フジテレビ開局45周年記念「白い巨塔」を見て、突然医者萌え。 しかしながら白い巨塔と何にも関係ないギャグ。 * * * 「癌かも知れない…」 「何とおっしゃいました?」 実父の後を継ぎ大手ゼネコン鹿間建設代表取締役に就任したばかりの若社長、鹿間公彦の呟きに、第一秘書藤原はおもむろに眉をひそめた。 鹿間は、筋張った大きな手で口許を覆い隠すと、苦渋にしかめた顔で先日受けた人間ドッグの通知を出して見せた。 「見ろ」 「再検査のお知らせ?」 「胃にポリープがあるというんだ」 鹿間の沈痛な呟きに、藤原は黙ったままジッと検査表を見つめた。 鹿間は革張りの大きな椅子に長身を沈めると、 「せっかくクソジジイから社長の椅子を奪い取って、さあこれから好き放題だというときに、癌が見つかるなんてっ」 悔しそうに、クルクルと回った。 「社長、椅子がいたみますからやめて下さい」 「そんな安物の椅子じゃない」 クルクルクル…… 「わかりました。社長の目が回るから、おやめください」 ピタ 「心配してくれたのか」 「はい」 椅子は上等だが人は安物だという嫌味までは伝わっていない。 「この若さで、社長就任直後に亡くなったりしたら、世間がさぞ同情してくれるだろうな」 「…そんなこと」 「我社は、どうなるんだ」 「株価は、上がるでしょう」 「は?」 「いえ、何でも」 「藤原、本当に僕のことを心配してくれているのか?」 「もちろんですよ。でも、ご心配なさるほどのことでは無いでしょう。癌ではありませんよ」 「何で、そんなことがわかる」 「その他の値が全く問題無しでしょう。白血球の数も正常です」 「成城でも田園調布でも、僕が癌じゃないという証拠は無い」 「だから、精密検査を受けるように言われているのでしょう。さっさと行ってらしてください」 「ううう……」 東都大学病院第一外科、我妻教授室。 重厚な扉が音高くノックされた。と、同時に涼やかな声が室内に届く。 「お呼びでしょうか」 「入りなさい」 教授の応えに扉を開けて入って来た白衣を着た美しい若者を見て、鹿間は驚いたように腰を浮かせた。 「榊原先生」 先生と呼ばれた若者は、鹿間を見て怪訝な顔をした。我妻教授が取り成すように言う。 「こちらは、あの鹿間建設の鹿間社長だ。社長、彼が…」 「有名な、東都大学第一外科の榊原雅雪助教授ですね。失敬、まさかこんなにお若い方だとは、思いもしませんでした」 自分も大手ゼネコンの社長と呼ばれるには、若すぎるほど若いという事実を棚に上げて、鹿間はソファに座りなおすと、ニッコリ微笑んだ。 榊原は、相手が特診(VIP)だと聞いて慌てて生真面目なお辞儀をし、進められるまま鹿間の向かいに座った。 退官近い老教授は、一見温厚そうな顔で、自分の片腕と称されている助教授に言った。 「ぜひ君にオペをしてもらいたいとおっしゃってるんだよ」 「私、ですか…」 榊原は、満更でもない表情を出しかけたのを押し隠し、ほんの少し気難しい表情を作った。その顔に鹿間は、胃ではなく胸をえぐられた。 「可愛い…」 「「はい?」」 白衣の二人がハモって聞き返すのを 「ゴフッ、ゴフゴフッ」 鹿間は空咳でごまかした。 教授が何を取り違えたのか 「いや、鹿間社長、榊原君はこう見えても日本で三本の指に入る」 名外科医だと続けようとしたのだが 「三本!」 鹿間が嬉しそうに叫んだので、言葉を途中で飲み込んだ。 (二本、三本の、指が入る……) 鹿間の、普通にしていれば男らしく端正な顔が、いやらしい妄想で蕩けるようにゆがんだ。 「…慣れて…いらっしゃるんですね」 鹿間の切れ長の目がきらりと光る。 「えっ、ええ…」 オペのことかと勘違いした榊原。 「一応は…経験を積んでいますから」 医者としてのプライドがつい口を滑らせた。 「結構」 鹿間は長い脚を組替えた。 「バージンじゃないと嫌だ、などと言う男ではありませんよ、僕は」 我妻教授も榊原も、よくわからないが、アメリカンジョークか何かだと思って笑った。 アメリカ人に失礼だ。 「榊原先生にオペをしていただけるなら、これほど嬉しいことはありません。よろしくお願いします」 差し出された大きな右手を握り返し、 「全力を尽くします…っ」 その手がなかなか離れないことに戸惑う美貌の医師榊原。 「尽くしてくれるんですね」 妄想膨らむ若社長鹿間公彦。 そのころ鹿間建設社長秘書室では、 「この、社長の『東都大 第一外科 緊急オペ』というのは何だ?」 藤原が社長のスケジュール表を見て大声を上げた。 「えっ?藤原室長が入れられたのでしょう? 極秘の大切なオペだと社長がおっしゃっていましたが」 自分で『極秘』と言う割にいたる所でうれしそうにペラペラしゃべっていた、と第二秘書の水島が言う。 「良性ポリープの再検査だろう?胃カメラでいいじゃないか、何で唐突に外科なんだ」 「さあ…そういえば、先日テレビで『白い巨塔』を見た、とかおっしゃっていましたけれど…」 水島の言葉に、藤原は頭を抱えた。 「室長?」 心配そうに水島が顔を覗き込む。 「いや、いい」 藤原は、すぐに立ち直った。 「チャンスかもしれない…まともな仕事に戻れる」 「はあ…」 そうして、勘違いから知り合ってしまった大ボケ若社長鹿間と若き美貌の医師榊原の恋物語が始まる。のか?? |
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