突発SS《オークスに行こう!!》

[背景]
競馬好きもぐもぐが、れなちゃんはじめ五人もの友人を引き連れ東京競馬場を案内することになった前日の勝ち馬予想SS
ちなみに、当日来た五人が五人とも新聞を持っていないので「あんたら、なめとんのかい!」とトキノミノル像の前で私は叫んだ。和亀の四人でお届けします。






*  *  *


このところ降ったり止んだりを繰り返していた天気が、ようやく落ち着いた五月の第三日曜日。
海堂と高遠は二人でおそろいの新聞を覗き込んでいた。そこに、三好と上田がやって来る。
ここは東京競馬場。メインレースの『オークス』まではまだまだ時間があるお昼時間。
スキー場の事件以来、妙に競馬にはまってしまった三好に誘われて、四人は高校生の分際で競馬場に来ていた。そして、高校生の分際で……
「ビール買ってきたぜぇ」
相変わらずの三好。
「お弁当も買ってきたよ。ゲソ揚げもあるよぉ」
上田が、両手いっぱいの食料を高遠に渡す。
「サンキュー」
「どうだ?予想はついたか?」
三好が座りながら、二人が見ていた新聞(サンスポ)を覗き込む。
「うーん」高遠が困ったような顔で「よくわからないけど。それよりここに、学生は勝馬投票権を購入できないって書いてあるぞ」
これも相変わらずの小心者ぶり。
三好はその高遠のひどく真面目な顔を見詰めて呆れた声を出した。
「お前、何言ってんだ。今さら」
「そうだよ、高遠君。これは、嘘なんだから気にしちゃダメだよ」
上田が、坊ちゃん顔で明るく言う。
「嘘?」
「そうそう。だって学生が買わなかったら、馬券の売上半減しちゃうよ。JRA困っちゃうじゃない。国だって売上の三分の一取ってるんだよ。国庫に入るお金が減っちゃうんだから」
「上田、物知りだな」
海堂が、感心した。
「だから、皆で国を買い支えよう!」
「おう!」
(買い支えるって言っても、高校生の小遣いじゃ知れているのでは……)
盛り上がる三人を見て、高遠はまだ冷静だった。
「で、海堂。何からいくんだ?」
三好が尋ねる。
「ブリガドン。名前が面白いから」
「『鰤が丼』じゃねえぞ。なまるなよ。ブリガドーンだ」
「ドーン、でも面白いぜ。どういう意味なんだ?」
「お前、ブリガドーンの名前をナメるなよ。ブリガドーンってのはなぁ」
三好が真剣に海堂を見詰めて言った。
「スペイン語で祈りって意味だ」
「そりゃ、オラシオンだろっ」
「サンキュー高遠!ナイス突っ込み」いや、だれも知らなかったら自爆突っ込みしないといけないところだったぜと、三好は汗を拭く真似をする。

「高遠君は? 本命はどの馬にしたの」
上田の言葉に、高遠は真剣に新聞を見ながら応える。
「考えたんだけど、七番のマイネミモーゼかな。使っているレースが全部千八以上だろ。長い距離が向いているのかと思って」
「高遠にしては、考えたな」
「俺の! 俺の!」
海堂が開いた新聞を握り締めて、高遠に寄り添ってはしゃぐ。
「俺のブリガドーンも、全部千八以上だぜ」
「あ、ほんとだ」
気がつかなかったと微笑む高遠を、海堂は少し頬を染めて見上げると嬉しそうに言った。
「俺たちの馬で、決まりだな」
(いつから、お前らの馬だよ)
三好は、内心突っ込んだ。


「僕はねえ」
海堂、高遠ペアのラブラブモードに動じない上田が自分の新聞を広げて言う。
「五番のブルーリッジリバー」
「結構、使い込んできているやつだな。キツイんじゃねえの」
「調教タイムが、凄いんだよ。上がり三ハロン36.9」
「調教で言えば、六番、八番も良さそうだけどな」
「うん。八番のキョウワノコイビトは、府中に強いトニービン産駒だからね。気になるよ」
上田、三好、いつのまにか競馬オタクに。

「で、三好の本命は?」
高遠とイチャつき終わった海堂が、小首をかしげて訊ねると、三好は唇の端を上げ、キラリと目を輝かせて応えた。
「十五番 ビューティーマリオン」
「ひいっ?」上田が変な叫び声を上げた。
「……ダート馬だよ?しかも500万クラス」
恐る恐る上目遣いに尋ねる上田に、三好は勝ち誇ったように言った。
「馬主が、唯一の女。オークスは女の祭りだからな」
「……せめて、ワイドにしといたほうがいいよ」


       はい、次の日しっかり外しています。




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