わたしのなかで、おまえのみたまがなりひびく。



「娘の声が、止まないのです。」
流行り病で子を失った若い夫婦がさめざめと泣く。



「夜毎に聞こえてくるのです。

”お父、お母、こっちへ来て。ひとりはいやだ。”

あんなに小さいのに、逝ってしまった。
淋しい筈です。

私達も淋しい。

どうぞ、どうぞ。

お助けくださいませ。」



夕日が公孫樹の葉で埋め尽くされた道を照らす。

「かしこまりました。」

若い女は小さく頷いた。

白い髪が、振れた。



若い女は死んだ者を思う。

その子が好きだったという人形を抱いて。

胸から広がる、見ず知らずの思い出。



白すぎる肌と髪に映える、紅の唇から幼い声が出てくる。



”お父、お母、ひとりは淋しいよ。一緒に来て。”



「いけないんだ。一緒にはいけないんだよ。ごめんよ。」
「助けてあげられなくて、ごめんよ。後から必ず行くから、いい子で待っていておくれ。」



”お父、お母…。”



「辛いよなぁ。淋しいよなぁ。本当にごめんよぅ。」



”うん。へいきだよ。ひとりでへいきだよ。

お父とお母が一緒にいるなら、あたしはひとりでへいきだよ。

2人でいてくれるなら、あたしはそのまんなかにいけるから。

だから、2人で、ずーっとずーっと仲良くしてね。”



死んだことをわからないのは、生きている人間だけ。

生きている者が死を受け容れられないだけ。



若い女は人形を夫婦に渡す。



「娘さんの御霊、確かに鎮めました。」



夫婦は何度も何度も頭を下げ、
長い影と共に去り行く若い女をいつまでもいつまでも見送っていた。

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何か話を書いてない日の方が多い気がしてなりませんが気のせいです。



えーと、今日は劇中に出てきている公孫樹(いちょう)の日です。
漢字表記の場合、銀杏と書く方が多いかな、とも思うのですが、
公孫樹の方が今回のイメージに合ったので、こちらを採用。
花言葉は「鎮魂」「長寿」「しとやか」だそうです。

今回のお話も、頭の中で考えている話の1つ。
「鎮(しずめ)」と呼ばれ、死者の魂を宥めることを生業とした人のお話です。
もっとも、それがメインの話ではないのですが。
今回出てきた女性も、きちんと設定がある人なので、
やっぱりいつか形にできればと思います。

他のお花と花言葉は以下の通り↓

酸葉(すいば)…「愛情」「親愛の情」
(いたってシンプルですね)


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