7・遅刻の理由は向かい風

それは、風の強い日だった。

オレはいつもみたく、待ち合わせ場所に駆け足で行ったんだけど。
ジュンがいない。
「あれ?」
アイツはオレより早く来てることの方が多くて、大体いつも
「遅い!臆したかシャイニング!」
とかいいながらキックやらパンチやらを放ってくる。
でも今日は、誰もいない。

(風邪…ひくわけないか。アイツが。)
それに、今日に限ってジュンが来ない筈がない。
何故なら今日は学園祭に向けてクラスの出し物やら何やらを話し合う日だからだ。
今年は、演劇をやりたいという話がクラスでちらほら出ていて、
たぶん今日は演目やら脚本やらキャストやらまで決めることになる。
目立ちたがり屋で物書きが好きで、今でもごっこ遊びが大好きなアイツが、
こんな機会を逃すワケがない。

ごうっと風がうなって、オレの髪をかき乱す。

(電話してみっかなー?)
携帯を取り出して、かける。

出ない。

(ジュン…?)

何故か知らないが、不安になった。

オレって昔からそうなんだよね。
家に帰って玄関の扉の前に立つと、この奥に殺人犯がいて、
家族みんな殺されてたらどうしようとか、
夜中にトイレに行ったら、便器に人間の頭が浮いてたらどうしようとか、
ちょっと友達と連絡が付かないと、
何か事件や事故に巻き込まれたんじゃないかとか、
…心配性すぎ?

「タカー!!」

オレがジュンの身に起きた出来事を脳内で勝手に作り上げていると、
張りのある低めの声が耳に響いた。

「ジュン!?」

何故か進行方向に立っているジュンは、
強風にさらされて髪の毛が逆立っている。

「あれ?何でそっちにいんの?」

向かい風に立ち向かいながら、オレはジュンに駆け寄った。
「いや、色々あってな…それより、遅刻する!急ぐぞ!」
「あ、うん!」

風に逆らって走りながら、ジュンが教えてくれたところによると。
朝、家を出たとたんに風が吹いて、たまたま手に持っていたタオルが飛んでしまったらしい。
そのタオルは、ジュンにとっては非常に大切なもので、
追いかけていく内に学校に着いてしまったらしい。
そして何とか学校でタオルをつかまえて、待ち合わせ場所まで戻ってきたという。

(…わざわざ、戻って来なくてもいいのに…。)

何とも無駄な時間に、オレは呆れてしまった。
「そのまま連絡でもくれれば、オレ1人で学校行ったよ?」
「ああ。それも考えたんだが、今日は携帯も財布も家に置いてきたらしい。
で、仕方なく戻ってきたんだ。」
さらっといってのけるジュンに、オレは笑うしかなかった。

なーんだ。だから、電話つながらなかったんだ。
やっぱりオレ、心配性すぎるな。

それにしても、そんなに大事なタオルって、何なんだ?

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タカの心配性は行き過ぎだと思いますが、1回くらいは考えたことないですか???


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