超高速リレー小説『薔薇の鎖』

presented by もぐもぐ&れな

その3 byれな

すぐさま友哉のもとに駆けつけ、「電動桜内優」を取り上げることが――僕には出来なかった。
それどころか、試験中に騒ぐなんてどういうつもりだ、と、担任でもある英語の松井先生に僕は職員室へと呼び出しを喰らい、昼休み中延々と注意された挙句に今日の居残りを命じられてしまったのだ。
昼食を食べるヒマもなく、五時間目の数学の授業に突入した。間の十分休みに友哉からスポーツバックを取り上げようと思っていたところにもってきて、悪いことは重なるもので数学の授業がその休みに食い込むくらいに延び捲くり、六時間目の音楽の移動教室の帰り道の廊下で松井先生に掴まってしまって、そのまま僕はマンツーマンの居残り英語講習を受けさせられることになってしまったのだった。
「いいか?この五十単語、全て覚えるまでは帰ったらダメだぞ」
松井先生は英語の先生だというのに何処か体育会系だ。口答えしようものならすぐに拳が飛んでくる。顔だってまあまあだし、背も高いし、スタイルだって悪くないし――それでも浮いた噂の一つもないのは、この暴力的な性格によるところが大きいんじゃないだろうか。
「なにぼんやりしている」
言ってるそばから先生の拳が僕の頭に飛んできた。本人軽いゲンコツくらいに思ってるかもしれないが、これが結構痛いのだ。益々頭が悪くなるじゃないか、と思いながらも
「すみません」
と僕は大人しく頭を下げ、目の前のプリントに意識を集中させようとした。
が、どうしても「電動優君」――いつの間に「君」づけになったんだ――のことが気になって気になって――といっても勿論、すぐに使ってみたいとかそういう意味じゃなく(当たり前)、友哉が『なんだよこれ〜』どとクラスで見せびらかしちゃいないかが心配で心配で、はっきり言って英単語を覚えるどころではなかった。

『友哉、それ、どうしたんだよ?』
『桜内んだよ。あいつなんでこんなモンもってんだ?』
『マニアなんじゃねえの?』
『あ、なんかこれ、名前書いてあるぜ』
『電動優君3号……ってことは1号や2号もあるのか?』
『遠隔操作も出来ますだってよ』
『あれ、優って、桜内の兄ちゃんの名前じゃなかった?』
『へー、京の兄ちゃん、こんなブツもってんだ』
『見かけによらず、ぶっといねー』
『それにしてもすげーリアルだな、これ』
『あいつ、こんなもん、何に使ってるんだろうな?』
『なににって…そりゃナニでしょう』
『ええ?兄ちゃんのブツのフィギュアで?』
『近親相姦ホモ?』
『すげー』

あああああ!やめてくれ!と僕は思わず机に突っ伏してしまったのだったが――我ながらなんて長い妄想なんだ――途端に松井先生のゲンコツが頭に飛んできて、僕を我に返させてくれた。
「真面目にやれよ?」
ぎろりと睨まれたものの、人間には出来ることと出来ないことがある。こんなときに集中できる生徒がいたらお目にかかりたい…って、バイブもってる生徒も滅多にいないだろうが。
少しも問題が解けないまま、刻一刻と時間だけが過ぎてゆく。どうしよう――と僕は途方にくれたように教室前方の時計を見つめ――
「げっ」
思わず大声をあげてしまった。
「今度はなんだ?」
松井先生の形相は既に鬼のようだったが、今の僕はそんなことにかまっちゃいられなかった。
なぜなら――時計の針はあと五分で、午後五時を差そうとしていたからである。


       
TOP     NEXT