……で、対等になったはずなのに、やっぱり俺はラオ太の背中流しているし。 寝るときの御伽噺も、してやってるし。 でも、可愛いから、いいか。 友達宣言の後も、ラオ太はやっぱり王様で、俺はやっぱりどこか、ラオ太をもぎ太のように可愛がっている気がする。決して、奴隷のように従っている訳じゃない。ラオ太が可愛いから、色々してやりたいって気持ち。 変じゃないよな。 とりあえず、明日は靴を買いにいこう。服は俺の小さい時のがあるけど、靴だけはサイズがどうにもならないから。 そして、家で留守番させるのはかわいそうだから、というか俺が心配で落ち着かないから、大学にも一緒に連れて行こう。 * * * そして、俺たちは、駅前の商店街のスポーツショップで靴を見ている。 いや、見ているのは俺で、ラオ太は椅子に座って足を投げ出している。 「ラオ太、これは?」 今後の事を考えて、紐付きのシューズはやめておいた。独りでも簡単に履いたり脱いだり出来るようにスリッポンタイプの靴。 「ん」 どれを履いても、今ひとつ不思議そうな顔をしている。 「気に入らない?」 せっかくだから、ラオ太が気に入ったのを買ってやりたい。 「いや。そうではないが……」 「が?」 「何か、変な感じだ」 「どういう風に?」 「柔らかくて、軽い」 「何だ」 俺は、おかしくなった。 「履き心地がいいってことだろ?」 さすが、世界のナイキ。 白にブルーとイエローのラインの入ったシューズを選んで買った。 「はい、ラオ太」 「ありがとう」 「え?」 俺は、一瞬耳を疑った。 『ありがとう』 じ―――――――――ん。 拾ってから、いや、ラオ太がうちに来てから、三日目にして初めて聞いた。この言葉。 うつむいて自分で靴を履くラオ太の姿を見ながら、胸が熱くなった。 むしょうに、他のものも買ってやりたくなった。 ひょっとして、俺って、ミツグくんの素質があるのだろうか? いや、違う、違うぞ。でも、新しいシューズを履いたラオ太に、俺のお下がりじゃない服を着せたい気がむらむらと湧いてくる。 「よし、ラオ太、次はシャツ買いに行こう」 「え?」 きょとんとするラオ太の手を取って、俺は次の店に向かった。 濃いマリンブルーのシャツと、白のコットンのショートパンツ。夏らしい組み合わせを選んで、ラオ太の身体にかざして見る。小麦色の肌に映える。 「どうぞ、よろしければ、ご試着ください」 「あ、はい。よし、着て見よう、ラオ太」 店員の優しい声に促がされて、更衣室のカーテンの前まで来て、俺は固まった。 (ラオ太は、ひとりで、着れない……) シャツとパンツを持ってじっとラオ太を見る。 ラオ太も、じっと俺を見つめる。 そんな、俺たちを店員のお姉さんが、じっと見ている―――視線を感じる。 俺は、お姉さんのほうを向いてニコッと笑って見せて、ラオ太を更衣室に押し込んだ。そして直ぐに自分も入る。 ううう。こんな狭い部屋で男ふたりが何をしているのだろうと、お姉さんは思ったに違いない。けれど、俺はどうしてもこの服をラオ太に着せたいんだ。 思ったとおり、ブルーのシャツも白のショートパンツもラオ太によく似合った。 (か、可愛いっ) 人形のように、俺に着せられるままになっているのも、何かドキドキしたぞ。 ラオ太が、鏡に映る自分の姿を、小首をかしげて眺める様子は、なんだか抱きしめたいほど可愛かった。 俺は、おかしいのか?? 「なんだか……変?」 ラオ太が俺を見上げる。 え? 一瞬、自分のことかと思ってドキッとしたが、ラオ太が服のことを言っているのだとわかって大きく首を振って否定した。 「変じゃ、ないよ。可愛い。すっごく可愛い」 「かわ、いい?」 