9・仔犬を拾うヤンキーに出逢った

ヤンキーという言葉自体、ちょっぴり懐かしさを覚えてしまう今日この頃。
みんな元気か。今日も担当はこの俺、車井 巡だ。

今日は授業が午前で終わる日だったので、
俺はいつものようにタカと共に家路を急いでいた。
「まだ早いのに、真っ暗だよなー。」
何でも、台風が近付いているとかいないとかで、午後から天気が大荒れだという予報が出ていた。
「家に帰るまで、もってくれるといいがな。」
と、俺が空を見上げた瞬間、空が号泣した。

「うっわー!そりゃないだろ〜!!」
「悪意を感じるな…!」

わぁわぁと叫びながら、豪雨の中を走り出す俺達。
青春ぽい光景だ。
雨に濡れるというのは不思議なもので、何だか気持ちがすっきりする。
ごく少量の雨だと憂鬱さと苛立ちをもたらすだけなのだが、
これほどの雨だと逆に爽快になってしまう。
―全てを洗い流してくれる、ということだろうか。

「あれ?なあ、何かすごいリーゼントの人がいる!」

自分の思考に酔っていた俺を現実に引き戻したのは、
親友の何ともコメントしがたいセリフだった。
「リーゼント?あ、ほんとだ。」

その男は、俺達の目の前に立ち尽くしていた。
雨の中、腕の中に小さな仔犬を抱いて。

「へっ。オマエも…独り、か。」
「きゃん!きゃん!」

男の腕の中の仔犬は、元気そうに見えた。

「おれも、オマエと一緒さ。
いいや、おれたちだけじゃない。
誰もみな孤独なのさ。
だから、こうして身を寄せ合って生きていくんだ…。」

そういうと、リーゼントの男はどこかへ走り去っていった。
腕にしっかりと仔犬を抱いて。

「す…すごい!今の見た!?あんな人ホントにいるんだ!」
「ああ。驚いたな。」

しかし、俺の心に何かが引っかかる。
俺は、あのヤンキーっぽい男に、会ったことがあるんじゃないだろうか。

後日、疑問は解けた。

「きゃんきゃん!」

休日。家の近くの公園に散歩に来た俺の耳に、いつぞやの仔犬の声が聞こえた。
そして。
「ほら!無期限!危ないぞ!おいでおいで!」
髪をぴしりと撫で付けた(セットしたというよりは、撫で付けている)黒縁眼鏡の少年が、
満面の笑みで仔犬を追いかけてくる。
「よ〜しよ〜し、無期限、オマエは本当にいい子だね〜。」

あれは…。

あれは…!



クラス委員長…!!!



「さ、無期限。おうちに帰ろうね〜。ごはんの時間だからね〜。」
「きゅーん!」

1人と1匹は、俺に気付くことなく去っていった。
これは夢なのか。
あの、堅物で真面目でちょっとおかしなクラス委員長が。
リーゼントで。
雨の中立ち尽くし。
仔犬を拾い。
何だか妙なセリフと共に走り去り。
あまつさえ拾った犬に「無期限」という、何ともいえない名前を付け。
ものすごい笑顔で散歩をしている…!

久し振りに心から驚いた。
俺は懐から携帯電話を取り出し、番号を検索して、
通話ボタンを押しながら電話を耳に当てた。

「もしもし?ああ、タカ。今からお前の家に行くぞ。重大な話がある。」

8.に戻る10.に続く


変な人登場。本当の意味でのヤンキーではないですが。
気付けば次でお題もオシマイなんですねぇ。
新しいの探してこなきゃ。
ちなみにクラス委員長の名前は腰村 要人(こしむら ようじん)の予定。
今後登場する予定はないですが。


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