「うわー!小っちぇー!」
こんなに嬉しそうな視線を向けられたのは、初めてだった。
「お前等どっから来たんだ?ここで何してんだ??」
「えっと…、俺達『古の竜の島』に行く途中で…、泊まるところがないっていったら、
じいちゃんが連れてきてくれて…、」
しどろもどろになる兄の手をそっと握り、妹が1歩前へ進み出た。
「初めまして、ジェレアムさん。お名前は、ロフおじいちゃんから聞きました。
私はアーイ!こっちは兄のティトーです。
今日1晩でいいんですけど、お宅に泊めて頂けませんか?」
澱みなく紡がれる挨拶に、本人以外の全員が少し驚いたが、
若き魔術師はすぐに満面の笑みを浮かべると、大きく頷いた。
「おお!そういうことなら大歓迎だよ!いや〜、正直タイクツしてたんだ。
まさかこんなお客さんが来てくれるとはなぁ!!」
話しながらジェレアムは立ち上がり、てきぱきと夕食の支度を始める。
「ま、俺も旅の身空だからさ、そんな大したもてなしはできないけど、ゆっくりしてってくれよ!
いや〜、ようやく俺の人生に魔術師っぽい1ページが刻まれたぜー!」
鼻歌を歌いながら軽やかな足取りで動き回る黒髪の青年の背中を、
兄妹は親愛の情を込めて見つめた。
「ほい!まあ食ってくれよ!」
ジェレアムが用意してくれた豆のスープと硬パンは、ぴったり妖精の手に収まる大きさだった。
もちろん、スプーンやコップも、小さく小さくできている。
「すごいわ!どうして私達の料理が作れるの?」
最初に怯えていたのが嘘のようにすっかりジェレアムに懐いたアーイが、手を叩いて喜ぶ。
「なぁに、人間サイズの料理を魔法でちっこくしただけだよ。さすがに、そう都合よく
食器なんて持ってないし、こんな小さな豆やらパンやら、手に入るわけじゃないからな。」
「ありがとう…腹、減ってたんだー。」
妹の嬉しそうな様子に笑顔を見せながら、ティトーもスプーンを動かす。
しばらくは、誰もが無言のままだった。
スープの温かさと素朴なパンの舌触りが、旅の疲れと初対面の緊張をほぐしていく。
そして食事が終わる頃には3人と1匹の間には懐かしい家族か、旧友のような空気に満たされていた。
「…なるほどな。自分の羽を手に入れて1人前、か。
話には聞いてたけど、本当のことだったんだな。」
食事の後、ティトーはジェレアムに自分達の話をした。
魔術師は少年の一言一言に、いちいち表情を変えながら聞き入り、感嘆の溜息をもらした。
「それで『古の竜の島』を目指しているのか…。いや、大したもんだよお前等。
そりゃ、一生の問題だからさ、羽を決めるなんて。自分が納得したものが1番いいとは思うけど、
なかなかそこまでやってやる!っていうヤツ、いねーんじゃねぇの?」
乱暴だが嘘のない賞賛に、ティトーは胸が熱くなるのを感じた。
出会ったばかりの人だけれど、ジェレアムは自分の思いを確かに感じてくれている。
「ジェレアムさんは、どうして旅をしているの?」
アーイに尋ねられ、青年は真剣な顔で答えた。
「俺はまあ、修行の旅っていうか…腕試しってヤツかな。
自分の力がどれだけ世界に通用するのか、試してみたくてよ。
俺は魔法で何ができるのか知りたくて、出てきたんだ。」
旅立ちの理由は違ったが、ティトーはジェレアムと自分が少し似ているような気がした。
彼の目は、未知を照らさんとする光に溢れている。
その先にある、自分の未来を知りたいという願いにも。
(人間も、妖精も一緒なんだな。)
胸に芽生えた仲間意識を心地良く感じながら、今度はティトーが質問した。
「そういえばさ、じいちゃんから聞いたんだけど、
この町の真ん中に立ってる像のこと。あの話、聞かせてくれないか?」
ジェレアムの表情が、厳しくなった。
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