未だ冷めやらぬ、身を焼くように熱い記憶に、シーザは疲れたように笑った。
「でも、よく考えたら『勇者』っていうのは、世界に1人しかいないものなんだ。
探して見つかる可能性だって殆どないのに、僕自身が勇者である可能性なんて、
それこそ無きに等しい。
こうして、天空の剣を手にしているだけでも、幸せなことなんだって思うよ。
僕は勇者にはなれなかったけれど、勇者を探すことはできるんだ。」
シーザが息を吸う。

「そして、僕は絶対に伝説の勇者を見つけ出す。」

ピエールは大きな目で友達をじっと見つめた。
シーザがこんなに自分の気持ちを語ることは珍しい。
それだけ胸の中がいっぱいだったのかと思うと、ピエールはこの話を思い切って聞いてみて良かった、と思った。

大切なことは、時々口に出した方がいい。
誰に何といわれようと、或いは誰も耳を貸してくれなくても、
自分がそれを忘れないように。自分に嘘を吐かないように。自分に言い聞かせるために。
それに、大切なことは時々、心を重くする。
だから、ちょっと外に出して、心を休めて、また背負いなおせばいい。

「シーザ…教えてくれて、ありがとう。」
ピエールはにっこり笑うと、シーザにくっついた。
「ぼく、聞いて良かった。シーザはぼくの話、真剣に聞いてくれたから。
ぼくもシーザの話、真剣に聞きたかったんだ。」
そういってすり寄ってくるスライムを、形の良い手が優しく包む。
「ああ…。僕も聞いてもらえて、良かったよ。
もうすっかり気持ちを切り替えたつもりでいたんだけど、
やっぱりまだこだわってたみたいだ。」
誰かに話すと気持ちがすっきりするね、と小さな声で呟いたシーザを、
ピエールは頑張って作った真剣な顔で見つめる。

「でもね、シーザ。勇者じゃないかもしれないけど、シーザはもっとすごいよ!」
「え?」
きょとんとするシーザに、ピエールはずっとずっと抱えていた気持ちをぶつけた。

「シーザは、ぼく達を仲間にしてくれた!
だからね、ぼく、今は勇者と友達になれるかもしれないって思ってるんだ。
きっとシーザに会わなかったら、ぼくは勇者に憧れてたけど、
戦いを挑むことしかできなかったと思うんだ。
ううん、もしかしたら、怖くて近寄れなかったかも。
でも、勇者の伝説をぶっ壊して、ぼくが勇者になるとか、そういう風にも考えたよ。
強くなって、それを誰かに自慢したいと思ってて、今なら人間だって怖くないって!
だけどシーザはぼくよりずっと強くて、ぼくよりずっと心が大きくて、
そのシーザと戦って、えっと、だから、その…。」

頭がカーッとなって、言葉がうまくまとまらない。
それでもピエールは黙らなかった。

「とにかくね、シーザはぼく達の世界を広げてくれたんだ!
きっとそれは、とってもすっごいことだと思うんだ!」

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