ポケットの中に麻里絵のチョコを入れたまま、一日が終わろうとしていた。 バレンタインディだというのに、朝の出来事を除いたらいつもとなんら変わらない一日。 いや、海堂たちの知らないところではバレンタインディらしい楽しい出来事もたくさん起きていたのだが、二人に関してはさほど大きな事件もなく終わろうとしていた。 「そういや、あいつ来なかったな」 放課後の教室で、海堂が思い出したように言った。 「何?」 「万太郎だよ。あいつなら、高遠にチョコ持って来そうじゃねえか」 「そんなことないだろ」 高遠が言うと、 「あのボウヤは、可愛い顔してしっかりしてるからリサーチ済みじゃねえの?」 貰ったチョコレートを口にほおリ投げながら、三好が口を挟んだ。 「高遠が、チョコ苦手だってことさ」 「まさか」 と、笑う高遠。 「どうせ、俺は知らなかったよ」 海堂は、ちょっと不機嫌だ。三好がそれに応える。 「どっちにしろ、お前、持ってきてなかったんだろ?いいじゃねえか」 「……ま、まあな……バレンタインなんて、女子どものイベントだぜ」 海堂がぶっきらぼうに言うと、高遠は、ほんの少し困ったような顔で微笑んだ。 「まあ、確かに、男同士でチョコってのもなあ」 とかいいながら、三好は新しいチョコレートの包みを開けている。 「お前、鼻血でるぞ」 「お前じゃねえから、出ねえよ」 そんな会話を聞きつつ、海堂はそっと上着のポケットに右手を入れた。一日中持ち歩いていたチョコレートがそこにある。 目ざとい三好がその手の動きを見逃すはずがなかった。 「海堂、何、持ってんだ?」 「えっ?いやっ?」 柄にもなく声を裏返らせた海堂に、キラリと瞳を光らせて三好はその腕を持ち上げた。 「なーんだっ」 「わっ、やめろっ」 海堂の右手の先には、燦然と輝くいかにもというラッピングのチョコレート。 「………………」 三好は気まずそうに二人を見た。 高遠は、ぼうっとそれを見つめて言った。 「海堂……それ……?」 A 「なんだこれっ?」とぼける。 B 「チョコだよっ」開き直る。 |