1人、また1人と眠りに落ちてゆく。そして相棒の兜がかくん、と俯いたのを確認すると、
スライムのピエールは隣に横たわっているシーザの横顔をちらりと盗み見た。
個性的な寝息やいびきの大合唱の中、まるで息をしていないように目を閉じているシーザに、
ピエールはおずおずと声をかける。
「ねえ、シーザ。起きてる?」
「ん?何だい、ピエール。」
魔物使いはすぐに目を開き、ピエールに向き直った。
「うんと…えっと…、あの。ずっと、聞いてみたかったことがあるんだけど、いいかな?」
「ああ、構わないけれど。何かな?」
シーザは不思議そうだ。
時々この人が見せる、こういうひどく純粋な表情に、ピエールは気持ちがキュッと詰まるような気がした。
もぞもぞと身体を動かし、更に声を落とす。
「あの…イヤだったら、答えなくていいからね。」
「ああ、わかった。ありがとう。」
ピエールは意を決して、友達を見つめた。
「あの…あのね、シーザは勇者になりたいと思ったこと、ある?」
「え?」
全く予想外の質問に、青年の目が見開かれる。ピエールは小さな声で、でも一生懸命話し始めた。
「ぼくは、勇者にすごく憧れてたんだ。1回でいいから、会ってみたいなって思ってた。
勇者みたいに強くなりたいとも思ってた。
そしたらナイトが出てきてくれて、ホントにホントに嬉しくて。その時に、思ったんだ。
ああ、ぼく、スライムの勇者になりたかったんだって。
だからね、シーザも…勇者を探してるでしょ?もしかして、一緒なのかなぁと思って。」
「…!」
綺麗な顔が一瞬強張る。
その僅かな表情の動きを、ピエールは見逃さなかった。
(どうしよう。やっぱり聞いたらいけないことだったのかな。)
おなかの中がじわっとして、ピエールは瞬きした。
尋ねるチャンスは何度もあった。
だが、その度にピエールは何故か自分に問い直していた。
それを彼に、本当に尋ねていいのか、と。
それは彼に出会い、勇者を探す、という旅の目的を告げられた時から、ずっと聞いてみたいと思っていたことだった。
しかし彼の勇者に対する並々ならぬ思いと、その理由が亡き父と未だ見ぬ母にあることを知り、何もいえなくなった。
それが決して幸せなだけの記憶ではなく、その思いが輝かしいだけのものでないことを知ってしまったから。
「あの…ご、ごめん…!ぼく…!」
うろたえるピエールに、シーザの手が伸ばされる。
(あ…叩かれるかな?)
怒られる!と思って反射的に身体を縮めたが、シーザは知らない間にピエールにくっついていた小さな葉っぱを
取り除いてくれただけだった。
「シーザ…?」
「勇者、か…。うん。なりたかったよ。天空の剣を操る、勇者に。」