突発SS《チャンピオン》
[背景]
某所BBSで「ありすのチャンピオンでも萌える」とカキコしたところ
れなちゃんに「えっ、だってあのボクサーってトシじゃないの?」と言われたことで、もぐもぐの萌えを証明(笑)
ちなみにトシはトシちゃんにあらず。年寄りの意味 >当たり前。
キャラは『ちばて○や』で想像くださ……バキッ☆





*  *  *


―――強い男が好きだ――――
初めて、彼に抱かれた夜、俺はそう言った。


「あっ、っ…も…っ…」
ホセの固く引き締まった腹に自分自身を擦りつけるようにして、何度目かの絶頂を迎える。それと同時に、ホセも堪えかねたように、俺の中でその精を吐き出した。
「あ……」
「ヒロ……」
焦点の合わない瞳に、ホセの端正な顔が近づくのがうっすらと見えた。
ホセの乾いた唇が俺の顔に優しく落とされる。
行為の後、ホセは、俺の左の瞼に口づける。
それは、もう何年も繰り返された儀式のひとつだ。
繰り返される口づけに、その切ないほどの温かさに、胸が締め付けられて……
俺は、見えない左眼から一筋の涙を零す。


ホセ・モラレス―――WBA世界バンタム級チャンピオン。
二十年近く世界の王座に君臨し続けている男。
五年前、俺は東洋バンタム級チャンピオンとして、この男に挑戦した。
デビューしてから無敗の俺には、若さゆえの驕りもあった。
ホセとの試合に対しても慢心していなかったといえば、嘘になる。
けれど、俺が負けたのは、決してその慢心や油断の所為ではない。

ホセは―――強かった。圧倒的に、強かった。

マットに沈みながら俺は、自分のボクサーとしての人生が終局を迎えたことを予感した。

ホセの右ストレートを受けた俺の左眼は、視力を失った。
手術を重ねても視力が戻る保障は無い。何より、二度とボクサーとして試合に出ることは出来ないと言われた俺は、あっさりと左眼を捨てた。
マットに立てない俺に、片方の目などあっても無くてもいい。
そして、左眼を捨て、自分自身を捨て、ボロボロになった俺の前に、彼は現われた。
ホセ・モラレス―――WBA世界バンタム級チャンピオン。

憎かった―――俺の左眼を奪った男。俺からボクシングを、人生の全てを、奪った男。
憎くて、殺したいほど憎くて―――そして、その狂おしいまでの憎悪と同じくらいに、俺は彼に惹かれていた。
ボクシングを始めたのも、ホセの試合を見たからだった。
野獣のようなしなやかな動き、そして、一瞬にして勝負を決める上質の殺し屋のような腕。

誘われるまま彼のあとについて行き、俺の貧相な裸体を彼の下に晒した時、俺は言った。
「強い男が好きだ――」
彼は、俺を組み敷いたまま、狼が牙を覗かせるようにニヤリと笑った。
「それなら、ずっと、俺を好きでいろ」


* * *

「ヒロ……どうした?」
俺の左眼からこめかみに伝う涙に口づけながら、ホセが囁く。
「ホセ」
俺は、たまらなくなって、ホセの頭に腕を伸ばして引き寄せると、貪るように口づけた。
舌を絡ませ、きつく吸い上げると、ホセの舌も熱く応えてくる。上あごを舐め、歯列の裏を愛撫し、互いに唾液を絡ませる。
「んっ、うっ……ふ」
ホセの右手が俺の胸を弄る。
「綺麗だ、ヒロ……」
唇を離したホセが呟く。ゆっくりと、俺の裸の胸に指を滑らせながら。
「日本人の男は歳をとらないというが……本当に、お前は……初めて会ったときから……変わらず、すべらかで美しい」
「ホセ……」
俺も、ホセの身体に指を這わせる。
「ホセも……変わらないよ……」
俺の言葉に、ホセは小さく笑った気がした。
目の端に、昨日の新聞がうつる。
あれには、今日の、ホセの防衛戦の記事が載っていた。

カルロス・ジョファン。二十歳。俺がホセに挑戦した時よりも、まだ若い。
どの新聞も、カルロスの優勢を報じていた。
半年前のホセの防衛戦。危ういところで防衛したホセを地元の新聞は、こう評した。

《牙を失った狼》

――かろうじて王座は守ったが、往年の切れも冴えも無い。年老いた狼――

ホセの年齢の所為ではない。三十代後半で、なお王座に輝いたチャンピオンは他にもいる。
ホセの牙が、失われたとすれば―――それは―――。

五年前、俺と身体を重ねてからあと、ゆっくりとホセは変わっていった。
激しく奪うように俺を抱いていた腕が、いつからだろう、酷く優しくなったのは。
いつからだろう、彼が、俺の左眼に口づけるようになったのは。
『悪かった……』
俺の左の瞼にキスして呟いたあの時から、試合にも、少しずつ殺気が失われていった。
「ヒロ……」
ホセが囁く。
「ホセ……」
俺は腕を伸ばし、その整った顔を両手で包む。
初めて会ったときからは考えられない優しい瞳が、俺を見つめる。
「愛している」
愛している―――この言葉を繰り返すたびに、俺はホセの牙を、爪を奪っていったのだ。
それは、失われた俺の左眼の代償?
「愛している……ホセ」


* * *


試合が始まる。
テーピングされたホセの両手に、ゆっくりとグローブをはめていく。
これも、何度も繰り返された俺達の儀式だ。
「ヒロ」
試合前に、珍しく口を開いたホセに、俺の心臓は跳ねた。
次の言葉を待つ……
いや、待ってなどいない。聞きたくない。

俺は―――。

「いや、何でもない」
ホセは、急に立ち上がって、白いローブを纏った背中を向けて、扉の外に出た。
「ホセ……ッ」
俺は、思わず腕を伸ばした……







(そしてここで『チャンピオン』が流れる)

        何を考えていたのでしょう?
        そしてこれは、れなちゃんに対してなんの証明になったのでしょう(笑)



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