それぞれ違う大学に入って二ヶ月の葵と秋山。
 授業の合間にはお互いのキャンパスを行き来している二人だが、星城大学に秋山が来た時には、高橋と前原が加わることもしばしば。今日は前原がバイトのため午前中で帰ってしまったので、三人で昼を食べている。

「工藤」
「はい、秋山君」
 葵は、テーブルの端にあったタバスコと塩を一緒に秋山に差し出した。
「サンキュ」
 星城の学食のナポリタンは味が薄いので、タバスコと塩は必需品だ。けれども秋山はここに来るとなぜかそのナポリタンを頼んだ。しかも大盛りで。濃すぎるくらいなら自分で味を調えられるくらいのほうが好きらしい。秋山がかけ終わるのを待って、葵は何を言われずともまたそれらを自分のそばのトレイに戻す。
 その一連の動きを眺めながら、高橋が言った。
「お前ら、そうしてっと、もう夫婦が何かのようなのに、まだ苗字で呼び合ってるのな」
「えっ?」
 秋山と葵が同時に高橋を見た。
「普通、つき合いはじめたら下の名前で呼ばないか?」
 学食人気ナンバーワンのカレーを口に運びながら高橋が言う。
「何で『葵』『周介』とか、呼ばねえの」
 自分は高校のときから『葵』と呼んでいる高橋が、ニヤニヤと笑って葵を見る。
「そっ……」
 葵の顔がみるみる真っ赤になったので、高橋はビックリした。

 男のくせに肌が透き通るように白いから、赤く染まると色っぽさ三割増し。おまけに困ったように長いまつげを震わされたりしたら、葵への恋心は断ち切ったはずの高橋も胸がざわつく。

「困らせるなよ」
 フォークに器用に麺をからめて、秋山がたしなめる。
「い、いや、別に、困らせるつもりじゃ」
 どうして「下の名前で呼ばないのか」と訊ねただけで、こんなに恥らうのか。
 今どきの女には望むべくもない葵の純情ぶりに、高橋は溜め息をつく。そして、そんな葵を手に入れた親友に対して、ジェラシー、ジェラジェラ。

「食後の喫茶代は、秋山のおごりな」
「何でだよ。俺はお客さんだろ」
「誰がだよ」
 チッと舌打ちしつつ、高橋は
(それにしても、何で下の名前で呼ぶのがそんなに恥ずかしいんだ?)
 中華丼の中に二つめのウズラの卵を見つけてちょっと嬉しそうな葵を見て、首をかしげた。





「んっ、あ……周介……」
「葵……」
「あっ、あっ」
「葵」
「だめっ、しゅう…あっ………んんっ」

 ことの起こりは、葵が秋山のアパートに泊まった三度目の夜。
「これ(セックス)んときくらい下の名前で呼んで」
 そう言った秋山に、葵はおずおずと
「……周介」
 吐息のように、ささやいた。

 その愛らしい呼びかけに、秋山は鼻血も出そうな大興奮。以来、セックスのときだけはお互いを下の名前で呼んでいる。

 そしてその日の夜も、秋山のアパートで―――

「葵……かわいい」
「あ……周、介……」
「イっていい?」
 掠れた声で問い掛けて、激しく腰を動かすと
「ぁあっ…周介っ、周介、好きっ、あっ…周介っ」
 悲鳴のように何度も名前を呼んで、肩に爪を立てて精を放つ。ぐったりとした葵をだきしめて、秋山は
「葵の『周介』はもったいなくて、他人には聞かせられない」
 クスクスと笑った。






      いただいたコメント   初々しい二人になっていたかどうか(笑)
      
      ・二人がはじめて下の名前で呼び合うところ
      ・うん、やっぱりこの2人のが一番知りたいかも(笑)。
      ・二人の日常がみたいです!
      ・秋山のヘタレを!
      ・私も名前で呼び合って照れ照れの初々しい2人を見たいです(笑)。
      ・2人のその後(日常)のお話が、すごく気になります
      ・とっても続きが気になります〜!
      ・いたってシンプルな理由ですが、大学生になった秋山と葵の生活をよみたいからw



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