「お前・・・『他の方』が来なかったらどうするんだよ?」

たった1人の面接で疲れ果てた様子の弟に、追い討ちをかけてみた。

「そんな事知るか!」

むう。すっかりいじけてしまったようだ。

「あー、分かった、バーディ。後は俺に任せろ」

「ああ、そうさせてもらうよ!もー疲れた」

投げやりになったバーディは、靴音も高く自室へと引っ込んでしまった。

仕方ない。ここは、兄の威厳を見せ付けてやろう。

必ずや、このボギーが、看板息子をゲットしてみせようじゃないか。

 

ところが、俺の決意も虚しく、その後は人っ子独りやって来ない。

時は既に夕暮れ。

バーディは眠っているのか、あれから1度も店の方には来ていない。

まずい・・・このままでは本当に、看板のような息子を採用する事になってしまう。

「なあキャディーさん、もしジムが看板息子になったら、この店はどうなるだろう?」

足元にじゃれつくキャディーさんを撫でつつ言うと、彼女は千切れんばかりに尻尾を振った。

「そうだよな。キャディーさんは嬉しいよな・・・」

別に悪いやつじゃ無かったからな、この際それも良いだろうかと、半ば本気で思い始めた頃、

再び扉を叩く音がした。

・・・神よ!

今だけ敬虔な神の使徒と化した俺は、慎重に扉を開いた。

 

「あの、看板息子って、まだ募集してますか?」

入って来たのは、美しい銀色の髪の少年だった。

いや、美しいのは髪だけではない。目鼻立ちもすっきりと整った、かなりの美少年だ。

これはいける。むしろ、女性客のハートを握り潰せる勢いだ。

「ああ、まだ募集中ですよ!どうぞどうぞ」

思わずステップを踏んだ俺に対し、キャディーさんは全く興味無しといった様子で、

扉の側にうずくまってしまった。

 

「えーと、あ、俺はこの店の半マスター、ボギーです」

我が身を包むこの上無い喜びにまかせて、通常の8割増のスマイルで挨拶をする俺に、

少年は不思議そうな顔をした。

「半マスター・・・って、どういう・・・?」

「ああ、もう1人、俺の弟のバーディってヤツがいてね、2人で1人前なんだ」

「へぇ・・・面白いですね」

うむ。素直な反応だ。素直なのはいい事だ。ひねくれ者は、客商売には向かない。

「あーっと、じゃあまず、君の名前は?」

浮ついた気持ちを押さえ、居住まいを正すと俺は面接を開始した。

「ええと、ライゼと言います」

 

ライゼの話は以下のようなものだった。

この町に来る前、ライゼは両親と共に、大陸北部の森で暮らしていたらしい。

と言うのは、彼の父はエルフであり、しかも集落の長の息子であった為だと言う。

人間であった母は、初めは父と共に暮らす事を望み、森の生活に馴染んではいたのだが、

やはり人間の住む町が恋しくなったらしい。そこで、父や村の者達と話し合った結果、

人間の町へ、母の故郷であるこのグラスへ戻る事を許されたのだそうだ。

「それじゃあ、お父さんは?」

俺が聞くと、ライゼはにっこりと笑って、言った。

「当然、一緒に来てますよ。父は元々人間の町に興味津々でしたから」

ううむ、つまりこの少年は、種族を超えた愛の結晶な訳か・・・。

久し振りに聞いた良い話に、こっそりと感動しつつ、俺は話の先を促した。

「でも、父は自分の故郷から出た事が無いので、仕事をするにしても大変だと思うんです。

だから、僕も働こうと思って・・・」

ううむ、さっきのジムと言い、ライゼと言い、最近の若人は皆堅実だなぁ・・・。

「しかし、見ての通りの小さな店だ。大した給料は払えないと思うぞ?それでもいいのか?」

そう言ってから俺は、この自分の首を締めるような発言に少々後悔した。

これでもし、ライゼが去ってしまったら、ジムを雇うしかないじゃないか!

「あ、それは大丈夫です。別に、僕だけしか働かないって訳じゃないですから」

お願いできませんか?という真摯な眼差しが、俺を見つめる。

もしも此処にいたのがボギーと言う名の美少年好きの熟女か、その道の男であれば、

間違い無くKOされたであろう。

「いや、こちらこそお願いしたい。早速明日からでも来てくれないかな?」

「ホントですか!?ありがとうございますっ!」

さらばだジム。

 

「おい、バーディ、起きろ!」

ライゼと別れた後、俺はベッドで眠りこけている弟を叩き起こしてやった。

「何だよ・・・結局ジムしか来なかったのか?」

寝ぼけ眼でメガネを探す弟の頭を平手で叩き、

俺は知りもしないダンスを踊りながら笑顔を振り撒いた。

「はははバーカ!ジムとは金輪際おさらばだ!明日からはまともな看板息子が来てくれるぞ!」

「ホントに!?やったじゃないか、兄さん!」

俺達は、前日に引き続き、夜更けまでハイテンションに過ごした。

 

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