「可愛い、絶対、可愛いっ」 拳を握って主張した。 そして、可愛いを連発している自分に気づいて、顔が熱くなった。 ラオ太の顔も、なんだか赤い気がする。 二人して、赤い顔をしてカーテンから出てきたとき、店員のお姉さんの引きつった微笑が、痛かった。 「これ、このまま、着ていきます……」 「ありがとうございます」 それまでラオ太の着ていたものを小さくたたんで紙袋に入れてもらって、俺はこのままラオ太と出かけたいと思った。 中央線に乗ってしまったら、吉祥寺まですぐだ。 井の頭公園は、今日は天気もいいし、気持ちいいだろう。 途中で食べ物を買って、芝生で食べよう。 俺は、すっかり浮かれていた。 ラオ太も、きょろきょろしながら、楽しそうに俺の後ろを付いて来る。 井の頭公園のボートにも乗った。 ここのボートに乗ったカップルは別れるとか高校のときクラスの女子が言っていたが、まあ、関係ないか。 ―――そのジンクスが、関係なくはなかった……と知るのは、そのニ時間後だった。 * * * 井の頭公園から帰ってきた俺は、すっかり浮かれて弾んでいた。 ラオ太も意外なほど素直に、このお出かけ(デートとはいわないよな)を楽しんでくれていたようだ。 「楽しかった。また行こう。ユータ」 そう言われたときは、なんだか感動した。 「うん、行こう、行こう」 今日は大学をサボってしまったが、何度でもサボって行きたい気持ち。マズイか。 そうだ。明日は、大学に連れて行こう。 佐久間にももう一度ちゃんと紹介して、授業が終わったら、俺のよく行く店にも連れて行きたい。 「なあ、ラオ…」 隣を歩くラオ太に声をかけようとしたとき、突然ラオ太が足を止めた。 「どうした?」 ラオ太は、前方を見つめている。 そっちに視線をやると、真っ黒な布を纏った男が立っていた。服を着ているというより、身体に布を巻きつけたような不思議な衣装。髪も真っ黒で肩の下まで伸ばしている。肌の色は、ラオ太のように小麦色。 俺の勘が、ラオ太の世界の人間だとおしえた。 黒の男が近づいてくる。ラオ太はじっと固まっている。 「ファラオ」 男が呼びかけた。 「お捜しいたしました」 ラオ太はいきなり駆け出した。 「ラオ太っ!」 「ファラオ!」 同時に叫んで追いかけたが、その男は素早かった。 ラオ太の腕を掴むと、ぐいと引き寄せ、自分の纏っていた黒いマントのような布の中にラオ太を包み込んでしまった。 「やっ、放せっ、放さないか。シンっ」 ラオ太が叫ぶ。 俺は、カッとして、その男に掴みかかった。 「ラオ太を放せっ」 「何だ、お前は」 ラオ太は、男の胸の中でもがいている。 「嫌がっているじゃないかっ」 俺よりもその男の方が、はるかに体格は優っていたが、俺も夢中だった。 俺が殴りかかった隙に、ラオ太はその男の腕の中からすり抜けた。 「ラオ太、逃げろっ」 俺は、自分の家のカギを放り投げた。 「家帰って、カギ掛けてろ。俺は大丈夫だから!」 ラオ太は、カギを拾って、一瞬走りかけたが、俺がその男に組み敷かれたのを見て、止まった。 「ファラオ、貴方様が逃げたら、この男の命はありませんよ」 男が低い、けれどナイフのように鋭い、声で呼びかけた。 うそっ、命がって、そんな大変な状況?? 「私は逃げないから、ユータを……その者を、放してくれ」 ラオ太は、ゆっくり戻ってきた。 「その者に、私は大変世話になったのだ」 ラオ太がそういうと、男はすぐに俺から手を離して、脇に跪いた。 「失礼、致しました……」 俺は、何が何だかわからず、男とラオ太の顔を交互に見やった。 |
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