京都といえば、太秦だ。 そして太秦といえば、紛争写真館。 扮装だろ? と、突っ込まないでくれ。まさに、ここは紛争写真館になっているのだ。 「ねえ、XX。僕の方が、きれいでしょっ!」 舞妓さんの姿のジルが、両手を腰に当てて仁王立ち。 その横で、同じく舞妓姿の駿が、泣きそうな顔で俺を見る。 「ねえ!どっちが綺麗かはっきり言ってよ」 ジルは、赤い唇を尖らせた。 こ、困った……。 いや、実は答えは出ているのだけれど、どう答えても、もう一人を傷つけるじゃないか。 俺は、実はこれでフェミニストなんだ。 って、相手は男だったか。 俺が困っていると、写真館の奥からもう一人舞妓さんが出てきた。 「おまえら、まだまだなんだよ」 「あっ!」 その舞妓は……!! 「梅若先輩っ」 自前の長い髪で綺麗に日本髪を結った梅若先輩が現れた。 「っていうか、先輩、なんで俺たちの修学旅行に来ているんですか?」 「俺ってば、去年、学校来てなくてダブってんの。何で知らないんだよ」 ああ、そうだった。 去年の夏、富山旅行の途中で、突然姿を消した梅若先輩。 神隠しに遭ったとか、イタコ修行の旅に出たとか、いろいろ噂は出たけれど。 「戻ってきていたんですねえ」 「知ってろよ!」 とかなんとか、騒いでいたら、突然後ろから声をかけられた。 「楽しそうじゃねえか」 振り返ると、学ランを肩にはおった背の高い男。 何故か、口に笹の葉のような葉っぱをくわえている。三十年くらい前の、番長だ。 案の定、その男は言った。 「俺の名前は、生八つ橋番長。京都じゃ、ちょっとは知られた男さ」 後ろには、舎弟らしい連中が並んでいる。 「修学旅行生だな。お前ら。ちょっと遊んでやるぜ」 「にっ、逃げろ」と、皆を逃がして、自分ひとり残った。 「にっ、逃げろ」と、自分一人で、逃げた。 |