「なんだ、これっ?」

海堂はすっとぼけた。
「えっ?」
高遠が驚く。
「何でこんなもんが、俺のポケットに入ってんだよっ」
顔を赤くして言う海堂に、勘のいい三好は溜息をついた。
自分のやってしまったことも反省して。
しかしながら、勘の鋭くない高遠は、海堂の言葉を鵜呑みにした。
「いつの間にか、入っていたのか?」
「そっ、そうだよ……」
海堂が唇を尖らす。
高遠は、ひどく真剣な顔で腕を組んだ。
「制服のポケットなんて……今日は、体育もなかったし、そう簡単に入れられるもんじゃねえよな」
高遠の呟きに、
(だから、何で、海堂自身が入れたって気がつかないんだ、高遠)
三好は心の中で叫んだ。
(お前、ミステリーとか、最後まで犯人わかんないタイプだな……)
三好が見つめる先で、パカップルは角を突き合わせて考え込んでいる。
いや、片方のは、完全にポーズだけれど。
「海堂、今日、教室以外にどこに行ったっけ?」
「ト、トイレと…理科室と、購買」
「トイレじゃねえだろうけど、購買だったら混んでるから、わかんないな」
「う…うん」
「それにしても…今日は、俺、ずっと一緒にいたのに……」
高遠があんまり真剣なので、海堂はちょっと困った。
高遠にしてみれば、海堂のことを密かに好きなヤツがいるということは当然だとは思えても、自分が横にいる時にチョコを渡されていたというのは穏やかじゃない。
「名前とか、入ってないのか?」
「な、ない…と、思う……」
高遠がじっと見るので、海堂は渋々そのラッピングをはがした。
(まさか、なんにも入っていないよな……)
そう思って開いた中に、一枚のカードがあった。
「わっ」
海堂が慌ててそれを取り上げようとして失敗し、カードはヒラリと床に落ちた。
「わ――っ」
叫ぶ海堂。
拾う高遠。
頭を抱える三好。
そして、高遠が呟いた。
「あれ?」
海堂は赤い顔をして高遠を見た。
「なんだ。これ、麻里絵さんからだよ」
「へっ?」
三好と海堂が同時に声をあげた。
高遠が差し出すカードには

With Love 麻里絵

と、書かれてあった。

(ああ、そうか……)
海堂は思い出した。
このチョコレートは、麻里絵の大量の義理チョコ――というにはみんな高級だったが――の一つだったことを。
「海堂を驚かそうと思って、ポケットに入れておいたのかな」
安心した高遠が爽やかな笑顔を見せる。
「そ、そうだな……」
海堂もホッとして笑う。
「自分の息子にチョコレート渡すなんて、やっぱり麻里絵さんらしいな」
「そ、そうだなっ!恥ずかしいヤツだぜっ」
あははは……と笑う二人。
三好だけが腑に落ちない顔。
(おかしいな、俺の勘が外れるなんて……)
名探偵三好が真実に気がつくまでそう時間はかからないだろうが、ともかく、この日、都立和亀高校のバレンタインディは、つつがなく終わった。

「チョコなんてなくっても俺たちの愛は誰にも負けないぜっ!なっ、高遠っ」
「誰にもって、誰と勝負しているんだよ」
「誰とでもだよっ」







ご挨拶