「お!そろそろ人が集り始めましたな」

荒が立ち上がり、大声を上げる。見れば、老人や親子連れなど、

様々な人々が寺の門をくぐり始めていた。

若い夫婦の飼い犬が、我々を見て吠えている。

「はっはっは。あの犬も、この門を出る頃には我々に尻尾を振るのでしょうなあ!」

「ああ。そうなるだろうな」

上機嫌の荒に続いて、俺も門をくぐった。

 

「鬼はぁぁぁぁ外!!福はぁぁぁぁ内!!」

元気の良い声に合わせて、「鬼」と「福」が飛び交う。

昨年の「福」は、手持ちの札を「鬼」に渡し、「鬼」は「福」に手持ちの札を渡す。

それで、役割の引き継ぎが完了する。

荒は早速、いやに細身で色の白い「福」を捕まえて、札を奪っていた。

「おーし!じゃ、しっかりやれよ!鬼!!」

「は、は、はいいいいっ!」

何時もながら強引な男である。札を取り替えた「福」は、

震え上がって逃げていってしまった。

(あれで「鬼」が務まるのだろうか・・・)

他人事ながら、少々心配になってしまう雰囲気の神だった。

「うわっはっはっはっは!それでは針殿、お先に失礼ィ!」

豪快に風に乗って去る荒を見送り、俺は自分の交代相手を探した。

「鬼」と「福」の総数は、全く同じ。故に、慌てる事無く相手を探す事が出来るのだが。

(ん?あれは・・・)

歓声を上げて豆を巻く人々の向こう、樹齢を重ねた木の陰に、涙を浮かべた「福」がいた。

 

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