超高速リレー小説『薔薇の鎖』

presented by もぐもぐ&れな

その5 byれな

僕の両親は半年前から父の転勤で大阪の社宅に住んでいる。兄と僕はそれぞれに勤め先と学校の関係で東京に残ったのだったが、父母の目が届かなくなった途端に兄が試薬投与と兄弟間性交の暴挙に出たのだった。
ドアチャイムの音に、こんな時間に――夜の十時を廻ったところだった――誰だろう、と思いながら僕は
「はい?」
と玄関に走っていった。
「あ、俺」
友哉だ。一体何の用か…と、ドアを開いた僕は彼が手にしている僕のスポーツバックを見て
「あ」
と、彼に「電動優君」入りのそれを渡したことを思い出した。――って、三歩歩けば全てを忘れる僕はニワトリか?
「ども」
友哉はぺこ、と頭を下げたあと、僕にスポーツバッグを差し出すと
「体操着、洗濯乾燥したら遅くなっちまった。ありがとな」
と言ってぎこちなく微笑んだ。
「ああ、洗濯なんてよかったのに…」
受け取りながら僕もぎこちない微笑を返す。一瞬の沈黙が二人の間に流れ、僕はその沈黙に耐えられず
「上がってかねえ?」
と友哉に部屋の方を示したが、友哉は
「うん」
と頷きながらもその場を動こうとはしなかった。またも沈黙。うーん、居たたまれないぞ、と僕が再び口を開こうとしたそのとき、徐に友哉は僕に向ってポケットの中からそれを――電動優君を取り出して見せた。
「げっ」
剥き出しで持ってくるなよ、と思いつつ、明るい玄関先でそれはグロテスクにもいやらしい形相を見せている。
「…京…これ…?」
思いつめたように僕の目の前にそれを突き出しながら、友哉がそう尋ねてくるのに
「ああ、それ…」
と僕はなんと言い訳しようかと必死で頭を巡らせた。
「鞄の中に入ってたんだけど、お前こんなもの……」
友哉の眼差しはあきらかに僕を責めている。どうしよう、と思いつつ僕は
「ああ、なんか兄貴が今会社で研究中の部品らしいんだけど、どこにあったの?」
などとボケをかましてみせた。
「お前の兄ちゃん、製薬会社じゃなかった?」
「う…」
意外に手強い。…って当然か。
「なんでこんなモン、製薬会社で『研究開発』してるんだよ?」
「こんなモンって……それ、なに?」
僕は作戦変更し、超カマトトぶってみせることにした。
「なにって…」
友哉が一瞬言い澱む。……が、
「こないだビデオで見たじゃん」
とすぐに返され、今度は僕が
「う」
と言葉を失う番だった。そうだ。親がいないことをいいことに、友哉とはウチでAV見捲くったことがあったっけ。
「お前…こんなモン使ってるのか?」
思いつめたような友哉の問い掛けに僕は思わず正直に
「ううん、まだ使ってないよ」
と正直に答えてしまった。
「『まだ』って…これから使おうとしてるのか?」
友哉がまた僕の方にぐい、とそれを差し出しながら、詰問口調でそう尋ねてくる」
「つ、使わないって」
僕は何か言い訳を考えようと必死で頭を巡らせた。と、友哉が溜息をつきながら
「……一体お前、どんな女と付き合ってるんだよ」
としみじみと言ってきたものだから、
「へ?」
とまたも僕は間抜けな声をあげてしまった。
――そうか。『使う』って――自分に、じゃなくて相手に、か。
……って、フツーの感覚じゃ、そっちを考えるってか?兄に散々おもちゃにされてるうちに僕の考え方も随分偏ってしまったようだ。
「だから違うって。ほら、単なる好奇心っていうか…」
僕がようやく『フツーの高校生』がエロ雑誌を親に見つかったのと同じような対応をし始めたそのとき、またもドアチャイムが鳴った。
「はい?」
僕が答え、友哉が振り返る中、ドアを開いて入ってきたのは―――午後五時の王子様だった。
「ま、松井先生?」
ぎょっとしたように目を見開く僕に向って、先生は
「遅い時間にすまん。洗濯乾燥してたらこんな時間になってしまってな」
とどこかで聞いたことがある台詞を言いながら、おもむろに僕に向って
「忘れ物だ」
となんと僕のパンツを差し出してきた。
どいつもこいつも剥き出しでそんなもん持ってくるなよ。
「忘れ物って…お前、どこにパンツなんて忘れたんだよ?」
不審そうにそう尋ねた友哉の方を、先生はしまった、という顔で見やったが――気づけよ、普通――彼が手にしている『電動優君』を見て
「お前こそ、ナニもってるんだ?」
とさっと顔色を変えた。今度は友哉が、しまった、というように慌てて「優君」を自分の背中へと隠す。

こうして僕たちは玄関先で暫し三人互いに睨みあってしまった。これぞいわゆる「三すくみ」?――多分違う。

       
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