あたしの朝は早い。

何故ならあたしは番犬だから。
田舎酒場の入口に、立ってなんぼの番犬だからよ。

働き者のあたしは、まず寝ぼすけな店主兄弟を起こしに行く。
「ちょっと!何時まで寝てるのよ!?起きなさーい!!」
あ、間違っても普通の人間にはあたしの言葉は分からないわよ?
わざわざ通訳してあげてるんだから、感謝しなさいね。

まずは寝覚めの良い、弟のバーディから。
この子細身であんまり肉付きが良くないのよねぇ。だから、大型犬のあたしが飛び掛って上に乗っちゃうと、
折れちゃうかもしれないから、頭に軽〜く噛み付くだけで勘弁してあげるのよ。
「・・・うわわわッ!?」
最近はあたしのお陰でマスマス寝覚めが良くなって、あたしが口を開けた辺りで気付くようになったのよねぇ。
進歩したもんだわ。
「ああ、キャディーさん、おはよ〜」
サイドテーブルに置かれたメガネをかけて、ようやくしゃっきりしたバーディが、あたしの頭を撫でる。
好みのタイプじゃないけど、頭撫でるのは上手いのよね〜、バーディは。
お返しに顔を舐めまわしてあげた後、あたしは次の戦場へ向かった。
稀代の爆睡男、ボギーの部屋へ・・・。

「ぐー。すー。ぴー・・・」
どこかで聞いた事があるような鼾をかきつつ、ボギーは今日も爆睡中。
ったく、もう寝たって育ちやしないのに。
「ボギー!もう朝よ!さっさと起きなさーい!!」
コイツには遠慮無く飛び乗ってやるの。
入口から助走して、勢いよくベッドにダイブ!
「ごふ!」
更にツイストダンス!
「げふごふ!」
おまけに宙返り!
「がはぁ!」
一連の演技の合間に聞こえる悲鳴は一切無視!
何故ならあたしは番犬だから。
悪い奴と戦うのが仕事だからよ。

「ぐぐぐ・・・」
あ、ようやく目が覚めたみたい。
青空みたいに真っ青な顔で唸ってるわ。まったく、ホントに懲りないんだから。
「きゃ、キャディーさん、おはよぉ・・・」
満足げに鼻から息を吐き出したあたしは、べろん、と1回ボギーの頬を舐めて、
優雅な足取りで部屋を出た。

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