超高速リレー小説『薔薇の鎖』

presented by もぐもぐ&れな

その11 byれな

「僕、昨日からお腹こわしてるんですっっ」
ああ、BLの禁じ手(なのか?)…下痢ぴーじゃ流石に後ろにゃつっこめねーだろ。
(すみません…byれな)
僕の作戦は的中した。松井は一瞬、「う」というなんともいえない顔をしたが、やがて
「そうか。なら帰っていいぞ」
とあっさり僕を解放してくれたのだった。
――つくづく、自分の欲望に正直な奴だ。
僕がほっとしながら
「それじゃあ失礼します」
と頭を下げかけたとき、松井の横から
「なんだ桜内、下痢なら正露丸やるぞ?」
と、国語の田村が薬片手にそう声をかけてきた。
「え?」
ぷうんとあの正露丸臭が職員室に漂いはじめる。
「……その手があったか」
にやり、と笑った松井の顔を見た瞬間、僕は全力疾走で職員室を駆け出していた。

鞄も持たずに家に逃げ帰った僕は、家中の戸締りを確かめ篭城することにした。まさか松井も授業があるから、家まで追っては来ないだろう。最初ドキドキしてた僕も昼過ぎに「いいとも」が始まる頃にはすっかりリラックスし、「ジャスト」のピーコさんのファッションチェックを見たあとはテレ朝の『土曜ワイド』の再放送までのんびり見はじめてしまった。
こんなにテレビが充実してちゃ、主婦は買い物に行く時間がないだろうなあ、などと呑気なことを考えつつ(ほんとに呑気だ。その上この番組ラインナップって『充実』って言っていいのか?)きっとこいつが犯人だぜ、と萩原流行に目をつけてたところで、一体今何時だ?と僕ははっとして時計を見やった。
時計の針は午後四時二十五分を差している。あと三十五分で魔の時間がやってくる。

『それじゃ、何の解決にもならないだろ』

僕を真摯な瞳で見つめた友哉の顔が、僕の脳裏に甦る。
我慢か――と僕はすっかりテレビそっちのけになりつつ、そう大きく溜息をついた。
この身を突き上げ、翻弄するあの滾るような欲情を――我慢することなど出来るのだろうか。ってなんか随分文学的(そうか?)。

『俺がついてるから』
あのとき、友哉の目はそう言っていた。力強く僕の肩を掴んで僕を見つめた彼の男らしい顔を思い出し、頑張らなければ、と僕は決意を新たにした。

ピンポーン

ドアチャイムの音が室内に響き渡る。友哉かな、と思いながらも松井じゃねえだろうな、と心配して、僕は
「はい?」
と恐る恐る玄関の戸の向こうにそう声をかけた。
ドアの向こうにいたのは――


       
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