さすが『学園』――修学旅行が海外なんて、ふるっている。 出国待合室で隣に座った巳琴に声をかけた。 「成田じゃなくて羽田から飛ぶなんて、なんか、ハワイって身近な感じだよな」 巳琴は、メガネの奥のつぶらな瞳を見開いた。 「あ、知らなかったんだ?」 「なに?」 「ハワイってもともと日本だったんだよ」 なに?? 「でもね。戦争に負けて、アメリカにとられちゃったんだって。それで、何とか日本に返還して欲しくて外務省も必死なんだけど、アメリカが手放さないんだって。ハワイを日本に返したら、ビーフジャーキーが日本の特産物になっちゃうから嫌だって。でも、ハワイの人は日本に帰りたくて、抗議運動を続けているらしいよ」 「巳琴……」 「だから、ハワイの人は、みんな日本語しゃべれるから大丈夫だよ」 にっこり笑う巳琴に訊いた。 「それ、だれから教わった?」 「兄さん」 不憫だ。 本当の事を教えてやったら、きっとこいつは、いつも持ち歩いている日記に恨みつらみを書き連ねるに違いない。 「おい、巳琴」 「なあに?」 「今の話は、絶対に他のヤツにはするな」 俺が声をひそめると、巳琴はおびえた顔をした。 「ど、どうして?」 「今の話は、実は、国家的極秘情報だ。何で、お前の兄ちゃんが知っているのか謎だがな」 そして、だったら何故、俺も知っている。 「うかつにしゃべると、FBIにさらわれるぞ」 「そうなんだ……」 巳琴は真剣な顔でうなづいた。 今日のあいつの日記は、これに決まったな。 そして、はるばるきたぜ、ハワイ。 空港を出たとたん、後ろからレイでのどを締め付けられた。 「だっ、誰だ?」 振り向くと、学ランを肩にはおった背の高い男。 何故か、口に笹の葉のような葉っぱをくわえている。三十年くらい前の、番長だ。 案の定、その男は言った。 「俺の名前は、マカデミアナッツ番長。アラモアナショッピングセンターじゃ、ちょっとは知られた男さ」 後ろには、舎弟らしい連中が並んでいる。 「修学旅行生だな。お前ら。ちょっと遊んでやるぜ」 「にっ、逃げろ」と、皆を逃がして、自分ひとり残った。 「にっ、逃げろ」と、自分一人で、逃げた。 |