そして、今、我が家のリビングに、俺とその男――シンと言った――と、ラオ太がいる。
シンは一人掛けのソファに窮屈そうに腰をおろしている。三人掛けの長椅子の方を勧めたのだが、ファラオと並んでは座れないと固辞されたのだ。
俺は、ラオ太がこの世界に来たいきさつを聞かされていた。
「それじゃあ、ラオ太は初めからこっちの世界に来ようと思って来たんだ」
「すまない。ユータを騙すつもりは無かったのだ」
「いや、それは……いいけど」
シンの話によると、ラオ太の世界と俺たちの世界をつなぐ、異次元空間のようなものが王宮の一室に出現し、危険だからと立ち入り禁止にしていたところを、ラオ太が入ってそのまま消えてしまったのだそうだ。
「ここに出るって判っていたのか?」
俺が尋ねると、ラオ太は首を振った。
「別の世界とつながっているというのは判っていたが、どこに出るかなんて知らなかった」
でも、その空間を抜けたとき、こっちの言葉も理解できるようになっていたとか。
うーん、ご都合主義。
「お母上も、たいそう心配していらっしゃいます」
シンが言うと、ラオ太は少し眉を顰めて、吐き捨てるように言った。
「母上には、弟がいるじゃないか」
弟……そういえば、昨日、霊園でラオ太の国の話を聞いたときに、少しだけ家族の話をした。ラオ太には一つ違いの弟がいて、母親はその弟をとても可愛がっていると言っていた。そのときのラオ太は確かに寂しそうだったが、それは、自分の世界から引き離されて家族と別れてしまったショックによるものだと思っていた。
「弟ぎみも、ファラオのことを心配していらっしゃいます」
「嘘をつけ。私が居なくなったら、あいつがファラオだ。母上だって、それを望んでいる」
「そんなことは御座いません」
シンはあくまで静かに言った。
「何故、私がここに来たとお思いですか。女王陛下に、貴方様のお母上に、泣いて頼まれたからですよ」
ラオ太の顔が赤くなった。
「お戻りいただけますね。ファラオ」
シンが、深く静かな眼差して見つめる。
そうか、よくわからないけれど、ラオ太はお母さんと弟にやきもちを焼くかなんかして、家出して来たって感じなんだな。
俺は、家出少年を保護していたのか。
うつむくラオ太の少年らしい横顔。長い睫毛が頬に影を落としている。
「戻れよ、ラオ太」
俺が言うと、ラオ太は驚いたように顔を上げた。俺をじっと見る。
「お母さんが、心配しているんだろ?弟も……」
「ユータ……」
「戻ってやれよ……」
俺がそう言うと、不意に、ラオ太の顔がくしゃっと歪んだ。
下を向いたのは、泣き顔を見られたくないためか。ソファに座ったままうつむいて両手で顔を隠した。
「ファラオ」
シンが驚いて、椅子から降りて跪いた。
俺も、突然のラオ太のこの姿に、胸が掴まれたように痛んだ。
うつむいたまま、声もあげずに、ラオ太はじっとしている。ときおり肩が震えるのは、やっぱり泣いているんだろう。
俺もキリキリと胸が痛んで、そして、次に心臓がドキドキと高鳴り始めた。
「ラオ……」
俺が小さく呟くと、ラオ太は顔を両手に埋めたまま、くぐもった声を出した。
「戻ったほうが、いいか?」
「ラオ太」
「私が、いなくなったほうが……?」
「ラオ太……」
「私は……」
「ラオ太っ」
俺は、思わずラオ太の華奢な身体を抱きしめていた。
声を震わせているラオ太が、切なくて、愛しくて、たまらない気持ち。
ぎゅっと、抱きしめると、ラオ太も俺の背中に腕を回した。

