突然暗い顔をした海堂に気づいて、高遠が顔を覗き込んだ。
「どうした?海堂」
「なんでもねえ」
海堂は立ち上がった。

何故だろう。
もともと昨日まではバレンタインのチョコなんて、渡す気なかったのに。

渡せないと思った途端、悲しくなった。
(昨日勝手に、想像なんかしたからだ……)
右ポケットが急に重くなった気がした。
「海堂、待てってば。どうしたんだよ」
追いかけて来た高遠に、振り返って言った。
「俺、お前にチョコ持ってきてたんだ」
突然の海堂の言葉に、高遠は固まった。

「でも……チョコ嫌いなら、迷惑だよな」
海堂にじっと見つめられて、高遠の心臓はドクンドクンと音をたて始めた。
「だから……」
と、長い睫毛を伏せる海堂。
(む、むちゃくちゃ可愛いっ)
高遠は衝動的に抱きしめて、ハッと周りを見渡す。人目は無かったがいつ誰が現れるかも分からない。
すぐ近くに、おあつらえ向きの用具室があった。
そこに海堂を引っ張り込んで、高遠は言った。
「俺に……チョコレート持って来てくれたの?」
「うん」
海堂の素直な返事に、高遠は舞い上がる。
「でも、ダメなんだろ?俺、知らなかったし……」
寂しそうな顔の海堂。
「ダメなわけねえよ」
高遠は海堂を抱きしめた。
「あ……高遠」
「信じらんねえ。海堂がチョコ買ってきてくれるなんて、考えたことも無かった」
高遠の言葉に、
(買って来たのは麻里絵だけど……昨日まで、俺だって、考えたことも無かったけど……)海堂は、内心呟いたが
「すっげえ、嬉しい」
想像していた以上に高遠が喜ぶので、それは黙っておいた。
「……チョコ食う?」
「うん」
海堂は、ポケットから可愛らしくラッピングされた箱を取り出した。


A 和亀らしいエンディング

B ちょっぴりエロエロのエンディング