酒場の午前中は、静か。
『ホール・イン・ワン』は一応昼でも開いているけど(食堂代わりに)、
やっぱり基本的には夜の客の方が多い。
「おはようございま〜す!」
「おはよう御座います!」
ボギーが店の床を磨く傍らで、バーディがあたしの朝食を準備していると、看板息子と雑用係がやって来た。
「あ、ライゼにジム。おはよう!」
「よう、今日も1日よろしくな!」
爽やかに交わされる挨拶。
そしてあたしは一目散にジムの下へ駆け寄る。
「ああ、キャディーさん、おはよう御座います!」
「おはよう、ジム〜!会いたかったわ〜」
最近のあたしの1番のお気に入りは、この子。雑用係のジム。
とても18歳とは思えない驚愕のボディ。
何事にも動じない笑顔。
低い声。
どれを取ってもサイコーなのよ!
まったく、ボギーもバーディも、何でこの子を看板にしなかったのかしらね?
ホントに見る目が無いと思うわ。

「はは、キャディーさんは本当にジムが好きだなぁ」
そう言うながら、バーディが準備し終えた食事を、ジムに手渡す。
「はい!キャディーさん、どうぞ!」
受け取ったジムが、あたしの目の前にお皿を置いてくれる。
近頃のあたしはジムの手を経由した食事しか食べないの。
何故ならあたしは番犬だから。
最高のコンディションを維持する為には、如何なる努力も怠らないのよ。

「バーディさん、この花、そこの窓の傍に置いていいですか?」
ライゼが花瓶を抱えてボギーに尋ねている。
この子ってば、ホントに花が似合う子ねぇ。
ま、あたしが許可するのは深紅の薔薇の花束が似合う男だけなんだけど。
ついでに葉巻とか帽子とかが付けばなお良し、ね。
「ん?ああ、いいよ」
バーディが朗らかに言う。
「いや、その花はそのままライゼが抱えてた方がいいと思う」
横からボギーが口を挟んだ。
「兄さん・・・。それじゃあ仕事にならないだろ・・・」
「しかしだな、何物にも収まるに相応しい場所というものがあるだろう」
呆れるバーディに反論するボギー。真性の阿呆ね、コイツは。
あたしはボギーのお尻に噛み付いてやった。
「痛!何をするんだキャディーさん!」
非難がましい視線なんて、無視。
何故ならあたしは番犬だから。
阿呆に噛み付いてなんぼの、番犬だからよ。

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