「あの……」
床に跪いていたシンが、恐る恐るといったふうに、口を開いた。
「先ほどから、気になっておりましたが……」
何だよ、いいところなのに。
「その、ラオタというのは……まさか」
シンの言葉に、ラオ太がハッと顔を上げた。
そして、シンに向かって鋭い声で言った。
「私の名前だ」
ラオ太?
「名前っ??」
シンが、その大きな身体に似合わない、裏返った甲高い声をあげた。
「そうだ。私の名前だ。ユータが名づけてくれて、私は正式にそれを受けた」
涙を拭った凛とした顔で、ラオ太が言う。
宣言と言うにふさわしい、王者らしい堂々とした声だった。
「何ですと?!」
叫んだシンは、片手のひらを天に向けて額に当てて、ふらりと後ろに仰け反った。
いまどき、少女漫画でも無いショックの表し方だ。
何なんだ?
そういえば、ラオ太の国ではファラオは死んで初めて名前を授かるとか言っていたような。
それで、ショックなのか?
俺は、まずいことをしたのだろうか?
だから、最初から名前じゃなくてあだ名だって、言ってたのに……
「ラ、ラオ太……」
俺は腕の中のラオ太を見た。
ラオ太はうっとりとした顔で、俺を見上げる。
ラオ太、ひょっとして死んでしまうのか?
俺は、目の前が真っ暗になった。



「ラオ太、お前……」
「いいのだ、ユータ」
俺を見上げるラオ太の瞳が潤んで、長い睫毛が震えている。
そんな、そんな……
「ダメだ……ラオ太」
ラオ太が死んでしまったら、俺はどうしたらいいんだ。
たった三日の間に、こんなにも惹かれている自分を知る。
「いいのだ……ユータ」
瞳を閉じながら、ラオ太が微笑む。頬にほんのりと朱が散って艶めかしい。
「死んじゃ、だめだあっ」
「私は、お前のものだっ」
「ファラオ――――っっ」
ほとんど三人、同時に叫んだ。

ラオ太とシンが、へっ?という顔で俺を見た。
あれ?
俺、何か、間違ってる??
「何故、私が死ぬのだ?」
ラオ太がきょとんと俺を見る。
「え……だって……」
ラオ太の国では、ファラオは死んで初めて名前を授けられるって言う話……。
それを言ったら、ラオ太は、ぷっとふき出した。
「確かにそうだが、私が名前を受けたと言うのは、そういう意味ではないぞ」
「へ?」
「私の国で、ファラオに名前を付けられるのは、その伴侶だけなのだ。生前には他の者に呼ばれることの無いその名を、王の妻だけが、呼ぶことが出来る」
ラオ太が、俺を見上げながら言う。
「そして、王が亡くなって初めてその名が広く国民に知らしめられて、次代のファラオと区別されるのです」
シンが、恨みがましい涙目で俺を見つつ言う。
そ、それって……。
ラオ太がニッコリと微笑んだ。腕を俺の首に廻しながら。
「私は正式に、お前を伴侶として選んだのだ。王の妻となって欲しい」
「つ、妻?」
「いや、この場合は、私が妻となった方がよいのかな」
困ったように俺を見上げて、そして、シンの方を向いて言った。
「どう思う?」
シンは、その場に崩れていた。



* * *

「とにかく、一度国にお戻りください」
シンがようやく気を取り直して言うと、ラオ太は冷たく応えた。
「嫌だ。せっかく伴侶ができたというに、何で引き離そうとする」
「そのことも、お母上に報告すべきでしょう」
「お前からしておけ」
「ファラオ」
「父上が死んでまだ二年。あと三年は母上が女王として統治できる期間だ。私はしばらくこっちの世界でユータと暮らすから、弟にもよろしく伝えよ」
「困ります―っ、ファラオー」
シン、なんか、登場したときとキャラ変わっていないか??
そして、シンは帰った。ラオ太を連れず、一人で。
「ひとまず、女王陛下にこの件をご報告してのち、改めて参ります」
「うむ。ご苦労」
「すぐに戻りますからねっ」
念を押して、去って行った。あのS山のふもとから帰るのだろうか。
俺は、事の成りゆきに呆然としている。
「あ、あのさ……」
「何だ?ユータ」
「名前を受けたって、その、俺と……」
「そうだ」
ラオ太の花のような微笑に、カッと身体が熱くなる。
それでも、疑問は残った。
「でも、俺を殺してまでお前を連れて帰ろうとしていたのに、やけにあっさりと帰ったんだな。シン……」
「ああ、私の国では契りと言うのは絶対なのだ。それを覆してしまうと、大きな災いが国中に降りかかるといわれている」
「ち、契り……?」
「伴侶の誓いをすることだ」
ラオ太は微笑んで、ソファに座る俺の膝に乗ってきた。
小さく愛らしい唇をほんの少し尖らせて、俺の顔に寄せてきた。
「シンが戻って来る前に、既成事実をつくってしまおう」
って、ラオ太ぁ――――――っっ。





