ご感想いただいた方へのお礼SSでした。ありがとうございました。
目を覚ましたとき、見慣れない天井に一瞬だけ驚いて、すぐにここが秋山君の部屋だということを思い出した。 隣を見て、秋山君がいないことに焦る。 (どこ行ったの?) バスルームだろうか。 身体を起こして、 「イタッ…」 突き刺す痛みに、思わず声をあげた。 身体の奥に秋山君の名残を感じる。 昨日の夜の記憶が途切れ途切れによみがえって、僕は頬を熱くした。 自分でも、かなり大胆だったと思う。 初めて秋山君と一つになれた嬉しさに、理性のたがが外れてしまった。 (恥ずかしい…) 胸に抱き寄せた布団に顔を埋めた。 秋山君、どう思っただろう。 そして、改めて、秋山君がそばにいないことが恐ろしくなった。 キョロキョロと見回しても、この、隠れようもない1Kのアパートのどこにも気配がない。 呆れて出て行ってしまった? そんなはずないと思っても、心臓がドキドキと鳴り始める。 初めての夜の翌朝に、大好きな人が隣にいないなんて。 きゅっと心臓が締め付けられたとき、玄関のドアが開いた。 「あ、工藤、起きたんだ」 「あ、秋山、くん…」 「どうした?」 秋山君が慌ててやって来て、僕の顔を覗き込む。 「なんて顔してんだよ。具合悪いのか?」 心配そうに見つめられて、僕は、ため息とともに呟いた。 「秋山君が、いなくなっちゃったと思った」 「は?」 「起きたら、いないから、出てったのかと思って」 言いながら、ひどく女々しいことを言ってるって気が付いて、恥ずかしくなった。 「馬鹿」 秋山君が、僕の身体を優しく抱きしめた。 「コンビニ行ってたんだよ。朝めし、昨日のうちに買っておくの忘れただろ」 「あ…」 秋山君が投げ出したビニール袋が、部屋の入口で倒れている。 「そうだったんだ」 ふと机の上の時計を見たら、もう十時近かった。 そんなに寝てたんだ。その上、変な勘違いして…恥ずかしい。 「ゴメンね」 うつむいて小さく呟いたら、そっとまぶたにキスされた。 「俺の方こそ、ゴメン。起きるまで待ってから出ようか迷ったんだけど、よく寝てたから大丈夫だと思って。腹も減っただろ?」 秋山君は立ち上がって、コンビニの袋の中からペットボトルのお茶と牛乳のパックと、食パン、バターなんかを次々取り出した。 「コーヒーでいいよな」 レンジの上のコーヒーメーカーに水を注ぐ。 「あ、僕、やるよ」 ベッドから下りようとしたら、また痛みが走った。僕が顔をしかめたのに気がついた秋山君は、 「いいから、まだ寝てろよ。どうせコーヒーメーカーもトースターもスイッチ入れるだけなんだから。サラダは買ってきたのそのまんまだし」 そう言って、タンスの上に乗っかってた長袖のTシャツを投げてよこした。 「それよか、服着てくれよ。でないと、また俺、襲っちまいそう」 僕は自分が裸だということに気がついて、慌てて服を着た。 秋山君のTシャツだ。 何度か着てるのを見たことがあるそれに袖を通して、僕は、気恥ずかしくて幸せで、なんともいえないくすぐったい気持ちになった。 「パンツ新しいの買って来たから、昨日はいてたのは、うちに置いて行けよ。置きパンツだ」 「ヤメテ」 せっかく、フワフワした気持ちになっていたのに。 ふと見ると、コンビニの袋とは別に、白い小さなビニール袋があった。 トースターにパンを入れた秋山君が、その袋から何かを取り出した。 「花?」 「ああ」 花は花でも、鉢植えの植物のようだった。よく見る園芸用の黒いビニールのポット。 「本当は、よく駅で売ってるような小さい花束があったらそれにしようと思ったんだけど、そんなしゃれたモンは無いんだな、このあたりじゃ」 「買ってきたの?」 「うん。似合わねえ?」 「そんなこと…」 「いいから、言えよ、ホントのこと」 まるで、似合わないといって欲しそうな秋山君にちょっと笑った。 「何の花買ったの?」 「スミレ」 「スミレ?」 「かわいいだろ、ほら」 秋山君が差し出したそれは、可憐な紫色の花を三つばかりつけた小さなスミレだった。 「花屋のおばちゃんに勧められたんだよ。スミレって、こんなに小さくて頼り無さそうなのに、実は強くてしっかりした植物なんだってさ」 「ふうん」 「ちょっと、誰かさんと重なって、思わず買っちまった」 誰かさんって? 訊ねようとしたのに、秋山君の瞳がとても優しかったので、言葉が出なかった。 (僕?) そんな…スミレの花に例えられるなんて、女の子じゃあるまいし。 顔に血が上ったのに、怒ることもできない。 何故って、嫌じゃなかったから。 秋山君が好きな花なら、何に例えられても嬉しいよ。 秋山君は、その黒いビニールポットごと、あの、僕が持つところを割ってしまったウェッジウッドのカップに入れた。 「あ、入んねえや」 黒いビニールの縁がカップの外にはみ出ている。 高級なカップと安っぽい園芸用のポットの対比がかなり異質だ。 「ま、後で切ればいいか」 「そう言って、そのまんまにしそうだよね」 「あ、ばれた?」 「僕がちゃんとするよ」 秋山君が、僕を想って買ってくれた花なら、絶対枯らすわけにはいかないもの。 秋山君は、嬉しそうに笑った。 「じゃあ、お前が育ててくれよ」 「いいよ」 「水、毎日やりに来るんだよ?」 「…毎日は…無理だけど…」 言葉の意味がわかって、僕は言葉を濁す。 ホントは僕だって毎日でも来たいけど。 「ニ、三日来なかったら、枯れちまうぞ」 秋山君が、ゆっくり近づいて来て、ベッドに座った。 「枯らさないよ…」 「ん…」 いつでも水をやりに来られるように合鍵渡しとく…耳元でそう囁かれて、僕は、そのまま秋山君の肩に顔を埋めた。 |
合鍵貰った葵ちゃんと秋山君の大学生バージョンを
いつか書きたいと思っています。
どうもありがとうございましたv
それにしても秋山君は、いつのまにか、少しヘタッてませんか?
攻めは受けにベタボレするとヘタレ攻めになるというのは、
本当ですか??(笑)
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