宮崎といえば、スコールだ。 毎日、夕方の決まった時間になると、大雨が降る。 原住民は、その雨を神の恵みと呼ぶ。 雨が降ると、みな家から出て、天を仰いで踊る。 『野生の王国』風にナレーションしてみたが、『野生の王国』を知っている人間が果たして何人いるだろう。 それ以前に――― 「それは、間違っていると思うよ」 駿に言われて、頭を掻いた。 「そうよう。宮崎といったら、やしの木なんだから」 ジルも、腰に手を当ててえらそうに言う。 「いや……」 俺たちの後ろから、低い声がした。 「宮崎といったらハヤ○だ」 ナウ○カの音楽をバックに流しながら、スーツ姿の男が現れる。 旅行代理店の藤田課長だ。修学旅行の引率に必ず付いてまわるという無類の修学旅行好き。 いや、高校生好きと言う噂もある。って、どこで噂だ? 「この間の金曜ロードショウの《千と千尋の神○し》は見たかい?」 「見ました」 「うん」 「見た」 「ちくしょおおおっ!!」 突然、藤田課長は拳を握った。 「俺だって見たかったんだ。見るつもりだったから、ビデオも撮ってなかったんだ。なのに、夕訪同行なんか入れてきやがってHの野郎っ……!」 ああ、思いっきり実話だ。 営業って大変だなと、サラリーマンに同情したところで、後ろから不穏な気配がした。 「ちがうな、藤田」 「うっ、渡来、どうして?」 「お前が、修学旅行の引率に添乗するって聞いて、先回りしておいたのさ」 「人事部の仕事は、どうした」 「この時期は、ヒマなんだよ。それより、藤田、宮崎といえばハ○○だ」 「だから、ハ○オ」 「ぶっぶ――っ」 「あっ、わかった!」 駿が手を打った。 「ハニワ」 「ぴんぽん♪ぴんぽん♪ぴんぽ―――ん♪続いて第二問です」 なんだ、この展開は? 「縄文式の土偶は、赤んぼ少女タマミちゃんにそっくりですが」 それ、誰だよ? 「宮崎県の西都原(さいとばる)古墳のハニワは誰にそっくりでしょう!」 「ええーっ?」 「知るかよ」 「マッキー?」>笑 「それじゃあ、ヒント」 渡来というヤツが重々しく言った。 「……NHK」 つられて、思わず答えてしまった。 「おーい、ハニ丸?」 「ぴんぽん♪ぴんぽん♪ぴんぽ―――ん♪」 「ええーっ、ずるーい、そんなのっ」 「そんなの、似てるって言いませんよね」 「渡来、それ、つまんねえよ」 くだらないクイズで大騒ぎしていると、突然後ろから低い声がした。 「お前ら、うるせえんだよ」 振り返ると、学ランを肩にはおった背の高い男。 何故か、口に笹の葉のような葉っぱをくわえている。三十年くらい前の、番長だ。 案の定、その男は言った。 「俺の名前は、サボテン番長。宮崎じゃ、ちょっとは知られた男さ」 後ろには、舎弟らしい連中が並んでいる。 「修学旅行生だな。ちょっと遊んでやろうか」 「にっ、逃げろ」と、皆を逃がして、自分ひとり残った。 「にっ、逃げろ」と、自分一人で、逃げた。 |