「チョコだよっ!」
かあっと顔を赤くして、海堂が叫んだ。
「チョコ……って?」
高遠が、呆けたように繰り返すと、
「何度も言わせんなっ」
海堂は、高遠にそれを突きつけた。
「あ、どうも、お邪魔さま」
三好が立ち上がって、まだ教室に残っていた数名を追い出しにかかった。
「さあ、みんな、帰った、帰った」
「お、何だ?朝の続きか?」
「お幸せに」
「いいなあ……」
妙な感じに平和な都立和亀高校。みんなとても協力的だ。
気がつけば教室には海堂と高遠の二人っきり。
「俺に?」
「でも、ダメなんだろっ」
顔を赤くしたまま、海堂が睫毛を伏せる。
「海堂っ」
高遠が、海堂を抱きしめた。
「高遠……」
「実は……俺も……」
「へっ?」
海堂が見上げると、ひどく照れた顔の高遠が、ごそごそとポケットから小さな箱を取り出した。
「チョコ……お前に」
「うそっ?」
「やっ、姉貴が……」
高遠家では姉のユキにだけ、二人のことがばれていた。
「買って来てくれたのか?」
「いや、好きなら自分で買えって。一緒に行ったんだけど……一人で買わされた」
「……恥ずかしくなかった?」
「むちゃくちゃ恥ずかしかった」
女の子ばかりのチョコレート売り場で、長身の高遠がひとりチョコレートを買う姿を想像して、海堂は吹き出した。
「何だよ。笑うなよ」
「ごめん」
海堂は高遠の首に腕を廻した。
これが出来るように、三好は気を使ってくれたのだ。
唇を寄せて囁く。
「俺のは…自分で買ったんじゃねえけど」
「うん」
「来年は、自分で買う」
「いいよ……」
「いいじゃん」
「じゃ、一緒に買いに行こう、来年は。一人よりいいや」
高遠がくすっと笑う。
「うん……手ぇつないで行こうぜ」
そして、その辺にいる女みんなに見せつけておいたら、今朝みたいなセーラー集団も来なくなるかもしれない。
海堂は、自分の思いにほくそえんで、そしてチョコよりも甘い口づけにうっとりと瞳を閉じた。





ご挨拶