねえよ」
 巳琴の顔を両手で包んだ。
「行くわけねえだろ? 何で、そう思うんだよ」
「だ、て……タマ…タマっ」
「タマ?」
「タマってるから、やらせ…って……」
 えぐえぐと泣きながら言う巳琴の言葉で、ようやく貴虎は思い当った。
「ああ、あれ」
 巳琴の目が不安そうに揺れる。
「冗談に決まってるだろ?」
 巳琴は鼻をすすり上げる。
 巳琴の顔は、涙だけでなく鼻水まで出てくちゃくちゃだったが、貴虎 には最高にいじらしく、可愛らしく見えた。
「抜こうと思ったら、右手でだって抜けるだろ? タメるかよ、ばあか」
「うっく…うっく…」
 貴虎は、自分がどうしていちいち下品な言い回しを好むようになったか、気が付いた。

 この可愛い弟の、困った顔が見たいんだ。

「ミコト」
「う……」
「お前こそ、俺に愛想つかして美樹原の方がいいとか思ってんじゃねえの?」
「ふぇ?」
 涙でぐちょぐちょの目が一瞬きょとんと見開かれた。
 そしてすぐに、巳琴は顔を左右に振った。
「そ…んな、こと……」
 貴虎のシャツを両手で掴むと、そこにぐちゃぐちゃの顔を擦りつけて、ついでに鼻もかんで言った。
「僕が、好きなのは、ずっと、兄さん、だよ……」
「ミコト」
 貴虎は、巳琴を抱きしめた。
 巳琴の腕が、貴虎の背中に回る。

「……そしたら、続きしてもいいかな?」
 貴虎の言葉に、巳琴は顔を上げた。



* * *

「何で、お風呂場?」
 巳琴がうろたえる。
「だって、お前、顔ぐちゃぐちゃだぞ。鼻水、出てるし」
「あ」
 巳琴は、恥ずかしそうに鼻の下に手を当てた。
「俺のシャツも、やられたしな」
 貴虎は、来ている服を脱いだ。
「ほら、お前も脱げよ」
「やっ」
 元々、貴虎にボタンを外されていたシャツはあっという間に脱がされる。
「下も」
「や、だ」
「お前、そういうのがそそるって、知っててやってるだろ?」
「え?」
「ほら、ジーパン濡れると、脱げなくなるぞ」
 嫌がる巳琴のジーンズを脱がせると、下着に手をかける。
「やだよ、これは」
「また、やだ?」
 貴虎は、ふっと笑った。
「ま、いいや、来いよ」
 貴虎に手を引かれてトランクスは穿いたまま、二人はバスルームに入った。貴虎が、シャワーの水を巳琴の頭からかける。
「うわぷ、冷たい」
「すぐにお湯になるって。ほら、顔洗えよ」
 シャワーヘッドを壁に取り付けると、巳琴は素直に顔を洗った。確かに、ベタベタして気持ち悪かったのだ。腫れぼったかった目が水で冷やされてちょうどよくなる頃、シャワーの水がお湯に変わった。
(あ、気持ちいい……)
「ふっ……」
 と、巳琴が息をついたとき、貴虎の腕が背中から廻されて、巳琴の身体を抱きしめた。
「やっ」
 慌てて振り返ろうとしたが、そのままうなじに唇を這わされて、ビクンと身体が揺れた。貴虎の手が、巳琴のトランクスの下に滑り込む。
「やっ、やめ……」
 貴虎の指が自身を掴んで、巳琴は、思わず前かがみになる。貴虎はそれを支えるように腰に手を廻すと、背中から覆い被さった。
 貴虎の右手が巳琴の雄をゆっくりと弄る。自分でするという経験すら少なかった巳琴は、あっという間に反応した。
「形、変わってきたな」
 耳元で囁かれて、巳琴は恥ずかしさにぎゅっと目をつむった。
「気持ち、いいか?」
「やっ」
 膝が崩れそうになるのを、貴虎が支える。
「窮屈で、気持ち悪いだろ、脱げよ」
 巳琴のトランクスをずり下げると、巳琴は素直に足を抜いた。いつの間にか、貴虎も裸になっている。
「あっ」
 貴虎の指が先端の括れを擦ったとき、思わず高い声が出た。巳琴はそれが恥ずかしくて、唇を噛んでうつむいた。
「声、出せよ」
「んん」
 巳琴が首を振ると貴虎は、腰を支えていた腕を少し持ち上げ、巳琴の胸の突起を捻るように擦り上げた。
「あっ、やあっ」
 甘い悲鳴と共に、巳琴の膝が崩れる。
「おっと」
 貴虎が、きつく抱きしめるように支えて
「ほら、これ掴んでな」
 巳琴の手を、シャワーヘッドの取付口に捕まらせた。
「は……」
 巳琴の胸と雄を攻めたてながら
「お前、もうイキそうだな」
 そう言う貴虎の声もかすれている。
 巳琴は、背中に押し付けられた貴虎のそれも熱く固くなっているのを感じて、ひどく興奮した。
(兄さんも、感じてるんだ)
 自分の身体で兄が性的に感じているというのが、嬉しかった。
「兄さん……」
 吐息のような声をもらすと、背中にあたる貴虎の雄がドクンと大きくなった。
 その瞬間、巳琴は精を吐き出していた。
「く…んっ……」
 ぐったりする巳琴を背中から抱きしめて
「気持ちよかったか?」
 貴虎は耳に口づけた。



