不機嫌そうな顔で、グフーが本を開く。
危険に備え、リンクは今度こそ剣を抜いた、が…。

ぺち。

「まったく…、人の話を聞かないところは、お師匠様にそっくりですね。」
貼り付けたポートレートを眺め、満足げな表情になったグフーはリンクに本を手渡し、さっと身をひるがえした。
「さ、後は好きなだけお読みなさい。
これを読めば、あなたもわたしに逆らおうなんて馬鹿なことは考えなくなるでしょう。」
クククッという小さな笑い声だけを残し、宿敵は去っていった。
後には何が何だかよくわからないままのリンクと、
「ムキー!!人の話を聞かんのはお前の方じゃろうが〜!!」
と、憤慨するエゼロが残された。

「ええいっ!腹立たしいヤツじゃ!リンク、そんな本さっさと捨ててしまえ!」
ぴょんぴょんと飛び上がって怒るエゼロをなだめながら、リンクはそっと本を開いてみた。
あごに手をあて、不敵な笑みを浮かべたグフーの姿がそこにある。
誰が描いたのか知らないが、なかなか上手い絵だった。
「うーん。でも、この本は図書館の本だから、勝手に捨てたらおねえさんに怒られるよ。
しかも、人気あるみたいだし。」
「それはまあ…。しかし、このままというのも、何だかシャクに触るのう。」
エゼロは少し安心した表情だったが、リンクは少し難しい顔をしていた。
「うん、確かに。…あ、そうだ!」
ニヤリと笑ったリンクの顔は、いつもの勇敢な少年剣士ではなく、いたずらっ子のそれだった。
「おお?どうするのじゃ、リンクよ?」
「へへへ…こうするんだよ!」
そういうとリンクは、ポケットから小さな木炭を取り出した。

こしょこしょこしょ。

「できた!見て!」
にかっと笑ったリンクの手元には、グフーの姿絵。
ただし、整った顔には真っ黒なヒゲが描かれている。
「…ほっほっほ!こいつはいい!よくやったぞ、リンク!」
「だろ?こっちだって、いつもいつもやられてばっかりじゃないって!」
2人は顔を見合わせて笑うと、本をそうっと棚に戻した。

「さあ、ぐずぐずしているヒマはないぞ、リンク!早く姫をお助けせねば!」
「うん!行こう!」
怒られたことなどすっかり忘れて、リンクはダッシュで図書館を出た。
空は晴れている。
リンクは、ゼルダ姫を助けたら、あの本のことを教えてあげようと思った。

おしまい

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