「明日は?」
「だから今週は締め切りで忙しいって言ってるだろ」 

 藤田はネクタイを緩めながら言った。いつもの残業で遅い帰宅をはたしたら、これもいつものように高木がマンションの前で待っていた。そしてこのところ全然外で会っていないから、たまには一緒に飲みに行こうと誘われているのだった。

「じゃ来週の水曜は? 早帰りDAYでしょう」
「接待がはいってる」
「誰の?」
「お前は知らないだろ、新井製作所の社長」
「エルゼの間宮社長とは?」
「会ってないよ」
「嘘ばっかり」
「は?」
「接待で会うって自分で言ってましたよ、このあいだ」
「ああ、まだ日にちが決まってないんだよ。だから、まだ会ってない」
「会う時は、一対一で会っちゃダメですからね」
「何言ってんだ」
 藤田の冷たい返事に、高木はふうっと溜め息をついた。
「俺、やっぱりジャパンマリンに入社するのやめようかな」
 突然の高木の言葉に、藤田はほんの少し目を瞠った。
「何だ。内定辞退するのか」
 口許を歪める。
「…………」
「残業続きで遊ぶ暇もなくて、一年中数字に追われて、ストレスもたまって、接待で肝臓壊すような営業なんてやりたくないか」
 藤田は自嘲気味に言った。
「違いますよ」
 高木は、スーツの上着をハンガーにかける藤田の背中をそっと抱いた。
「ジャパンマリン入るより、俺が会社興して社長になって、藤田さんにバンバン契約してやったら、俺のことも接待してくれんのかなあって」
「高木」
「何億でも契約しますよ」
 うなじに口付けながらささやく高木。たくましい腕が藤田の腰を絡めとる。いつもなら「ふざけんな」と突き飛ばす藤田だったが、
「バカだな、高木」
 フッと笑った。
「藤田さん?」
「お前、何億も保険掛けられる大企業の社長になったら、俺のことヘッドハンティングしろよ。もちろん役員待遇で」
 藤田は、今日の会議の席で臨席した役員が好き勝手言っていたのを思い出してクスクスと笑う。
「藤田さん……」
 高木は、腕にそっと力をこめた。
「……なんか、疲れてんだよ、俺」
 ポツリと呟いた藤田に、高木は不心得にも
(大チャンス)
 心の中でガッツポーズ。
「藤田さん」 
 三回目の呼びかけで、唇を重ねようとしたら
「やっぱ、風呂やめて寝るわ」
 藤田はくるりと踵を返し、スラックスも脱がずにベッドに倒れこんだ。
 そのまま、グーグーといびきをかいて寝る。
「ええっ、ちょっと、藤田さん」
 そのまま叩いてもゆすっても、藤田は起きなかった。

 中間管理職藤田課長、三十三歳。お疲れの夜。
 
      いただいたコメント   >ぜんぜん、答えていませんね(笑)

     ・藤田課長の久々の働く姿が見たいです。
     ・藤田課長、潔く高木とラブラブになって!渡来がチャチャを入れるのもありで。
     ・愛のトライアングルバトルの加熱っぷりが見たいですv
     ・藤田課長がかっこよく仕事を解決していくとことか見たいです☆
     ・藤田課長のモテ(遊ばれ)っぷりをぜひ!




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