「フフフ…その本を手に取ったのですね…。」
少し高めの声にはっとして振り向くと、グフーが立っていた。
「グ、グフー!!」
エゼロがグンと起き上がったのにつられるように、リンクの手が思わず剣に伸びそうになったが、
周囲からわずかに聞こえてくるささやき声や、本のページをめくる音に、かろうじて動きを止める。
「フッ。それでよいのですよ。ここで騒ぎを起こしたくはないでしょう?」
満足そうに笑うグフーに、エゼロが静かに、だが鋭く警告の声を発した。
「一体何をしに来たのじゃ!」
グフーは答えずにゆっくりと近付いてくる。リンクはいつの間にか自分がずいぶんと
冷たい汗をかいていることに気が付いた。
(負けないからな。ゼルダ姫を助けるまで、ぼくは負けないんだ!)
グフーの赤い目とリンクの黒い目、視線がぶつかり合うその音が聞こえそうな程の緊張感を解いたのは、
意外にもグフーの方だった。
「わたしの本に、ポートレートを貼り付けにに来たんです。」
「…へ?」
考えてもみなかったグフーの言葉に、リンクとエゼロが同じ顔で驚く。
「ポートレート、じゃと?お前、今そういったのか?」
呆気に取られた2人に、グフーは真顔で頷いた。
「ええ。そうですよ。折角の処女作なのに、著者の姿絵をのせるのを忘れていましてね。
まあ、この前開催された武術大会で優勝したばかりですし、
グフーなんてカッコイイ名前はそうそうあるものではありませんから、
読者はわかっていると思うのですが、何事も最初が肝心ですからね。」
人を小馬鹿にしたような口調は相変わらず憎らしかったが、
リンクは何故か以前に出会った時のようには腹が立たなかった。
「さあ、そういう訳ですから緑色の少年。その本を大人しく渡すのです。」
ずいっと手を差し出され、リンクは反射的に身を引いた。
(どうしよう。そんなこといって、この本に恐ろしい呪文でも書き込むのかも…。)
(リンク、油断するな!コイツのことじゃ、何をしでかすかわからんぞ!)
(うん。でも、ウソにしてはメチャクチャじゃない?)
(むぅ…確かにのぅ。)
頭の上と内緒話をするのは難しい。2人でごにょごにょいっていると、
グフーがピリピリした声でもう1度いった。
「何をコソコソしているんです。さっさと本を渡しなさい!
ポートレートを貼り付けたら、ゆっくり読ませてあげますから!」
(あんなこといってるよ…?)
(フーム。確かにあいつはピッコルの頃から目立ちたがりやだったからのう。
そのくらいはやるかもしれん。)
(うーん、そうかも。)
一向に本を手放そうとしないリンクにしびれをきらし、グフーは小さな手から素早く本を奪い取った。
「あっ!?」
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