ご感想いただいた方へのお礼SSでした。

「んっ…」
触れるだけの優しいキスでも、感じやすい万里の身体には簡単に火がついた。
けれども、もう一度唇を重ねてきたアンジェロを、万里は片手で突っぱねた。
もう片方の手で唇をガードして、
「ずるい」
恨めしそうに睨みつける。
「アンジェロ……喜美子姉さんと」
「何でもない」
アンジェロは、万里の言葉を遮ってきっぱりと言った。
「キミコとは、何も無い。今日ホテルにいたのは、俺がチェックインするのにキミコが付いてきただけだ」
「何で、ホテル……?」
うちに泊まっているのに、どうしてホテルにチェックインするのか――と目で責めると、
「だって、マリ、こういうこと家じゃできないだろ」
アンジェロの指が、するりとTシャツの下に滑り込んで、胸をまさぐった。
「あっ、や…」
突起を押しつぶされるようにして、万里はビクリと身体を震わせた。
アンジェロは、耳朶に口づけながら囁く。
「部屋をとったら、マリをさらってくるつもりだった」
「んっ…」
耳元への甘い刺激に身体が痺れて、万里はぎゅっと目を閉じた。
「マリ…」
「やっ、ダメ…」
万里は精一杯の抵抗をする。
「だ、だって、喜美子姉さんと、キスしてたじゃないか」
痛いところを突かれて、アンジェロは、圧し掛かっていた身体を離した。
「あれは、冗談だよ」


その言葉に万里は少なからずショックを受け、キッとアンジェロを睨んだ。
「そうなんだ……アンジェロって、冗談でキスできるんだ」
「マリ?」
イタリアにいたときから気になっていた。
アンジェロを見つめるたくさんの女性の目。
そして、繰り返された挨拶のキス。
それが、挨拶で、冗談で、というのなら、自分とのキスだってどこが違うといえるのだろう。
「そうだよね。生まれた時から、キスなんて、挨拶がわりだもんね」
今までアンジェロがキスした相手全てに嫉妬する。
「僕は……」
万里は、片手で唇を覆った。
「僕は、嫌だ……」

―――アンジェロに、他の人とキスして欲しくない。

うつむいて言葉に詰まると、アンジェロが静かに言った。
「わかった」
「えっ?」
「もうしない」
「?」
「この先、マリ以外の誰とも、キスしない」
「そ、んなの、無理だよ……」
おずおずと顔を上げる。
「無理じゃない。マリとしかキスしない。一生、マリの唇しかいらない」
「アンジェロ……」
とたんに万里は恥ずかしくなる。アンジェロのいつものヤツだと思っても。
それに、これじゃ、自分がわがまま言っているみたいだ。
「本当、ずるいよ……」
優しく変わった万里の口調に、アンジェロはほっとして再び身体を寄せていく。
指先はいたずらにシャツを捲り上げる。万里の声がうわずる。
「だ、から…こんなとこで……」
アンジェロの唇が胸の突起を優しくくすぐる。
「んっ」
万里は、一瞬息を止め、背中をしならせた。
アンジェロの髪に手を入れ、
「ダメだって、誰か、人が……」
形ばかりとしか見えない抵抗。
アンジェロは、すっかりその気になっている。
「誰も来ない」
「あ、ん…っ」
喧嘩の後だからなのか、万里もいつも以上に感じやすく、そしていつも以上に大胆だった。
思わず膝を立てて足を開きかけた時、

ガサッ

すぐそばの茂みが動いた。

ビクッと身体を固くした万里。
アンジェロはムッと振り返る。
「何だ?」
「な、なんだろう…」
視線の先、はるか遠くを白い猫が走っていた。
「何だ、猫か」
ホッとした万里。忌々しそうに舌打ちするアンジェロ。
正気に返って万里は、辺りの暗さにはっとした。
「ちょっ、ちょっと、今、何時?」
「えっ?」
すっかり普通モードに戻っている。
「えっ、もうこんな時間っ?」
驚いて大声出す万里に、アンジェロも大事なことを思い出した。
「あ、そうだ。マリを見つけたら、電話するんだった」
ポケットから、勇人の携帯を取り出し、
「マリ、する?」
アンジェロが差し出したけれど、
「たぶん、出るの喜美子姉さんだから」
万里はフルフルと首を振る。やっぱり、姉は苦手なのだ。
「じゃあ」
アンジェロは、教わったボタンを押して、相手が出たとたん万里を振り向いた。
「お父さんだ」
「えっ?」
「替われって言ってるみたいだ」
「あ、もしもし、お父さん?」

『この馬鹿モン! みんなに心配かけてっ! さっさと帰って来いっ』

「すごい怒ってる」
「ま、当然だな」
「うん」
連絡もせず、野外エッチになだれ込もうとしていた自分たちをちょっぴり反省する二人。

「ほら」
先に立ち上がったアンジェロが右手を差し出す。
万里は黙ってその手を取る。
力強く引っ張られて、そのまま胸に倒れこみそうなる。
「気をつけろよ」
「アンジェロが引っ張ったんじゃないか」
「暗いから、足元」
「…うん」


「あ」
不意に万里が声を出す。
「何だ?」
「何で冗談でも姉さんとキスすることになったのか、聞くの忘れてた」
「ああ、それは…」
「後でいいよ」
「何で?」
「だって、せっかくこうして手をつないで歩いてるんだから」
「そうか」
「でも、あとでちゃんと言い訳聞かせてもらうからね」
「はい」

そして二人は、上村の家までゆっくりゆっくりと歩いた。








と言うようなことがあったのでした。
す、すみませーん。こんな話で。
砂は十分出ましたか?




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