「これ……」 「ありがとう」 海堂がくれたチョコレートの包みを、高遠はそっと開いた。 勿体無くて、包み紙もとっておきたい高遠だった。 「意外にたくさん入っているな」 「食えなかったら、俺が食うぜ」 「いや、せっかく海堂がくれたんだから、全部食う」 高遠はムキになってチョコレートを口に入れた。 「無理すんなよ」 「無理じゃねえよ」 と言った高遠の鼻から、タラリと赤いものが垂れた。 「うっ」 慌てて仰向けになる高遠。 「だ、大丈夫かっ!」 ポケットに手を突っ込んで、ハンカチやティッシュを探るが、そんなもの持ち歩いていない海堂。 「だ、大丈夫……」 高遠は自分のポケットから綺麗にアイロンのかかったハンカチを取り出して、鼻を押さえた。 「首の後ろ叩くといいっていうぜっ」 海堂が黄金の右で首を狙うので、 「うわ、よせっ」 高遠はそれを避けた。 そんなこんなで、バタバタやっていると、突然用具室の扉が開いた。 「何、騒いでいる」 体育教師藤本。海堂と高遠の担任。 鼻血を噴いている高遠の上に馬乗りになっている(いつのまに?)海堂を見て、目を瞠った。 「お、お前ら……学校で何を……」 「ち、違いますっ」 高遠は、右手を差し出して待ったのポーズ。 海堂はきょとんとしている。通りすがりの生徒が中をのぞきこんで赤くなる。 そして、バレンタインディに用具室で海堂が高遠を押し倒していたという噂は、いつの間にか全校に広まっていたが、もうそんなことでいちいち落ち込む高遠ではなかった。 完 ご挨拶 |