1人の魔物使いと、1匹のスライムの視線が真っ向からぶつかる。
シーザは本当に嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう、ピエール。」

ふとした瞬間、不安を感じることがあった。
自分は今まで何をしてきただろう。
これから何をするんだろう。
何ができるんだろう。
偉大な父を追い、しかし父が目指すところがわからずにいて、
手がかりは得られた瞬間に自分を突き放した。
世界は広大で、自分の立ち位置を定めるのは難しくて、声高に叫んでも誰にも届かない。
ただ進むしかできないことが、ともすれば間違っているようにも思った。

「シーザ。シーザが勇者を見つけて、勇者のお手伝いをして、
ぼく達がそのお手伝いをするって、何だかすごいよね!
ぼく、ナイトやみんなと一緒に頑張るからね!」

ピエールは嬉しそうに跳ねている。シーザは頷くと、再び天を仰いだ。

「ああ。その通りだ。」
満点の空。漆黒の闇の中に煌く光点は、雨のように冷たくこの身を打ちはしない。
むしろそれは、優しくも厳しかった父の眼差しの奥に。
朗らかで誰よりも忠実だった、召使いの瞳の奥に。
大輪の向日葵のような、華やかで胸躍る思い出をくれた少女の微笑みに似ていて。
見守られていると感じる。

「…僕は、ちゃんと進んでる。」
シーザは呟くとピエールをそっと抱き締め、お休みといった。
月が雲の布団を被り、ようやくみんなが眠りに落ちた。

おしまい

後書き…

前へ


趣味の部屋へ戻るMENUへ戻る