* * *


「ちょっと、ラオ太……待って……」
心の準備をさせてくれ。
「ん……」
ラオ太の唇が、俺のそれに重なってきた。柔らかくしっとりとした感触。ほんのり花の香がするようだった。
頭の芯が、クラリとした。
下半身が急激に反応する。
心の準備はまだだけど、身体の準備はオッケーだ。なんちゃって。
ラオ太の舌先が、俺の唇をペロリと舐めた。うっ、積極的。
このままでは、さっきの話じゃないが、俺の方が妻になってしまう。
(それは、マズイ)
俺は主導権を奪取すべく、ラオ太の細い身体を抱え上げると、くるりと反転して組み敷いた。
「あ……」
ソファに寝かされて、ラオ太は恥ずかしそうに俺を見上げた。
長い睫毛の上目遣いがむちゃくちゃ可愛い。
再び口づけて、舌を差し込むと、ラオ太の舌が俺に応えた。
下になっても、積極的な奴。さすが、ファラオだ。
「んっ…んん…ン……」
互いの舌をきつく吸い上げ、唾液をからめる。次第に身体が熱くなる。
女の子とは何度か経験があるが、男の子とは初めてだ。しかし、ラッキーな事に、アナルセックスのやり方なら、高校時代にバカな友人が事細かに説明してくれていた。
ありがとう、本田。あの時は、下品な奴だと思ったけれど、こんな所で役に立つとは。
友達は、宝だ。
とか、考える余裕は、そろそろ無くなってきていた。
口づけの合間に漏れるラオ太の可愛い声が、俺を煽る。
今日俺が着せてやった、ラオ太の青い開襟シャツの釦を一つずつ外すたびに、俺の下半身に熱がたまる。
シャツをはだけて、指を滑り込ますと、ラオ太は小さく喘いだ。
よく日に焼けたすべすべした肌触りが気持ちいい。手のひら全体で大きく撫でると、固くなった突起が中指の先にあたった。
「あ、っ……」
ピクリとラオ太の身体が跳ねる。
その反応が嬉しくて、俺はそこをクルクルと転がすように刺激した。
「やっ、あっ……ンン」
可愛く鳴いて、ラオ太は俺の背中に腕を廻した。
ゾクゾクする。
初めて会った時は、どこか不遜な物言いと、偉そうな態度が鼻についた。(ついこっちが卑屈になってしまうほど……)
次の日は、プライドの高さを見せつけられたけれど、意外に少年らしい素直な笑顔に心惹かれた。そして、今日の昼には、可愛くて、愛しくてたまらなくなっていた。
たった三日間で、こんなに人を好きになることがあるのかと、自分でも不思議だ。
その愛しい子が、自分の腕の中で肌に朱を散らして、喘いでいる。
気が遠くなりそうなくらい、ゾクゾクする。
「ラオ……」
耳元で囁くと、ラオ太は俺の背中に廻した手にきゅっと力を入れた。
唇で薄い耳朶をくすぐると、身体を寄せてくる。
膝を立てて、下半身も擦り付けてくる様子が、素直すぎて可愛い。
胸から下に手を滑らせて、ショートパンツの釦をはずしてファスナーを下げた。
「ユータ……」
甘えた声。
王様、こんな可愛い声が出せるなんて……感激です。
下着の下に手を入れて、やんわり握ると、少年らしいそこはもう固くなっている。
自分と同じモノを愛撫するってのは、何だか不思議だ。けれども、気持ちよくしてやると、ラオ太が可愛く震えて鳴くので、自分で自分が止められない。
俺自身も、このラオ太の痴態だけで、限界かも。
本田がせっかく教えてくれたアレは、今日はたぶん出来そうにないな。
でも、焦らなくてもいい。
このわがままで可愛い王様は、俺を伴侶に選んでくれたんだからな。
悩ましく喘ぐラオ太の顔を見つめていると、そっと薄目を開けたラオ太が、唇を寄せてきた。
愛いおねだりに唇を落として、口づけたまま囁く。
「ずっと、一緒に……」
―――次元を超えても、ずっと一緒にいよう。ラオ太―――――











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