背後から立ち上ったただならぬ闘気に、魔物たちが次々とピエールの方に向き直る。
「くあっ!新手か!?」
緑色の魔物の表情が更に険しくなる。が、ピエールは無視して周囲のモンスター達に飛び掛っていった。
「てやーっ!!」
驚き戸惑うモンスター達に有無をいわせず斬撃を浴びせると、ピエールは馬車の前に立った。
「さあ、かかってこい!!」
ナイトの一喝に、魔物たちが殺気立つ。
そして、スライムの心に光が灯った。

(わかった。ぼく、わかった。)

逆上した腕が、爪が、凶器が、襲い掛かる。

(ぼくは…ぼくは、そうだ…!)

ナイトがなるべく傷付かないように、敵の只中を全力で跳び回りながら、スライムのピエールは
考えていた。

(こんな風に、弱いものがいじめられるのが嫌だったから…。
友達が、家族が、追っかけまわされるのが嫌だったから…。
みんなを守ってあげたいって思ったから…。)

「ピエール、右だッ!」
「わかった!右だねっ」

2人で1つの戦士の前に、魔物が1体、倒れた。

(助けてって泣いてた子がいたから。
いじめないでっていってた子がいたから。)

頭の中に、色々なスライムの顔が浮かんでは消える。
みんな、みんな、大事な、大事な、仲間の顔。家族の顔。

「だから強くなりたかったんだ!だから勇者になりたかったんだ!!
みんなを守ってあげたかったから!!!」

歓喜の叫びを上げたスライムナイトを、凶暴な腕が吹き飛ばした。

「うわぁぁっ!」

空と大地が逆転する。2人のピエールがばらばらになる。
思い切り打ち付けた身体はすぐに動けない。

(まずい…!数が多い!)

痛恨の一撃を覚悟して身体を強張らせる。
しかし、それは頭上から降ってはこなかった。
その代わりに。

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

地響きに混じって野太い男の気合いの声が聞こえた。

「オッサン!!馬姫さま〜!!!無事でがすか!?」
「カーッ!遅いわいお前達!!」

緑色の魔物と、大男が言い合っている。
ピエールが何とか身体を起こすと、視界の端に山吹色の衣が揺れて見えた。

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