10・あぁ、鍵が壊れてる!

その日、オレ達は体育館の倉庫の整理をしていた。
今日は大掃除の日。
あ、ちなみに今日はオレ、高村 高のトークだからね。どうでもいいかもしんないけど。

別にオレもジュンも掃除が好きなわけじゃないけど、
こういう狭い空間は好きなので、
2人でくだらないことを話しながらだらだらと掃除をしていた。

ところで、体育用具というのはどうしてこう、独特の「におい」がするんだろう。
ジュン曰く「生徒と教師と保護者の血と汗と涙その他諸々のにおいだ」ということだが、
正直それはカンベンして欲しい。
何にせよ、決していいにおいではないんだけど、オレは結構このにおいが好きだったりする。
何ていうのかな。物寂しいカンジがするにおいなんだけど、
ちょっとドキドキするような、それでいて懐かしいような…、
ふっと孤独な気分になったりして、急いでここを出たくなるような、
薄汚れたマットや跳び箱、ボールに囲まれて、ずっとここに独りでいたいような…、
そんなような…、

「むっ!ふっ!はぁぁぁぁぁ…!」

物思いにふけっていると、オレの横でジュンが気合いの声を発した。
「…どしたの?」
不審に思って声をかけると、ジュンが真顔で答える。
「いや、ちょっと喉が渇いたんで、水でも飲んでこようかと思ったんだが…扉が開かない。」
「えぇ?」
慌ててオレも引っ張ってみたけど…ホントだ、開かない。
「ここに入った時に、扉の具合がちょっとおかしいような気はしたんだが…、」
「だったら何で全部閉めちゃうんだよー。」
抗議しつつ、とにかく扉を開けようと2人で色々やってはみたが。

「ダメだ…。鍵が壊れてる。」

諦めて座り込んだ。

今日は学校の都合で、部活動も何も全部休みの日。
午後からは学校に誰もいなくなるのだ(先生はいるだろうけど)。
誰かが気付いてくれればいいが…。
「なあ、このまま誰にも気付かれなかったらどうしよう?」
ちょっと不安になったオレがぼそりというと、即座にジュンは笑顔を作った。
「心配するな。遅くとも明日には誰かが気付く。」
まあ、幸い真夏でも真冬でもないし、体育館の倉庫だから、
極端に気温が上がったり下がったりする心配はない。
腹は減るだろうし、喉も渇くけど、まあ明日までだったら死にはしないだろう。
「あーあ。」
大きく溜息を吐くと、いきなりジュンがバスケットボールを投げてきた。
近距離だったがかなりのスピードのある玉だったので、オレはごろっと転がって避ける。
「うわっ!何すんだよっ!」
「はーっはっはっは!久し振りだなシャイニング!!よくぞこの邪獣将軍ブラック・ビーストの
スクリューレーザーをかわしたものだ!」

突然の展開に唖然としていると、ジュンがいった。

「久し振りに、やらないか?シャイニングごっこ。どうせ誰も来ないんだし。」

いつもと違う場所。
オレ達以外は誰もいない。
そういえば子供の頃、どこかの工事現場に黙って入り込んで「シャイニングごっこ・スペシャル版」とか
やったっけ。
後で怒られたけど、すごく楽しかった。

子供の頃の思い出、楽しいことはあんまり覚えてなくて、
時々どうしようもなく辛かったこととか、イヤだったことをふっと思い出して落ち込んだりするけど、
ジュンと遊んだことだけはよく覚えてる。
ただただホントに楽しかった。

そして今も、すごく楽しい。
ジュンと一緒に遊んでいると。

「…好きだよなー。お前。」

そういいながら、オレは立ち上がりポーズをとる。

「お前も好きだろ?今でもさ。」

ジュンの不敵な笑い。

「ブラックビースト!これ以上好きにさせてなるものか!この地球(ほし)は、オレが守る!!」
「ふっふっふっふっふ。さあ来い、シャイニング!今日こそ貴様の息の根を止めてやるわ!!」

こうしてオレ達は、体力が尽きるまで「シャイニングごっこ・リターンズ」で遊んだ。



―結局、オレ達が発見されたのは、翌朝だった。
徹夜で暴れまわっていたオレ達の叫び声(必殺技とか擬音とか)を聞いた用務員さんが、
木刀を持って現れた時には、見つけてもらった嬉しさよりも、
殺されるんじゃないかっていう怖さが先立ったのは、秘密。

おしまい

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ようやくお題消化です。
初めてお題を使って話を書いてみましたが、とても楽しくかけました。
笑える作品のためのお題ということでしたが、笑えた…かな???
毎度のことながら、書き手にとっては楽しいひと時を過ごさせて頂きました。
ステキなお題を作ってくださった空と僕とスカイライン。の管理人、雷斗様に感謝です!
そして読んでくださった皆様、ありがとうございました。
また違うお題を探してきて、挑戦してみようと思います♪


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