「ええいっ!忌々しいモンスター共めっ!寄るな、寄るな!!」

丈の高い草を掻き分けて走ると、その先にはいささか奇妙な光景が広がっていた。
まず目に入ったのは立派な馬車。
そしてその馬車に繋がれている、とても綺麗な雌馬。
馬車をひかせるための馬にしてはやや華奢な感じもしないではなかったが、
とても賢そうな顔をしている。
その前には、緑色の肌をした魔術師風のモンスター。
小さな身体で手に持った杖を振り回しながら、周囲を取り囲む魔物たちに向かって、必死に叫んでいる。

「下がれ!下がれ下がれ下がれぇぇっ!!ミーティアには指1本、触れさせんぞぉっ!!!」

ユーモラスな姿をしてはいたが、緑色の形相は必死だった。
庇われている馬が、不安げな表情を見せている。

「どうやら…魔物同士の戦いらしいな?人間から奪った馬車の取り合いか何かか?」

首を捻るナイト・ピエールに、スライムは全身をぶるぶるっと震わせて抗議した。

「違うよ、ピエール!よく見て!!あのお馬さん、魔物じゃないよ!」
「それは…む?」

ひどく怒った様子の相棒に困惑しつつも、小さな騎士は改めてその眼を馬へと向けた。

姿の良い馬に重なるようにして、少女の姿が見えた。
長い黒髪。白い肌。
大きな目が、恐怖と心配の涙を湛え、ゆらゆらときらめいている。

再び、嘶きが響き渡った。

(助けて、誰か!誰か、お父様を助けて!)

スライムの丸い目が、これ以上ないほどに見開かれる。

(「助けて」っていってる…!)

ピエールの思い出の中で、青く透き通った小さな友達と、目の前の少女の幻が重なり合った。

「ピエール!行こう!あの人達を助けなきゃ!」
「…ああ!わかった!」

スライムナイトは、森を飛び出した。

「そこまでだ!貴様等の相手、このスライムナイト・ピエールがつとめる!!」

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