* * *

「やっ、あっ、痛い、だっ、だめ」
 巳琴が半べそになってズリズリと逃げる。
「大丈夫だから、ちょっとだけ我慢しろよ」
 貴虎が、腰を掴んで引き寄せる。
「やっ、無理っ、痛いっ、痛いいぃぃっっ」
 バスルームの為だろう、巳琴の叫び声はひどく大きく響いた。
「きこえるぞ」
「だって、痛いよ。無理だよっ」
「まだ、指の一本も入ってねえだろ?」
「入らないよ」
 またもえぐえぐと巳琴は泣き始めた。
「はあ」
 貴虎は、大きく溜息をついた。
 巳琴は、はっとして貴虎を見上げた。
 その目があまりに不安げなので
「なんだよ?」
 貴虎が聞く。
「嫌になった?」
「何が?」
「バージンは、面倒くさくて、嫌だって……」
 裸でバスルームの床にぺたんと座った巳琴が、大真面目な顔で聞くので、貴虎は噴出した。
「バージンって、お前……そりゃ確かに」
「ね、嫌になった?」
 巳琴には、切実な問題だ。

「嫌だって言ったら、どうするよ?」
 貴虎の言葉に、巳琴はくしゃっと顔を顰めた。
 貴虎は、そんな巳琴を抱き寄せると
「よかったよ。お前がバージンで」
 巳琴の首の赤い痕をきゅっと摘んで笑った。







* * *

「で、結局、何が言いたいの?」
「いや、お前の悪戯のおかげで、俺たち、もう、ラブラブ」
「はっ?」
 美樹原が呆れた声を出す。
「そんなこと言うために、呼び出してくれたのか」
「いや……」
 貴虎の目が、一瞬、光った。
「もう、巳琴にちょっかい出すのはやめてもらおうと思ってね」
 上目遣いに見つめる貴虎の目を、まっすぐ受け止めて美樹原は微笑んだ。
「釘をささないといけないくらい、自信無いんだ」
「なんだと?」
「前にも言ったよね。安心するなって」
「お前な」
「ミコトくんは、まだ高校一年生だからね。気持ちだってこれからどう変わるかわからないよ」
 美樹原の言葉に、貴虎は、不機嫌な顔を隠そうとはしなかった。
「貴虎が巨乳のお姉さんに浮気したら、僕がすぐミコト君、もらうよ」
「……んなこと、あるわけ、ねえよ」
 ふてくされたように言う貴虎を見て、美樹原は思った。
(僕がたまにこういう役やらないと、ミコト君が泣くからね)

 これって、究極の愛かも……。


 巳琴をめぐる貴虎と美樹原の三角関係(?)は、まだしばらく続くのだった。





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